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長谷川カオナシが追求する“聴き取りやすいベース”とは?| クリープハイプ『仮のまま定着したような愛情で』インタビュー
- 取材:神保未来
- 写真:タカギユウスケ
クリープハイプが2026年5月27日にリリースしたEP『仮のまま定着したような愛情で』には、4人で音を鳴らすからこそ生まれる揺らぎや熱量といった、バンドサウンドの魅力が詰まっている。打ち込みへの挑戦とバンドらしさの追求を繰り返しながら、独自の音楽性を磨いてきた彼らだが、今作は生楽器の息づかいやロックバンドならではの一体感が際立つ。
そのなかで長谷川カオナシのベースは、アンサンブルを支えながらも確かな存在感を放っている。プレイの根底にあるのは、近年追い求めている“聴き取りやすいベース”というテーマだ。キャリア最大規模のツアーや初のソロ作品の制作、ヴォーカリストとしてのライヴ経験を経て、彼のベース観はどのように変化したのか。インタビューで繰り返し語られた“休符”というキーワードを手がかりに、最新EPに刻まれたベーシストとしての現在地に迫る。
“ずっと聴こえているベース”を意識するようになりました
──今回のEP『仮のまま定着したような愛情で』は、生楽器で音を鳴らす魅力に溢れた作品でした。2024年発表の7thアルバム『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』のモードとも地続きにあるように思います。
バンド感を尊重した前作の延長にあるなと、私自身も思います。クリープハイプは打ち込み音源に挑戦する時期とバンド感を大事にする時期、それらを往復しているんですけども、今はバンド・サウンドを追求している時期だなと感じます。特にきっかけがあったわけじゃないんですが、作曲のモードとして自然とそうなっていきました。
──7thアルバム『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』発表後の2025年には、アリーナ公演や日本武道館を含むキャリア最大規模のツアーを、そして今年の5~6月にはライヴハウス・ツアーを実施していましたね。会場の規模によって、ベースの鳴らし方は変わりますか?
アリーナ・クラスの大きい会場では、音が消えていくまでの時間が長いので、小さい会場よりも“休符だぞ”と意識的に区切るというか、“休符を発音する”イメージで弾いています。
ただ、ライヴハウス・ツアーに戻って感じたのは、結局はPAさんが会場に合わせて調整してくれるので、演奏面では大きく差は出ていないのかも、と。あくまで意識の範疇ですね。
──また、2025年11月には初のソロ・アルバム『お面の向こうは伽藍堂』も発表しています。ソロ作では、バンドのときよりもベースが躍動していた印象がありました。
ソロ作ではアレンジの最初にベースを考えていたので、“このメロディだったらば、合間にこれぐらい動くべきだな”といった案が序盤から出てきました。“ベーシストのソロ・アルバムだぞ”みたいに、肩肘を張ることはなかったんですけれども、せっかくなので普段なら抑えるところも動いてみたり、バンドではあまりしないような動きが多くなりましたね。
クリープハイプではみんなが並行してアレンジを進めるので、ベース録りの段階でメロディラインが固まってないこともあるんです。しかも、ギターが雄弁に楽曲をリードしてくれるので、“ベースがすべてを担わなくてもいいんだな”と改めて気づきました。
──ソロ・ライヴでは、ベースを弾かずにヴォーカルに徹していましたよね。一度ベースから離れることで、バンドにおけるベース・プレイに変化はありましたか?
自分が“ベースを聴きながら”歌っていることに気づきました。ソロ・バンドではPeople In The Boxの福井健太氏に弾いていただいたんですけども、ベースがずっと聴こえているところがすごくいいなと思って。そこから、クリープハイプで自分が弾くときも“ずっと聴こえているベース”を意識するようになりました。
──“ずっと聴こえているベース”というのは?
