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千葉広樹が語るサム・ウィルクスへの共感とエフェクター哲学「機材を使い倒した先に、何かすごい極地がある」【インタビュー後篇】
- Interview : Shutaro Tsujimoto (Bass Magazine Web)
- Photo : Chika Suzuki
インタビューの前篇はこちらから。
⸺現在はエレベもメインで弾かれていますが、再び向き合うようになったきっかけは何だったのでしょうか?
30代前半くらいでまたエレベを弾くようになったんですが、最初はどう弾いて良いかわからなかったんです。コントラバスとエレキって、同じチューニングかもしれないけど、構造も体の使い方もまったく違う楽器ですから。30代後半くらいから、どうやったらウッド・ベースのメソッドをエレキ・ベースに応用できるのかをずっと考えてました。100%トレースできるわけではないけれど、音の概念としては一緒なので、徐々に目指す音の考え方をエレキに持ち込めるようになったんですよね。

⸺その“音の考え方”について、詳しく教えていただけますか?
レッスンのときなどにも言うんですが、僕は音を“物理的なイメージ”として考えるようにしていて。ベースの音は、丸くて柔らかい“球体”なんですよ。ゴムボールみたいな。それを“ハジく”とか“跳ねる”といったイメージがすごく大事で。音って空間を漂って耳に届くわけだから、その音をビジュアライズするんです。それは最初の“コントラバスをどう響かせるか”という概念から来ているんですが、そういう物理的なイメージを持っていると、“こういう音を出したいなら、こう弾けばいいんだ”とわかってくる。この概念でいくと、僕にとっては速弾きみたいなテクニックはあまり必要ないなと思っていて。極端な話、低音という存在があるだけで、もうオッケーというか。ベースって重力を感じさせるすごく物理的な楽器だと思うんですよね。
サム・ウィルクスにはすごく共感しました
⸺サム・ウィルクスとも共演していますが、そうしたスタンスで共鳴するところもあるのでしょうか?
サム・ウィルクスを初めて聴いたときは、すごく共感しました。コード弾きとかトータルの音楽性とか。彼はめちゃくちゃうまいし速弾きもできるけど、“バッハとジェームス・ジェマーソンが大好きだ”と言っていて、“一緒じゃないか!”と(笑)。彼の価値観にシンパシーを感じられたのは、“自分のスタイルは間違ってなかったな”と思えたひとつのきっかけでした。日本では、あまりそういうふうに共感できる人が周りにいなかったので。
⸺優河さん、岡田拓郎さん、角銅真実さん、吉澤嘉代子さんなど、近年もさまざまなアーティストのサポート活動をされてきましたが、歌モノやバンドにおいてはどんなことを大事にしていますか?
ベースって、実は音楽を支配できる楽器だと思っているんです。ウワモノがどれだけきれいなハーモニーを出していても、ベースが見当外れの音を弾いたら、音楽は崩壊してしまいますから。またベースは音楽におけるグラヴィティ、つまり聴いている人や演奏している人のタイム感、あるいはもっと生理的なものに近い感覚をコントロールできるし、そのグラヴィティを生かしてヴォーカリストの歌を導くことができるんです。ドラムの推力とは違うベクトルで、“次はこうだよ”と後押しするくらいの熱量で演奏するのが、僕はすごく好きですね。バンドをコントロールできる楽器だからこそ、なるべく支配しすぎないように、アンサンブルを支えることを意識しています。
⸺蓮沼執太フィルのような大所帯のアンサンブルでも、その意識は同じですか?
そうですね。実は僕は最初、バイオリニストとしてフィルに入ったんですが、途中でベースに変えてもらいました。古い曲はバイオリンのままですが。アレンジに関しても、ベースについては僕がかなり突っ込んで意見を出していますね。人数が多いと意見もまとまらないので、みんなで協力してアンサンブルを作っています。蓮沼くんがいい意味ですべてをドライに受け止める人間性なので、長く続けられているんだと思います。
ひとつの機材を使い倒して、擦り切れて、もう何のアイディアも出てこないというぐらいまで向き合った先に、何かすごい極地があると思う
⸺機材についてもうかがいたいです。エフェクターの使い方に深く向き合ってこられた印象がありますが、今のスタイルはどのように形成されたのでしょう?
