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KT Chang
(Elephant Gym)

Profile
けーてぃー・ちゃん●2012年結成の台湾・高雄出身のスリーピース・バンド、Elephant Gymのベーシスト。洗練された楽曲構成のセンスや高いテクニックで人気を集め、台湾国内のみならず、北米や日本など世界各国でツアーやリリースなど精力的な活動を行なう。2021年7月には新作EP『CRACK OF DAWN』をCD及び配信で発表。10月には日本限定のアナログ盤もリリースされている。
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Q1:あなたのベース・プレイに影響を与えた音楽アルバム作品を、あえて1枚あげるとするとなんですか?

『Intaglio』濱瀬元彦
(1986年)

Q2:その作品を最初に聴いたのはいつ、どんなきっかけでしたか?

私がベースという楽器に出会ったのは高校生のときです。そして大学時代に現在のバンド、Elephant Gymを結成しました。そこで自分のアレンジ力を向上させるために、いろんな音楽に触れていました。濱瀬元彦さんのアルバム『Intaglio』はインターネットで見つけたものですが、初めて聴いたとき、本当に衝撃的でした。このアルバムに出会う前にもジャコ(パストリアス)などのベースを主体にしたアルバムもよく聴いていましたが、この一枚は私にとって、人生で初めてベースの音が心に響いて、涙が溢れそうになった作品でした。

Q3:その作品のどんな部分に影響を受けましたか?

このアルバムは、家を建てていくように歌の下地を作る方法を教えてくれました。例えば、シンセサイザーのリフの繰り返しをどのようにアレンジしていくかなどです。そして基盤を作ったあとに、どのようにして音をひとつずつ積み立てていくのか、異なるシンセサイザーの音色やリズムを加えていくのかなど、多くのことを学びました。そして、天使が歌いながら舞い降りるようにベースの音色が歌のなかに現われる。普通のロックとは全然違うからこそ、このアルバムに出会えたことはとても貴重な縁だと思います。

繰り返されるフレーズをどのようにおもしろい編曲にするかは、今自分が作っている曲のなかで、このアルバムからの影響が非常に大きいです。

Q4:特に印象的なベース・フレーズは、なんという曲のどの部分ですか?

アルバムの2曲目、「Lung」が大好きです。

ベースが出てくる前に、シンセサイザー、管楽器、その他のサウンド・エフェクトは、工場のなかにいるような雰囲気を作り出しています。そこから繰り返されるリフが突然消えて、ふわふわとしたシンセサイザーの単音メロディが残り、しばらくしてから工業感とは対照的な温かいベースのソロが始まります。このベース・ソロの呼吸はとても素晴らしいですね。長音も短音も完璧で、聴くたびに感動します。インプロヴィゼーションがそんなに得意ではない私にとって、このベース・ソロは憧れの旋律です。

Q5:その作品/ベーシストの影響が最も表われていると思う、自身の楽曲/ベース・プレイは?

2018年リリースの2ndアルバム『Underwater』の1曲目の「Shower」(CD、レコードのみ収録、デジタル・アルバム未収録)では、まさにこの『Intaglio』で学んだことを表現しようとしました。曲全体を通してベースを鳴らすのではなく、ベースの呼吸を表現しています。この曲はすべてのアレンジを私が担当していて、今になってみると未熟な部分もありますが、まさに濱瀬元彦さんへの敬意が詰まった曲になっています。

この曲はアルバム全体のイントロになっており、まさに“Underwater(=水底)に降り注ぐ「Shower」”、といった曲ですね。

Q6:2021年に初めて聴いたもので、ベース・プレイが印象に残った作品はありましたか?(アルバム/楽曲、新譜/旧譜は問いません。)また、その作品の聴きどころを教えてください。

バッドバッドノットグッドが今年9月にリリースした「Beside April」という曲です。

最近はユニゾンにハマっていることもあり、1:42〜2:10でのギターとベースでのユニゾンがとても好きです。メロディが強調されるこのアプローチは稀なもので、深い印象を残します。チック・コリアの「Spain」を彷彿させますよね。厚みと丸みのある音色もとても心地よいです。

このインタビューに答えたことで、自分の好きなものが改めて明確になりますね。でもミックスするときにはいつも、どんなベース・トーンが良いのかを決めるのがとても難しいんです。しっかりと目立たせたいので、ハイやミドルが上がりがちなんですが、Elephant Gymにとっての最適な音色はまだ見つかってないのかもしれません。永遠のテーマですね。来年はニュー・アルバムをリリースします!  この問題が改善されますように!

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