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L’s TRUST × 堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)- LST-HC4

  • Photo:Takashi Yashima

小田一貴(L’s TRUST 代表取締役社長)
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堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)

ここではL’s TRUST代表の小田一貴氏と堀江に、ふたりの出会いから、“LST-HC4”完成にいたるまでのストーリーを聞いた。現在堀江がメイン器として使用するこのベースは、どういった過程を経て製作されたのか。そして今回のシグネイチャー・モデル発売に際し、それぞれどのような思いを抱いているのだろうか。

シグネイチャー・モデルというより、“堀江カスタム”です。(小田)

━━まず、おふたりの出会いとは?

小田 2015年に堀江さんがベースのピックアップ交換のご相談で工房に来ていただいたのが最初だったと思いますね。
堀江 当時、PENGUIN RESEARCHを組んだばかりの頃で、リペアや調整の工房を探していたところ、スタッフさんから“いい工房あるよ”と紹介いただいたのがきっかけでした。

━━どういったきっかけで堀江さんモデルの製作にいたったのでしょうか?

堀江 リペアやパーツ交換などをとおして小田さんと自分の求めているサウンド像をディスカッションしていくなかで“これは、もう一 本作ったほうが早くないか?”という話になったのがきっかけです。ちょうどその頃、当時メインで使っていたベースがライヴで水没してしまったこともあって、これまで所有してきたぞれぞれのベースのいいところを踏襲しつつ、一本作ることになりました。

━━ではサウンド・イメージなど、コンセプト は作る前からお互いに一致していたと?

小田 堀江さんの楽器のリペアをしていくうえで出てきたこだわりをひとまとめにしたイメージです。完成したのが2017年秋になるの ですが、2015年に出会ってからの2年間で自然と打ち合わせをしていたように感じます。
堀江 そうですね。このベースを作るとき、“自分の演奏スタイルを一番ストレスなく発揮できるフィジカルを持った楽器を作りたい”というオーダーのみさせていただきました。

小田一貴(L’s TRUST 代表取締役社長)
堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)

━━なるほど。堀江さんはL’s TRUSTに対してどのようなイメージをお持ちですか?

堀江 安定していて実戦で使えるものを真摯に作ってくれる工房だと思います。自分はベーシストであると同時にクリエイターでもあるので、いい楽器を使っていい音を出す最終目的は“いい楽曲を作る”こと。なので必要な音を必要な形で出力してくれる楽器や、鳴らしたい部分にしっかり反応してくれる楽器が自分にとっては一番だと思っています。だからこそ、一緒にその目標に向かって楽器と向き合ってくれるL’s TRUSTには感謝しています。
小田 ありがとうございます! 堀江さんはプロフェッショナルなので、こちらは余計なことをせずにフラットなものを普通に提供して、あとは堀江さんに料理してもらうイメージです。そのなかでこの5年間、堀江さんの楽器リペアを担当させていただくなかで堀江さんからもらった意見や、お互いディスカッションを重ねた結果が今回のLST-HC4になります。当初は堀江さん監修の、価格帯をできるだけ抑えたモデルという話もあったのですが、“物理的に自分と同じ音が出せる楽器を作りたい”という堀江さんご自身の希望もあり、まったく同じスペックのものを再現しようということになりました。

━━堀江さんがそう思ったきっかけとは?

堀江 そもそも自分自身も“堀江モデル”という感覚ではなくて、ディスカッションを重ねるなかで完成した、自分にとって一番実戦向きなベースという認識なんです。なので普段仕事の現場で使っているこのベースそのものを売ったほうがいいと思ったのがきっかけです。廉価版として何かを変えるよりは、こだわりが詰まったこのベースをみなさんに使ってほしいという思いもありましたね。
小田 それもあって、僕たちの間ではシグネイチャー・モデルというより“堀江カスタム”という呼び方をしているんです。あくまでもカスタム・メイドの考え方で製作したので、この呼び方がしっくり来ますね。

━━本器はアルダー・ボディにメイプル・ネック、ローズ指板というスタンダードな木材構成となっていますね。

小田 僕が思うに堀江さんのプレイで重要なのは材というよりは、重さとネックのしなり具合かなと。あとはシンプルに作って堀江さんの思うように弾いてもらうだけだと思っているので、厳選した木材というよりはスタンダードなものを選択しています。

━━特徴のひとつにDチューナーが挙げられますが、製品版にも同じく搭載されていますね。

堀江 これは特別こだわったわけではなくて、あくまでも機能重視で搭載しています。 PENGUIN RESEARCHだと、ライヴ中にドロップ・チューニングに変更する瞬間がけっこうあって、曲間の一瞬で切り替える必要があるので、実際の現場で活躍する機能だと思います。また、楽曲の一番終わりの一発だけDとかEフラットを鳴らしたいときなど、その瞬間だけドロップにする使い方もできますね。

━━そうなるとチューニングの精度も重視したのでは?

