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INTERVIEW − 関谷友貴[TRI4TH]

  • Interview:Kengo Nakamura

悪魔に魂を売って(笑)、
マグネット・ピックアップを付けました。

━━今回カバー曲でアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの「Moanin‘」を取り上げてますが、この曲を選んだ理由は?

 今作は普段ジャズを聴いていない層の人にも届けたいというコンセプトがあったんですが、「Moanin‘」はアニメの劇中で使われていたりして、数あるジャズ・スタンダードのなかでも、かなり知名度の高い曲だと思うんです。それを普通にカバーするんじゃなくて、TRI4THらしいスカのエッセンスを入れて、お客さんに踊ってもらえるようなサウンドを作ってみようと。

━━この曲は“ジャズ”なアレンジとTRI4THらしいアレンジを行き来しますが、定位で思いっきり遊んでますね。

 そうなんですよ。“ジャズ”のセクションはアート・ブレイキーにどこまで近づけられるか研究して再現したんです。そうしたらエンジニアの渡辺省二郎さんが自然と定位で遊んでくれました。当時の彼らが使ってたリヴァーブとかも使って“ジャズ・メッセンジャーズに近づけておいたよ”って(笑)。これ、“ブラインド・テストしたらわからないんじゃないかな?”っていうくらいのアレンジになっています。

━━TRI4THでの関谷さんのプレイは、ウッド・ベースだけどエレキのようなフレージングがあったり、ウッド・ベースで歪ませたりと、かなり攻めていますよね。

 僕はもともとエレキ・ベースからスタートして、エレキでアメリカに留学してジャズを勉強したんです。その後、2009年にニューヨークのオフ・ブロードウェイ・ミュージカルへの出演が決まったときにTRI4THに加入して、そのタイミングでウッド・ベースを始めました。ミュージカルの仕事って、エレキ・ベースとウッド・ベースの両刀なのが必須なんですよ。TRI4TH加入の前に1年くらいサポートの期間がありましたけど、そのときはまだエレクトリック・アップライトを使っていましたし、ウッド・ベースをやり始めたのはここ10年くらいなんです。それまでは“絶対にウッド・ベースはやらない”って拒否していたんですよ。

━━というと?

 アメリカでエレキも学んだし、僕は“エレキ1本と作曲でやっていく!”って思っていました。ただ、アメリカに行って仕事をするのがひとつの夢だったので、オフ・ブロードウェイ・ミュージカルでそれが叶うということで、“じゃあウッド・ベース始めます”って方向転換して(笑)。またTRI4THというバンドが、僕がアメリカで学んできた音楽とは違うジャズを演奏していたので自分の音楽家としての可能性が広がるなとも思いましたしね。というわけで僕、ウッド・ベースは誰かに師事していたとかもなく、我流なんですよ。

━━LAMAやバークリーではエレベ1本だったんですか?

 そうです。バークリーの同級生にはエスペランサ・スポルディングとかもいて、“絶対敵わないな、じゃあエレキを頑張ろう”って思っていました。だからこのバンドに入ってアメリカで仕事をするっていうのは人生の転機でしたね。

━━そしてバンドに入ったら今度は、“ここでエレキは弾かないぞ”と(笑)。

 そうです。TRI4THはヴィジュアル面でもサウンド面でもウッド・ベースが合っていたし、必要とされていたので、これ1本に絞ってずっとやっています。バンドもはじめは小さいジャズ・クラブとかでやっていたんですけど、段々規模感が大きくなっていって、ライヴハウスでもやるようになっていったんですね。最初に使っていたウッド・ベースのピックアップはすごく貧弱で、ライヴハウスでやるとハウってたんですよ。それでとりあえずウィルソンの一番ハウリングに強いピエゾのピックアップを付けて数年やっていたんですけど、それでも負けるなって思って、悪魔に魂を売って(笑)、マグネット・ピックアップを付けました。そこから“これだったら全然歪ませられるじゃん!”と思ったんですよ。とりあえずウッド・ベースの概念は置いておいて、自分がエレキ・ベースで培った知識や経験をウッドに落とし込んだら、まだ誰もやってないことができるんじゃないかなと。それでお客さんをもっと楽しませて、もっと盛り上げられるんじゃないかなって思って歪ませるようになりました。

ライヴでのメイン・ベースは、デビット・ゲイジのチェコ・イーズ。通常のウッド・ベースと比べて、ボディ下部を大胆にカットしつつも厚みを持たせることで、“鳴り”を損なうことなく、可搬性を向上させている。ピックアップはTRIPPER、EMGという2種のマグネット、ピエゾに加え、Ear Trumpet LabsのNADINE(コンデンサー・マイク)を取り付けている(TRIPPERとEMGは一度にはどちらかしか使用しない)。

━━ 一方、関谷さんが参加している、三味線や島唄とジャズを融合させたバンド“黒船”ではエレキ・ベースを弾いているんですよね?

 そうです。完全にTRI4THとはセパレートしています。

━━“黒船”はどういう経緯で始まったバンドなんですか?

 アメリカに留学してジャズを勉強していたんですけど、帰国して、意外と日本の音楽を知らないなっていうことに気づいてしまったんですよ。同時に、もともと日本に素晴らしい音楽があることにも気づきました。僕がアメリカでジャズをやるというのは、例えばアメリカ人が日本で演歌を歌うみたいなことだと思うんです。日本人が日本で音楽をするための意味を考えていたときに、ちょうど津軽三味線奏者のはなわちえさんや、吉田兄弟のサポートをさせてもらう機会があって、それでいつか自分もこういうプロジェクトをやりたいという思いが強くなったんです。

━━TRI4THとはまったく違うテイストですよね。

 そうですね。TRI4THで僕のことを知ってくれている方は、黒船を聴いたら別の人だと思うんじゃないかなっていうくらい違うことをやっています。でもどちらも僕の目指したいサウンド。逆に、このふたつができていることで自分のバランスが取れているのかなと思っています。

【お知らせ】
10月17日発売のベース・マガジン11月号にも関谷のインタビューを掲載! レコーディングで使用されたウッド・ベースやエフェクター・ボードも紹介。BM webとは違った内容でお届けします!

◎Profile
せきや・ともたか●1981年9月5日生まれ、大阪府出身。14歳のときにブラスバンドで演奏していたバリトン・サックスからエレクトリック・ベースへ転向する。高校卒業と同時に渡米しLAMA(現Los Angeles Collage of Music)に入学。 ジミー・ハスリップやフィル・チェンらに師事する。20歳のときにLAで初のリーダー・アルバム『footprints』を録音。その後バークリー音楽大学でジャズ作編曲を学びながら、在学中に数多くのライヴやレコーディングに参加する。2009年、TRI4THに加入してウッド・ベースを手にし、ニューヨークのオフ・ブロードウェイにて、三谷幸喜作・演出のミュージカル“TALK LIKE SINGING”に参加する。2012年には、井上鑑、山木秀夫らが参加した2枚目のリーダー・アルバム『Live at Last Waltz』をリリース。TRI4THのほか、津軽三味線や奄美島唄とジャズを融合させたバンド“黒船”のリーダーとしても活動する。

◎Information
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黒船 Official HP
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