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【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】第7回 – ベースの弦交換と弦の種類

  • Text:Makoto Kawabe

弦の種類

弦交換をするにはまず新しい弦を買う必要がありますが、ベース弦だけでも実に多くの種類があるので、まずは弦の種類を確認しておきましょう。

素材の違い

前提として、エレクトリック・ベースは弦の素材に強磁性(磁石にくっつく性質)の金属を含んだものしか使用できません(※2)。強磁性の金属としては鉄やニッケルなどがありますが、鉄や鋼(鉄と炭素の合金)は強度や耐食性(錆びにくさ)などに難があるため、エレクトリック・ベース用としては鉄にクロムを混ぜたステンレス合金、ニッケル・メッキ(プレーテッド)を施した鋼、純ニッケルなどを素材とする弦が市販されています。これらは慣例的に“ステンレス弦”と“ニッケル弦”に分類され、一般的にはニッケル弦に比べてステンレス弦のほうがブライトな音色でテンションが強く、ざらついた手触りが特徴とされています。とはいえ、合金の組成バランスやメッキの厚さ、弦の構造などは各ブランドで異なり、必ずしも特徴が二極化しているわけでもないので、“ステンレス弦”と“ニッケル弦”という分類は参考程度に止めてもいいかもしれません。

また、特殊な樹脂などで金属弦の表面に極薄のコーティングを施し、手触りや耐久性などを改善した“コーティング弦”も数多く市販されています。初期のコーティング弦は使用頻度に伴って表面が毛羽立ったり弦アースが落ちずにノイズが多かったりするなどの問題もありましたが、近年の製品はかなり改善しているようです。通常の弦に比べて割高ですが、耐久性に優れているので長期的な視点では経済的だと判断する人も多いです。

※2:一般的なエレクトリック・ベースに搭載されるマグネティック・ピックアップは、弦の振動でピックアップ上の磁場を変化させ、コイルの電磁誘導によって電気信号を出力するため、強磁性の弦でないと音が出ません。ピエゾ・ピックアップや光学式ピックアップを搭載する楽器はゴムやナイロン素材だけでできたゴム弦やガット弦も使えます(後述のブラック・ナイロン弦は芯線が強磁性です)。

構造の違い

低音域が主戦場のベース弦は基本振動数を下げるために弦自体の質量を重くする必要がありますが、単芯弦(プレーン弦)では柔軟性を維持できないので、芯線(※3)に別のワイヤーを巻き付けた“巻弦(ワウンド弦)”が用いられます。断面が真円のワイヤーを巻き付けたのがラウンド(ラウンド・ワウンド)弦、四角いリボン状のワイヤーを巻き付けたのがフラット(フラット・ワウンド)弦です。時代背景としてはラウンド弦が後発ですが、現代ではラウンド弦のシェアが圧倒的で、新品の楽器でもほとんどがラウンド弦を張って出荷されています。ラウンド弦はフラット弦に比べてサステインが長く倍音も豊富ですが、フィンガリング・ノイズ(弦上で指が移動したときに出る“キュッ”という音)がやや目立つ傾向があります。フラット弦のうち、テープ状の黒色のナイロンを巻き付けたブラック・ナイロン弦(白いホワイト・ナイロン弦もあります)は、通常のフラット弦よりもさらに落ち着いた、ガット弦に近い音色傾向です。このほかにラウンド弦の表面を削りなめらかにすることでフィンガリング・ノイズを軽減したハーフ・ラウンド弦、サドル部分を細くして長いサステインや自然な弦振動を狙ったテーパー弦などがあります。

※3:巻弦の芯線(コア・ワイヤー)には断面が丸いラウンド・コアと六角形のヘックス・コアがあり、ラウンド・コアはヘックス・コアよりもテンションが強くサステインが短いとされますが、ラウンド弦とフラット弦ほどの差はありません。

ラウンド・ワウンド弦
フラット・ワウンド弦

長さ(スケール)と太さ(ゲージ)の違い

セット弦を購入する場合は弦の本数、長さ(スケール)も重要です。どの弦もペグ部分は巻きやすいように細くなっていて、例えばロング・スケール用の弦をショート・スケールの楽器に張ろうとするとペグ部分で弦が太すぎて巻けません。“大は小を兼ねる”はセット弦には通用しないので、必ず自分の楽器にあった長さの弦を購入しましょう。

ほとんどのブランドは同じ弦数、スケールでも太さ(ゲージ)が異なるセットを数種類用意しています。4弦ベース用で最も流通量が多いのが各弦の直径が1弦から.045、.065(または.060)、.085(または.080)、.105インチのセット弦で、通称“45-105(よんごーいちぜろご)”と呼ばれ、“レギュラー・ゲージ”とか“ミディアム・ゲージ”などの名称で販売されています。45-105よりも細いセット弦は“ライト・ゲージ”、太いセット弦は“ヘヴィ・ゲージ”など呼ばれ、細いゲージほどテンションが弱く押弦が楽になりますが、やや切れやすい傾向があります。反対に太いゲージほどテンションが強くなり、締まりのある低音域が出せる傾向がありますが、あまりに太い弦はネックに負担がかかる可能性があるので、レギュラー・チューニングで使用するのは避けたほうが無難です。なかでもダウン・チューニング用に市販されている極太の弦はナットやサドルの溝に合わず、加工が必要になることもあります。

今回の弦交換で使用したのはゲージが.045、.065、.080、.100のステンレス弦、La Bella製RX-S4B Rx Stainlessだ。

また、レギュラー・チューニング時の各弦のテンションは揃っているほうが弾きやすいもので、太さのバランスではなくテンション・バランスに注目して各弦のゲージを選定したセット弦(バランスド・テンション)も販売されています。

弦の交換時期

弦はかなりの張力で張られており常に機械的な振動にさらされるので、使用頻度が高いほど太さの均一性が保てず一部が伸びたり当初の弾性を維持できなくなったりします。これにより当初の倍音が失われサステインが短くなったり、イントネーションや音程が合わなくなったりして性能が劣化するほか、最終的には強度を維持できなくなった箇所で切れてしまいます。弦の劣化は金属の酸化、つまり錆や汚れの付着によっても生じます。弦のサビや汚れは演奏後に乾いたクロスで弦を拭く(手汗をかきやすい人は必須ルーティンです)などすれば対策でき、多少は弦の寿命を伸ばすことができますが、機械的強度の劣化はどんな弦でも生じる現象なので、弦が消耗品であることは否めません。

どんな弦でも張りたてが最もブライトな音色でサステインも伸びやかですが、弦の交換時期は人それぞれです。弦が切れるまで張り替えない人もいれば、1ステージごとに張り替える人もいます。一般的に、スラップを多用する人はブライトさを重視するので交換時期が早く、ブライトさをあまり必要としないスタイルを好む人は交換頻度が低い傾向があります。また、フラット弦はラウンド弦ほどブライトではなく音色変化も少ないので交換頻度は低い傾向があります。

以上をまとめると、弦の交換時期は一定の演奏時間や定期的な頻度で訪れるのではなく、音色の変化を感じたときや自分の好みに応じて“弦を替えようと思ったときが交換時期”というわけです。ちなみにベース弦はよほど強い力で弾くとか著しく劣化するなどしない限り滅多に切れませんが、特定の弦が同じ箇所で何度も切れる場合は弦の劣化ではなく、サドルやフレットが鋭利になっているなど楽器側の不具合の可能性が高いです。万が一、弦が切れたときは1本だけ交換するのではなく音色や質感のバランスを取るためにもセット弦で交換しましょう(緊急時を除く)。

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