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【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】第3回 – チューニングを理解しよう

  • Text:Makoto Kawabe

ここでは、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。第3回目のテーマは、“チューニング”。楽器はチューニングをしなければ正しい音を出すことができません。すべての練習の土台となる大切な知識をここでしっかり押さえておきましょう。

今回はチューニングについて詳しく解説していきましょう。ここでの“チューニング”とは“開放弦の音の高さ(ピッチ)を調節する作業(調弦)”のことです。

チューニングの前に:各弦の音高と音名

開放弦のチューニング

エレクトリック・ベースは、弦の本数に関わらず一番細い弦を“1弦”とします。“2弦”、“3弦”と弦が太くなるほど音は低くなり、4弦ベースでは1弦から、開放弦をG、D、A、Eとするレギュラー・チューニングがスタンダードです。各弦をG弦(1弦)、E弦(4弦)などと開放弦の音名で表記することもありますね。

ピアノ鍵盤上での全12音

※“音名”とは……絶対的な音の高さを意味し、C D E F G A Bに♯(シャープ)、♭(フラット)を加えた全12音で表記します。アルファベットの表記が音名(単音)ではなくコード(和音)を意味することもあるのですが、これらについては楽器や楽譜などに慣れるにつれ文脈から見分けられるようになります。いずれにしてもベースやギターの音名はアルファベット表記がスタンダードです。

レギュラー・チューニングにおける各ポジションの関係

開放弦と5フレット、12フレットの関係

・各弦の開放弦とその1本下(低いほう)の弦の5フレットは同じ音
・各弦の12フレットの音は開放弦の1オクターヴ上の音
という2点は覚えておくといいでしょう。

※レギュラー・チューニングは“完全4度チューニング”と呼ばれ、隣り合う弦の音程が半音5個分の関係となっているので、任意の弦のフレットとその1本下(低いほう)の弦の5フレット先は同じ音程になります。また、任意のフレットの1オクターヴ上の音程は12フレット先にあるので、1本上の弦の7フレット先、2本上の弦の2フレット先も1オクターヴ上の音程となります。

クロマチック・チューナーとは

チューニングをするときに、音の高さを判別してくれる道具がチューナーです。よく使用されるのは、音名とピッチのズレを自動的に表示するクロマチック・チューナーと呼ばれるもので、以下のようなタイプがあります。

クリップ・チューナー
ペダル型の電子チューナー

クリップ・チューナー……楽器本体に伝わる振動をクリップで直接検知する。コンパクトで手軽なアイテム。

ペダル型や据え置き型の電子チューナー……シールド・ケーブルを接続する必要があるが、ほかの楽器が鳴っている環境でも問題なく使用でき、精度が高く反応が速い機種も多い。

スマホ・アプリ……手軽で便利だが、スマホの内蔵マイクで検知するのでベース以外の音がある環境では使いにくいのが難点。

クロマチック・チューナーを使ってみよう

どの弦からチューニングするかは自由ですが、とりあえず4弦をチューニングしてみましょう。4弦の開放弦を弾くとチューナーが反応し、音名とピッチのズレを表示するはずです。まずは目的の音名(4弦開放弦=E)が表示されるようにペグを回しましょう。

ちなみに、ペグは半時計方向に回して弦のピッチが上がる“順巻き”が主流ですが、逆巻きもあるので、自分の楽器がどちらなのか弦のピッチの変化を注意深く聴いてあらかじめ確認しておきましょう。

目的の音名が表示されつつピッチが低いと表示されたら、正しいピッチになるまで慎重にゆっくりとペグを巻きます。正しいピッチを超えてしまった場合は、いったん大きくゆるめて(1/4音~半音程度)再度ピッチの低いほうから探ります。大事なことなので再度書きますが、ピッチの高いほうからペグをゆるめてチューニングするのはNGです。ペグのネジ部分の遊びや弦の張力がヘッド側に溜まることで演奏中にピッチが狂いやすくなるためです。

