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    【第60回】リズム感を鍛えたい人が知るべき、リズム感のふたつの面/石村順の低音よろず相談所 〜Jun’s Bass Clinic〜

    • Text:Jun Ishimura

     “リズム感を良くしたい”ってみんな言うけど、そもそもリズム感って何なんでしょうか?

     リズム感には、ざっくり分けるとふたつの面があります。ひとつは①タイム、もうひとつは②グルーヴです。リズム感を向上させるにはどちらも鍛える必要があります。

     先に断っておくと、こういう言葉の“定義”とか“解釈”にあまり捉われすぎないように気をつけてください。リズムや音楽というのは、本来は言葉では説明しきれない世界なんだけど、なんとか理解したい、人に伝えたいということで、名前をつけたり分析したりするわけです。ただ、用語に執着してやたらと理屈をこねくり回したりしていると本質からズレていきます。あくまでも演奏できるようになることが目的なので、言葉は“理解するための道具”として考えましょう。

    ①タイム

     それを踏まえて話を戻すと、タイムというのはリズムの正確さのことです。タイム(time)って“時間”のことだから、時計みたいな正確さと言ってもいいです。つまり、ヨレない、ハシらない、モタらないで、一定の歩幅で歩き続けるスキルですね。

     どんなジャンルの曲を演奏する場合でもある程度の正確なタイム感は必要だというのは、みんなわかっていると思います。そして、タイム感を養うにはメトロノームを使った練習が役立ちます。ほとんどがフィジカルな練習になりますね。これは取り組んでいる人も多いと思います。ただ気をつけたいのは、メトロノームに頼りすぎない使い方をするというポイントですね。

    ②グルーヴ

     では正確に演奏できたらグルーヴするのかというと、実はそうとは限らないんですね。もちろん、あまりにもタイムが悪かったらグルーヴもへったくれもないので、良いグルーヴの土台として、ある程度正確なタイムは必要なんですが、その一方で、タイムは正確だけどグルーヴしてない演奏というのもあるわけです。

     ではグルーヴとは何かというと、例えば“グルーヴは推進力だ”とか“グルーヴはエネルギーだ”とか、いろんな言い方ができますが、“グルーヴは言葉だ”という例えが一番わかりやすいかなと思います。

     日本語、英語、フランス語、スペイン語、そのほか、いろんな言語があって、発音やイントネーションに特徴がありますよね。音楽でも、クラシック、ジャズ、ブルース、R&B、ロック、レゲエ、サルサ、サンバ、そのほか、いろんなジャンルがあって、それぞれグルーヴに特徴があります

     そして、日本語でも英語でもいろんな方言があるように、ひとつのジャンルのなかにも時代や地域によって細かいグルーヴの違いがあります。たとえばひと口にロックといっても、ロックンロール、サイケデリック・ロック、ハードロック、プログレ、パンク、ニューウェイヴ、メタルなどなど、それぞれグルーヴに特徴があります。

     さらに、同じ地域で生まれ育ってもひとりずつ話し方の個性があるように、バンドごと、プレイヤーごとのグルーヴの個性というのもあります。例えば1970年代のファンクでも、ジェームス・ブラウンのバンド、P-FUNK、グラハム・セントラル・ステーション、ブラザーズ・ジョンソン、タワー・オブ・パワーと、それぞれのバンドのグルーヴに特徴がありますよね。

     それぐらい、グルーヴにはいろんな種類があるわけです。何にでも通用するグルーヴというのがあるわけじゃないんですね。だから、例えばファンクだと超グルーヴィに演奏できるのに、8ビートだと微妙で、ラテンだと全然グルーヴできないということもあるわけです。日本語の関西弁だと流暢に話せるけど、英語だと発音が微妙で、スペイン語は全然しゃべれない、みたいなのと同じですね。もちろん、バイリンガルの人がいるように、いろんなジャンルのグルーヴをそれぞれいい感じで演奏できる人もいます。でもそのためには、それぞれのジャンルに特有のグルーヴの特徴、これを掴むのが大事なんですね。リズム感を向上させるには、ただ正確なタイムで演奏するというスキルを磨くだけじゃなくて、フレーズをどう捉えるか、どこから始めてどこに着地するか、どこで呼吸するか、どこに重心を置くか、どういう単位で動くかというグルーヴの“解釈”とか“フィーリング”の研究がめちゃくちゃ大事になってくるわけですね。

     石村順でした!

    石村順
    ◎Profile
    いしむらじゅん●元LOVE CIRCUS、元NEW PONTA BOX。日食なつこ、ポルノグラフィティ、東京エスムジカ、K、JUJU、すみれ、大江千里、松山千春、宇崎竜童、石川ひとみ、種ともこ、近藤房之助、豊永利行、Machico、紘毅、城南海、西田あい、つるの剛士、SUIKA、Le Velvets、葡萄畑など、多数のライブや録音に参加している。ロングセラー『ベーシストのリズム感向上メカニズム グルーヴを鍛える10のコンセプトとトレーニング』の著者。Aloha Bass Coachingではベース・レッスンのほか全楽器対象のリズム・レッスンを行なっている。

    ◎Information
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