例えば、私なら曖昧にしてしまいそうな16分のニュアンスも“ここまで伸ばす”、“ここから切る”というのがはっきりしている。そうやってしっかり発音するところが、健ちゃんのいいところだなって。
──なるほど。
あとは、今まではドラムを聴きながらベースを弾いていたんですけども、ソロ活動を経て歌とドラムの間に存在するようなタイム感を意識するようになりましたね。頭のなかで歌いながらベースを弾いている感覚というか。尾崎(世界観/vo,g)さんの歌のラインを、リアルタイムでなぞりながらベースを弾くイメージです。

──7thアルバムの取材(本誌2025年2月号掲載)では、「もう少しベースが聴こえてもおもしろい」と感じたことをきっかけに、“聴き取りやすいベース”を意識するようになったというお話もありました。ソロ活動などを経て、そういった想いは強くなったんですね。
そうですね。今作も意識していましたし、おそらくこれは一生言い続け、突き詰め続けるような気がします。
──では、今作の話も聞かせてください。尾崎さんのインタビューによると、今回のEPは初期の空気感を出したいという方向性があったそうですね。
はい。レコーディングも、インディーズからメジャーデビュー1~2作目ぐらいの録り方に近かったです。今までは1曲1.5日ほどで録っていたんですけども、今回は1日で3~4曲分のベーシックを録って、別日程でダビングをするという感じでした。
最近は1日に何曲も録ることがなかったので、尾崎さんからそのような提案があったときはおもしろいなと思いましたね。
──制作は、スタジオでの作業が中心だったのでしょうか。
「口の中」はリモート作業もしましたが、基本は4人で練習スタジオで構築していきました。そのあたりもバンド活動初期の形に近かったですね。アレンジなどの作業にかかったのは、全部で3ヵ月ぐらいだったかな。ただ「口の中」は、尾崎さんが2013年にバンドに持ってきた曲で、その後も尾崎さんが弾き語りで演奏していたので、今回の中では一番古い曲のはずです。
──レコーディング期間の短さは、プラスに働きましたか?
1曲1日半いただけるのも曲にとっていいんですけれど、メジャー1stアルバムとかはもっと短い時間で録れていたわけで。短期間で録る適応力や体力も、時間をかけて練り込む集中力も、ミュージシャンとして両方持っていたいんですよね。それに、今回は当時よりもメンバーそれぞれの対応力が上がっていたので、よりスムーズに録れました。
尾崎さんから“泳ぐようなベース・ラインにしてほしい”という要望があって

──ご自身のなかで、今作のベース・プレイについてどのように振り返っていますか?
別段、抑えようと意識していたわけではないんですけれど、ソロ・ワークと比較すると大人しいプレイになったと思います。なんと言うか、自然に弾いたんですよね。「口の中」だけは“空いた隙はこう動くべきだ”というふうに机上で考えたんですけれど、ほとんどは“こういうボールが来たらこう打つよな”という感覚で、自分のなかのセオリー通りにレコーディングした印象です。
──ベースは耳に残るのですが、前に出るというよりも、アンサンブルのなかで自然に聴こえてきました。そのあたりは意識されたのでしょうか。
ベース・ラインに関しては奇を衒ったことをあまりしなかったので、前に出ていこうという意識もなくて。でも、そう思っていただけたのであればよかったです。聴き取りやすく弾こうという意識が結実してきたのかなと思います。
──聴き取りやすさのために、プレイ面で実践したことはありますか?