ピッチの低いほうから合わせにいく
目的の音(E)に合った状態

クロマチック・チューナーはチューニング対象の弦以外が鳴ってしまうと反応が悪くなるので、空いている手のどこかで不必要な弦に触れて鳴らないようすること(ミュート)が不可欠です。また、チューナーの反応が悪いからと何度もピッキングするのは逆効果。ピッキング直後ではなく、サステイン部分(音を長く伸ばした持続音)のほうがピッチが安定するのでチューニングしやすいです。もしも弦のテンション(張り具合)が異常に高くてペグが回しにくいとか、反対に極端にゆるいと感じたら要注意。音名は合っていてもオクターヴ違いかもしれませんので、弦の生音にも耳を澄ませましょう。

4弦がチューニングできたら同じ要領で順次各弦をチューニングします。すべての弦のチューニングを終えたら、念のため再度最初の弦からピッチを確認しましょう。これは各弦の張力の変化がほかの弦のピッチに影響することがあるからです。筆者の場合、さらに(ネックに負担がかからないように)左手で5フレット近辺を押さえつつ右手で1〜2㎝ほど弦を持ち上げて弦を引っ張ることで馴染ませ、再度各弦のピッチを確認します。これを繰り返すことでチューニングが格段に安定します。特に新品の弦を張った直後は必須の作業です。

右手で1〜2㎝ほど弦を持ち上げ、馴染ませる

チューニングの基本は以上となります。
ここからは少し、中級者向けの内容をお届けしましょう。

変則チューニングについて

楽曲の音楽性やプレイヤーの好み、演奏のしやすさなどを優先してレギュラー・チューニングではない“変則チューニング”を採用することがあります。ベースの場合はレギュラー・チューニングよりも低い変則チューニングを採用することが多く、より低い音域までカバーできるようになるほか、弦のテンションが下がることでラウドな音色を作りやすいメリットもあります。

半音下げチューニング
“ドロップD”チューニング

半音下げチューニング……全弦を半音下げるチューニングで、開放弦の実際の音程は1弦からG♭、D♭、A♭、E♭となる。楽譜上はレギュラー・チューニング時の音名のまま表記されることが多く、演奏する際も各ポジションをレギュラー・チューニング時の音名で把握し、実音は意識しないことが多い。

ドロップ・チューニング……高音弦はレギュラー・チューニングのまま低音弦のみを下げるチューニング方法で、“ドロップD”であれば4弦のみをEではなく全音下げのDにチューニングする。譜面上は実音で表記され、演奏時にも各ポジションを実音で把握する必要があるが、弦1本だけチューニングを変えればいいので手軽で、レギュラー・チューニングの楽曲とも併用しやすい。

多弦ベースのチューニング

昨今は多弦ベースもかなり普及していますので、多弦ベースのレギュラー・チューニングも紹介しておきましょう。ベースは弦が何本であっても、“完全4度チューニング(隣り合う弦の音程が半音5個分の関係)”が原則です。4弦ベースのG、D、A、Eを基本として高音弦が増える場合はC弦、低音弦が増える場合はB弦が追加となります。5弦ベースの多くは 4弦ベースを低音側に拡張した“Low-B”タイプですが、まれに高音弦を加えた“High-C”タイプの5弦ベースもあります。“Low-B”と“High-C”との切り替えは可能ですが、弦交換だけでなくナット交換も必要になります。なお、6弦ベースのレギュラー・チューニングは1弦からC、G、D、A、E、Bとなります。

5弦ベース(Low-B)のチューニング

5弦ベース(Low-B)のレギュラー・チューニング……1弦からG、D、A、E、B。4弦ベースに慣れているとポジションを把握するのに苦労するが、最初のうちは5弦を指置きだと思って視界から消すのがオススメ。ドロップ・チューニングでは5弦を全音下げのAにする“ドロップA”のほか、4弦と5弦を全音下げにする変則チューニングを採用するバンドもある。