小田 もちろんそこは一番に気をつけています。基本的にベーシストの方はビビリを気にしてテンションを強くかけたいと思うのですが、このテンションのかけ方が重要なんですよ。このベースは裏通しも可能なのでしっかりとテンションがかかるようにはなっていますが、堀江さんは暴れる感じや粘り気といった、いい意味でのルーズさを重視されるので、そういった場合過度なテンションは邪魔な要素となってしまう。そこでテンションをフラットに維持しながらも、チューニングを安定させるためにテンション・ピンの位置やナットの切り方を工夫しました。そこが目には見えないウチのこだわりで、こういったところが同じスペックの材料で作ってもうちで組み込みしないと“堀江カスタム”にならない要素のひとつですね。

バリバリ“仕事レベル”の楽器 だと保証できます。(堀江)

━━なるほど。リペアをとおして堀江さんのプレイ・スタイルなどを把握したうえでのこだわりですね!

小田 そういうことですね。あと、堀江さんが以前、うちの楽器は一定の期間を過ぎると距離感がグッと縮まって本来の鳴りが出てくるということも仰っていましたね。
堀江 そうなんです。使い始めて一年間くらい、いろいろな現場を踏まえてエイジングされた結果、 自分自身がベースにふさわしいプレイヤーになったということだと思います。レコーディングのサポートのときなどはこのベース以外にも一度に何本かベースを持っていくのですが、それこそこのベースを持って一年くらい経った頃から、そのアーティストさんやプロデューサーの方から“このベースで録りたい”と言われるケースが増えたんですよ。最近は何本かベースを持って行ってもほぼこのベースが選ばれるので、外から見てもこのベースの音が使いやすいと思ってもらえているのだと思います。

━━コントロール・ノブにスポンジが噛ませてあるのも特徴的です。

堀江 個人的にこれは推したいです。コントロール・ノブとプレートの間にスポンジを挟むことで力を入れないと回らないようになっているんです。これはピックで弾いていて、演奏中に手がノブに当たってコントロールが動いてしまうのを防ぐための対策です。ただ、トーンは曲中にいじることが多くて、手もぶつからないのでそのままにしていますね。
小田 もともとうちのお客さんには、演奏中にたくさん汗をかく方が多く、汗が混入してポットが 壊れる事例がいくつもあったので、それを防ぐために考えていたプランのひとつなんです。ただ、堀江さんから相談いただいたスリップ防止というほうが実用的な理由ですね(笑)。

━━オール・ブラックのカラーもクールです。

堀江 僕は黒が一番好きで、落ち着くカラー だと思っているので、このカラーを提案させていただきました。カラーリングに関しては最初から小田さんと僕の間で“黒だよね”という共通認識があったように思います(笑)。指板のブロック・インレイは見た目もカッコいいし、視認性にも優れて いますよね。

━━なるほど。ヘッドにはロゴがありませんがこれはどうしてでしょうか?

堀江 この経緯としては、僕のベースが8割9割完成というタイミングで工房にベースを見に行ったとき、当時ロゴが入っていないものをロゴ が入るのを待てずにそのまま持って帰ってきてしまったからです(笑)。ただ、結果的に周りから“このベースどこの?”と聞かれることが多くて、このベースを紹介できる機会にもなっているので、それも良かったなと。
小田 それは嬉しいね(笑)。そもそもうちには特定のブランド・ロゴがないんですよ。というのも、僕はその楽器単体に合うロゴをひとつひとつデザインしたい思っているので、これに一番合うロゴのデザインを悩んでいたのもありますね。

━━では最後に、このベースをどんな方に使ってもらいたいですか?

堀江 このベースには特別大きな特徴があるわけではないので、その特徴を作るのは購入された弾き手自身だと思っています。ただ、どんなプレイヤーの個性にも応えることができるクオリティと実用性をひたすらに追求した“質実剛健”なベースです。なので誰が弾いても正解でも不正解でもないので、その方の色に染めて欲しいですね。自分も実際の現場で使っている楽器なので、バリバリ“仕事レベル”の楽器だということは保証できますし、これからベースを始めるという方にもおすすめできる楽器だと思いますね。
小田 僕もこれからベースを始める方の一本目としても、逆に何本も所有してきたベテランの方にも満足してもらえる楽器だと思っています。あと、堀江さんが実際の現場で使っている楽器ということでモチベーションにつながる方もいると思いますが、大前提として“普通に良い楽器だな”ということを実感してもらえたら嬉しいですね。

【Profile】
ほりえ・しょうた●5月31日生まれ、岐阜県出身。学生時代からDTMに没頭し、上京後、音楽制作会社に入社する。2013年からは独立し、LiSA、茅原実里、ベイビーレイズJAPANらの楽曲の作編曲を手がけた。2015年に自身のバンド、PENGUIN RESEARCHを結成し、2016年1月にシングル「ジョーカーに宜しく」でメジャー・デビュー。2019年8月7日 には2ndアルバム『それでも闘う者達へ』をリリースした。また、ボーカロイド・クリエイター“kemu”名義での創作活動も行なう。
▶︎ https://www.penguinresearch.jp

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