指弾きの場合は、指を奥まで入れてピッキングすることで、極めて短い休符が生まれるようにしました。あとは、今まではピックアップの上で弾くのが基本でしたが、今回はフロント側でピッキングすることが多かったですね。それも似たような意図で、音が丸くなることで一瞬休符が存在するようなピッキングにつながりました。
──各曲についても伺います。1曲目の「タヌキネイリ」は、ベースのリフ的な動きがアンサンブルの推進力になっていますね。
スタジオ1発目に、最初に尾崎さんがギターを弾き、(小泉)拓(d)さんがドラムを叩いて、“じゃあベースはこういうプレイだな”とその場で弾いたものが、そのまま採用されています。ある程度の法則があるフレーズを繰り返すと、聴き手にもベースを印象付けやすいかなと思って。だから最近は短いループのラインが多いですね。
──少し歪んでいて、粘り気のあるサウンドも印象的でした。
音価を稼ぐ意味では、ベースは常に歪んでいたいですけれども、この曲はギター隊もけっこう歪んでいるので、ピッチ感が崩れない程度の歪みを狙いましたね。
──「私の歌」はベースがメロディックながらも、全体を支えているように感じました。
“クリープハイプが昔からやってきた、速い8ビートの曲のベースってこうだったよな”という、今まで通りのプレイでしたね。ただ、昔ならサビもルート弾きしていたと思うんですけれど、今回はほかのパートのピッキングが多かったので、ベースはリフっぽい動きに変えてスペースを作るようにしました。
──「痛々しいラヴ」は、哀愁のあるメロディやギターに対し、ベースが間を縫うように動いていて。あのベース・ラインは、どのように形になっていったのでしょうか。
この曲は、尾崎さんが曲を持ってきて、2回ほどスタジオに入り、ライヴでわりとすぐ演奏したんです。そのあとすぐにレコーディングに入ったので、フレーズを考えすぎずにレコーディングに臨みました。
そのなかで、尾崎さんから“ベースの基本パターンのピッキングをもっと減らして、泳ぐようなベース・ラインにしてほしい”という要望があって。それまではドラム・ラインに沿ってピッキングをすることが多かったんですけれども、現場で方針が変わったので、結果、作り込まなくてよかったです。
──その場の提案で曲が変化する工程を楽しんでいた、と。
レコーディングがもう1日あったら、ベース・ラインもまた変わったと思うんですけれど、その場の提案で曲が変わっていくプロセスは好きなので、そういうものが収録できてよかったなと思います。
──動きがありつつもアンサンブルを支えているような印象があったのですが、どのような立ち位置を考えて演奏しましたか?
アンサンブルの一番うしろにいること、かな。傍観者のように存在しているのがちょうどいいなって。ギターのコード・ピッキングが多めだからこそ、“ベースの口数を少なく”という尾崎さんの提案がハマったなと。さすがだなと思いました。
──尾崎さんのディレクションで、ベースが大きく変わることはよくあるんですか?
そうですね。今までですごくおもしろかったのが、“もっと低く弾いてほしい”とオーダーがあって、でもそれ以上低い音はもうなかったんですよね。だから、高いところに行かざるを得なかったんですけど、そうしたらオッケーが出ました。
ヴォーカリストが求める“低い”というのは、すなわち低い音ではなくて、“聴き取りやすい”“自分の視界のなかに存在する”ということなんだなと思いました。
──「口の中」は古い曲とのことですが、アレンジは当時とどのように変わったのでしょうか?
当時は、自分の頭のなかでストリングスとかが見えたんですよね。“これは日本の歌謡ポップス然とした仕上がりにしたらよさそうだな”と思ったんですが、今回は私が弾いたオルガン・キーボードしか(バンド以外の音は)入っていないので、そういう引き算ができたのはよかったです。
──テンポがゆったりしているぶん、ベースの音価やタイム感が重要だと感じました。演奏にあたってどんなことを意識されましたか?