昔はお金がなかったので、“ないなら自分でなんとかしよう”とずっと工夫していたんです。“このエフェクターとこれを組み合わせたら、最新機種みたいな音になるんじゃないか”みたいなことばかり考えていて。今は新しい高機能なエフェクターも安く手に入りますけど、僕はそれを普通に使いたくなかったりするんです。“新しい機材を買えばいいって思うんじゃないよ”っていうか。ひとつの機材を使い倒して、擦り切れて、もう何のアイディアも出てこないというぐらいまで向き合った先に、何かすごい極地があると思うんです。
⸺エフェクターも、ひとつひとつ楽器として捉えているんですね。
そうですね。どれだけ自分の“思考”と“フィジカル”を直結できるかという、スピードの話でもあるんです。頭のなかでイメージした音を、すぐに出せるかどうか。偶然性に頼るのも良いとは思いますが、もっと深く機材に触って、向き合った方が僕はおもしろいと思います。
⸺ライヴの練習はどんなことをやっていますか?
機材を扱う思考と操作のスピードを上げることもやりますし、ベース自体の練習もします。ただ、ベースの練習は、スケール練習をしたり、メトロノームを鳴らしながらいろいろなラインを弾いたりといった、オーソドックスな基礎練習しかしないんです。
⸺即興演奏の現場も多いと思いますが、そこに特化した練習はしないんですか?
やらないですね。言い方が難しいですが、決められた演奏やメロディが、必ずしも音楽的に良い方向に作用するとは限らないので。時には固定観念が新しい発想を殺してしまうこともある。だから、頭のなかをクリアな状態にしておくことが大事な現場もあると思っています。“何かっぽい音”ではなく、その瞬間にしか生まれないものをどう提示するか。そのためにも、普段の練習は逆に、あえてオーソドックスなことをやっておいたほうがいい。僕にとってベースの練習は、“筋トレ”みたいな感覚ですね。
ベースやエフェクターの紹介記事に続く
(近日公開)
千葉広樹 Profile
ちば・ひろき●1981年生まれ、岩手県出身。ベーシスト/作曲家。コントラバスと電子音によるサウンドスケープを奏でる音楽家。Riddim Saunterなどのバンド活動を経て2004年よりジャズ・ベーシストとして活動を始める。2008年に初のソロ作品『Hiroki Chiba+Saidrum』を発表し、これまでにベースと電子音によるソロ・アルバムを4枚リリースしている。2016年にはKinetic名義によるビート・アルバム『db』をリリース。2019 年には”ミナ・ペルホネン”のファッションショーの音楽を手がけたほか、美術家の小金沢健人や雨宮庸介とのコラボレーションも行なった。優河 with 魔法バンド、蓮沼執太フィル、サンガツ、スガダイロートリオ、王睘 土竟、Isolation Music Trioなどで活動するほか、これまでに矢野顕子、LOVE PSYCHEDELICO、サム・ウィルクス、大友良英、mouse on the keys、haruka nakamura、阿部芙蓉美、ジム・オルーク、石橋英子、口ロロなど、さまざまなアーティストと共演。また、cero、Beatniks (鈴木慶一、高橋幸宏)、YUKI、吉澤嘉代子、畠山美由紀、王舟、小野リサ、寺尾紗穂、関取花、前野健太、VIDEOTAPE MUSIC、Kie Katagi(Jizue)、三浦透子、坂本美雨、坂本真綾、arauchi yu(cero)、UA、岡田拓郎、吉田省念、渡邊琢磨など、多数のレコーディングに参加している。
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※本記事は、ベース・マガジン2026年8月号にも掲載!
8月号の詳細はこちらからチェックいただけます。
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