オクターヴ・チューニング

フレットが打ってある弦楽器は、開放弦のピッチが合っていても押さえるフレットによってピッチが合わない状態になることがあります。これは弦の種類(材質や硬さなど)や楽器のセッティング(弦高やネックの反り具合など)によって生じる誤差で、これを解消するのがオクターヴ・チューニングです。一義的には12フレットの実音と12フレットのハーモニクスが同じピッチになるようにブリッジ・サドルの位置を調整しますが、この調整だけですべてのフレットでオクターヴ・ピッチが厳密に調整できるわけではないので、頻繁に利用するフレットを中心に調整したほうが良いという考えもあります。

オクターヴ・チューニングは、実際には下写真のようにブリッジ・エンドよりネジを回すことで調整します。
・12フレット押弦音が開放弦より低い場合→サドルをヘッド側に動かす。
・12フレット押弦音が開放弦より高い場合→サドルをボディの端(ボディ・エンド)側に動かす。

12フレット押弦音が開放弦より低い場合→サドルをヘッド側に動かす。メーターの針と同じ向きだ
12フレット押弦音が開放弦より高い場合→サドルをボディ・エンド側に動かす
オクターヴ・チューニングの様子

オクターヴ・チューニングは弦の種類やセッティングを変えた際に行なえばよいので、よほど気にならない限りは頻繁に実施する必要はありません。

音の特性を活用して相対的にチューニングする  

音には“うなり”という特性があり、ピッチがわずかに異なる音をふたつ同時に鳴らすと音が揺らいで聴こえ、ふたつのピッチが近づくほど揺らぎのスピードが遅くなり、ピッチが完全に一致すると揺らぎは止まって聴こえます。この特性を利用することで、チューナーがなくても各弦のピッチのズレを確認したり相対的にチューニングしたりすることができます。ただし、この手法でチューニングするには比較対象にできる調律済の楽器や音叉があることが大前提です。

左手で弦を押さえているとペグを回しづらいし、低音は揺らぎが確認しづらい面もあるので、相対的にチューニングする場合はハーモニクスを活用するのがベターです。ハーモニクスは弦を押さえずに指先で触れた状態でピッキングして倍音だけを発音する奏法で、人の声に例えれば裏声みたいなものです。ハーモニクスが出せる弦上の位置をハーモニクス・ポイントと言い、発音後はハーモニクス・ポイントから指先を離してもハーモニクス音が持続します。レギュラー・チューニングでは任意の弦の5フレットと1本上(高いほう)の弦の7フレットで出せるハーモニクスがほぼ同じ音程なので、双方のハーモニクスを同時に鳴らして音の揺らぎの有無でチューニングできますが、精密には合わないので簡易的な手法と捉えておきましょう。これについてはベース・マガジン2021年2月号の126ページ(Bass Basic Knowledge)で詳しく解説しています。

※ハーモニクスで合わせる手順(4弦ベースの場合)
① ピアノなど他の楽器にAを出してもらう
② 同時に3弦12フレットのハーモニクスを鳴らして3弦をチューニングする。
③ ピアノを止めてもらい、4弦5フレットと3弦7フレットを同時に鳴らして4弦をチューニングする。
④ 3弦5フレットと2弦7フレットを同時に鳴らして2弦をチューニングする。
⑤ 2弦5フレットと1弦7フレットを同時に鳴らして1弦をチューニングする。

というわけで、チューニングは問題なくできるようになりましたか? 楽器が正しくチューニングされていないと演奏が台なしですし、ベースのピッチはアンサンブルにとっても重要な要素です。“チューニングは昨日チェックしたから大丈夫!”なんてことは絶対にありません!

リハやライヴの演奏前、可能であれば1曲ごとにチェックする習慣をつけましょう。 最初はピッチの重要性に気がつかないかもしれませんが、頻繁にチューニングをチェックし、正しいピッチの演奏に慣れ親しむことで耳の感度が上がり、より一層快適な演奏とアンサンブルが楽しめるようになりますよ。

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