8分休符を16分休符ふたつとして捉えることが多かったですね。スローテンポの曲で4分の4拍子をそのまま4分の4として捉えていると、曲がのっぺりしてしまうんです。特に休符を16分ふたつの感覚で捉えると締まりができるので、それを実践しました。
イメージとしては、16分のゴーストノートがふたつ入るような感じというか。もちろんゴーストノートを弾かないケースもありますけども、頭の中ではそういうふうに休符を鳴らしています。
──バラードだからこそ、クリーンな音にするという選択肢もあると思いますが、この曲のベースも少し歪んでて、それがバンド感に寄与してると感じました。
これも歪ませようとはしていなくて、クリーンで鳴らしたなかでちょっと音価が寂しいかなと思って、今の音になりましたね。
──「タヌキネイリ」もそうですが、音価を考えて歪みを使うという視点は興味深いです。音の減衰をコントロールするためなんですね。
そうですね。伸ばしたときに音が減衰すると、不安に感じる傾向があって。今メインで置いているAya Tokyo Japanの歪みペダル(Front Gate Bass Drive)が好きなのもあって、そういう音作りにするクセがついているんだと思います。
──また、ワルツの「生きてみます」は、音価のコントロールが印象的でした。
この曲は歌も含めてクリックなしの一発録りをしたんですけれど、スネアをブラシで叩いたこともあって、誰に合わせて進行するのかが難しかったんですね。そこで、8分音符で数えた3つ目と6つ目でベースをミュートすると、ほかのメンバーに対して“次の1拍目がここ”っていうのが親切に伝わるなと、レコーディング中に気がついて。歌中は特にそこを意識するようにしました。この休符操作は、自分でもしてやったりなところがありましたね。
バンドサウンドにしても、今はAIでそれっぽいものが作れる時代ですけど、“ここに休符を入れたほうがみんなが弾きやすい”という発見だったり、4人で試行錯誤しながらクリックに基づかず1曲を録れてよかったです。この曲はバンドで録る意味があったなって。
──今作のレコーディングで使用したベースを教えてください。
「生きてみます」はアコースティック感を出したかったので、ランドスケープのフレットレス(ARB-204)を選択しました。「痛々しいラヴ」「タヌキネイリ」はメインで使ってるピノ・パラディーノ・モデル(Fender / Pino Palladino Signature Precision Bass)で、「私の歌」「口の中」はリッケンバッカー4001で弾きました。
リッケンはレコーディングで使う機会が増えたんですが、なんか“ぼよん”としているというか、可愛げがある音で。曲のなかでいい違和感が耳に入ってくるので好きです。ベースの取りやすさにも貢献してくれているなって感じます。
──今回の取材では“休符”という言葉がたくさん出てきましたね。休符への意識は、最近芽生えたものですか。
たしかに。前から意識していたけれど、これも人生を懸けてブラッシュアップしていくものだなって思っていますね。私の場合、ベースで複弦を鳴らす機会が少ないので、基本的に演奏する音符と休符の繰り返しなんですよね。だからこそ、休符の使い方はライフワーク的に大事になっていくと思います。
──ベーシストとして大切にしていたことが強く生かされたEPだったんですね。それでは、カオナシさんは今、ベーシストとしてどんなことに面白味を感じていますか?
やっぱり、一音一音の責任の重さがベーシストの醍醐味だなと思いますね。ギターは束を弾くけれども、ベースは基本的に1本の弦を弾くので、バンドにおいて命綱に近いなって。その綱の操作によって、バンド全体が良くも悪くも揺らぐのがおもしろいです。気づかれなくてもいいけど、意外と大事な綱を握らせてもらっていますね。

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◎Profile
はせがわ・かおなし●1987年9月23日生まれ。ロックバンド“クリープハイプ”のベーシスト。小学生でピアノとヴァイオリンを手にし、高校1年でベースを始める。ベースのほかにエレキピアノやビオラなども演奏。クリープハイプは2001年に尾崎世界観(vo,g)を中心に結成。2009年に長谷川、小川幸慈(g)、小泉拓(d)を擁した現編成となる。2012年、メジャー・デビュー。2014年に初の日本武道館2days公演を開催、2018年5月にも約4年ぶりとなる2度目の日本武道館公演“クリープハイプのすべて”を成功させる。2024年11月に、キャリア史上最大規模の会場となるKアリーナ横浜で、現メンバー15周年記念公演“2024年11月16日”を開催。2025年11月26日に自身初のソロアルバム『お面の向こうは伽藍堂』をリリースした。
◎Information
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