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    「ベーシストが世界を動かしている」サンダーキャットが語る、ソニックとベースと曲作り【インタビュー前篇】

    • Interview : Shutaro Tsujimoto(Bass Magazine Web)
    • Translation : Tommy Morley
    • Photo : Takashi Hoshino

    4月に待望の通算5作目となるアルバム『Distracted』をリリースしたサンダーキャット。同作を引っ提げて行なわれた5月のジャパン・ツアーは全4公演がソールドアウトとなり、ドラマーのジャスティン・ブラウン、キーボーディストのデニス・ハムとのトリオ編成で各地のオーディエンスを熱狂させた。エイサップ・ロッキー、リル・ヨッティ、テーム・インパラらが参加し、プロデューサーのグレッグ・カースティンとのコラボレーションによって制作された『Distracted』では、ソングライティングや歌を軸にしたポップな側面が際立っている。一方、ライヴでは長尺のソロやエフェクティブな音色を交えながら、6弦ベースの可能性を存分に聴かせてくれた。

    本稿では、新作でのベース・アプローチ、ソニック・ザ・ヘッジホッグを描いた新たな愛器、フラット・ワウンド弦やエフェクトへのこだわり、そして、あの超高速プレイに至るまでの練習について語ってもらった。

    サンダーキャット来日公演写真
    豊洲公演の模様。ステージには巨大な猫の要塞がセットされていた。左から、デニス・ハム(k)、サンダーキャット、ジャスティン・ブラウン(d)。Photo by Yukitaka Amemiya

    “ベーシストが世界を動かしている”

    サンダーキャット
    サンダーキャット
    Photo by Takashi Hoshino

     本当にありがたいことだよ。そう感じてもらえたのなら、とても嬉しい。ありがとう。

     これまで、こういったペイントが施されたベースをたくさん持っていたわけではないんだ。もちろん、美しい楽器にグラフィックを入れること自体は珍しいことではないけれど、手描きで仕上げられているものには、やはり特別な魅力があると思っている。このベースにソニック・ザ・ヘッジホッグを描いてくれたのは、親友のダン・マクウィリアムズというアーティストなんだ。彼は僕のタトゥーのデザインも数多く手がけてくれていて、本当に素晴らしいアーティストだよ。

     このベースが今回のツアーに間に合う保証はなかったんだけど、ダンとアイバニーズが全力を尽くしてくれたんだ。日本ツアーに間に合って良かったよ。ソニック・ザ・ヘッジホッグ30周年への敬意を込めたものでもあるからね。

    サンダーキャット
    Photo by Yukitaka Amemiya

     “ベーシストが世界を動かしている”っていうのは、ずっと言われ続けているジョークみたいなものなんだ(笑)。SEGAを訪ねたことで、ひとつの体験をみんなと共有できたような感覚があったね。中村正人さんとは以前にも会ったことがあるんだ。共通の友人を通じて知り合って、一度会ったことがあった。ベーシストには、独特の仲間意識があるんだよ。猫みたいなもので、多くを語らなくても、お互いのことがわかるんだ。

     ゲーム音楽を作る際に注がれているこだわりや愛情が、ちゃんと音に表われているからだと思う。これは芸術全般に言えることだけど、本当に優れた作品は時代を超えるんだ。ベーシストとゲーム音楽の親和性というのは、そういった素晴らしく作られた音楽に敬意を持てることに起因しているんだと思う。クラシックやジャズにスタンダードがあるように、今ではゲーム音楽の世界にもスタンダードが存在している。そして『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』は、そのスタンダードのひとつなんだ。

     メインで使ったのは、アイバニーズが僕のために最初に製作してくれたオリジナルの6弦ベースだね。それから、『エヴァンゲリオン』のアスカ(ラングレイ)をモチーフにした、あの赤いスパークルのベースも少し使った。フライング・ロータスと作った「I Did This To Myself」では、確かMTD(Michael Tobias Design)のベースも使っていたと思う。

     僕とフライング・ロータスは、いつも純粋に楽しみながら作品を作ろうとしているんだ。制作中は、僕が弾いたフレーズに彼がすぐ反応するとは限らない。でも感覚的にはすごく通じ合っていて、彼はそのなかから“これが核になるベース・ラインだな”というポイントを確実に捉えてくれるんだ。

     いや、グレッグは僕が作るものや、自然に思いついたアイディアに対して、とてもオープンだったよ。むしろ、ときどき僕のほうから自分のプレイを少し抑えることがあるくらいなんだ。それは、僕が歌も同時に発想している部分があるからだと思う。曲を書いて、それを自分で歌わなければならないから、ベースでどうアプローチするかについては慎重になることがある。もちろん、そういう制約なしに作られた素晴らしい曲も世の中にはたくさんある。でも僕の場合は、プレイと歌を同時に成立させるための、自然な作曲のやり方があるんだと思う。

     曲を作るときは基本的にベースから始まる。僕はまず第一にミュージシャンなんだ。

    フラット・ワウンド弦を使うとまったく別の世界が開ける

     そこは気をつけなければいけないところなんだ。このベースはスルーネック構造だから、天候によって状態が変わることがある。だから、ネックを緩めすぎたり、弦高を下げすぎたりすると、楽器にダメージが出る可能性もある。とはいえ、実際には弦高はけっこう低めに設定しているね。それは長年プレイしてきた経験とも関係している。手を痛めたくないし、少なくともこのベースに関しては、少し低めの弦高のほうがフレージングしやすいと感じているんだ。

    サンダーキャット

     フラット・ワウンド弦を使うと、ラウンド・ワウンド弦とはまったく別の世界が開けるんだ。最初から弾き込まれたような感触があるし、サウンドもかなりデッドになる。指に触れたときの感触も、フラット・ワウンドのほうが好きなんだ。もちろんラウンド弦にも良さはあるよ。時にはベースに少しザラついた質感や荒っぽさが欲しくなることもあるからね。音楽のなかでのベースの役割は、必ずしも前面に出ることだけではないし、そういうダーティな要素がベースにキャラクターを与えてくれることもある。

     ただ、新品のラウンド弦はサウンドが不自然に変わってしまうことがあって、厄介なこともある。新品特有のハイからミッドにかけての感じが耳についたり、ベタつくように感じたり、ブライトすぎたりすることもある。その点、フラット・ワウンドはそういった問題をかなり解消してくれるんだ。

     途中で切り替えたんだ。20代の頃だったと思う。MTDからアイバニーズのベースに持ち替えたことが、自分のサウンドを新たに作り直していくきっかけになったんだ。もちろん、マイケル・トバイアスは僕のサウンド作りに大きく貢献してくれたし、実際に今でもレコーディングではMTDのベースを弾くことがある。あの赤いMTD製ベースに代わるものはないよ。

     ただ同時に、その時期はサウンドやベースという面で、別の方向へ進んでいく時期でもあったんだ……(インタビュー後篇につづく

    PROFILE
    サンダーキャット
    1984年生まれ、ロサンゼルス出身。サンダーキャットことステファン・ブルーナーは、ドラマーの父ロナルド・ブルーナー、兄ロナルド・ブルーナー・ジュニアを持つ音楽一家で育った。10代でスイサイダル・テンデンシーズに加入し、フライング・ロータス主宰の〈Brainfeeder〉から『The Golden Age of Apocalypse』(2011年)でソロ・デビュー。以降、『Apocalypse』(2013年)、『Drunk』(2017年)を経て、『It Is What It Is』(2020年)でグラミー賞を受賞。ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』(2015年)への参加をはじめ、ジャンルを横断する活動で知られる現代屈指のベーシスト/アーティストである。
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