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【最強のリズム・セクション extra】金廣真悟(b)× PEGGY(d)- Asuralbert Ⅱ

  • Interview:Koji Kano
  • Photo:Shota Kiyono

 現在発売中の『ベース・マガジン 2021年8月号(Summer)』では、ベーシストとドラマーの“リズム体”に焦点を当てたSpecial Program“最強のリズム・セクション”を約80ページにて実施した。特集内では東京事変の亀田誠治(b)と刄田綴色(b)、仮BANDのBOH(b)と前田遊野(d)による“リズム体対談”をお届けしたが、BM Webではそのスピンオフ企画として、編集部が今注目するリズム体コンビの対談をお届けしよう。

 2020年2月に活動を休止したグッドモーニングアメリカの金廣真悟(vo,g)とPEGGY(d)が新たに始動したプロジェクト、Asuralbert Ⅱ(アシュラルバート2世)は、当初ギター/ベース/ドラムの3人体制で活動していたが、今年3月、ベーシストの脱退を機に、金廣がベーシストに転向。新たにギターレスのふたり組バンドとしてスタートを切った。なぜ金廣はベーシストに転向してまでギターレスという道を選んだのか。“リズム・デュオ”として決意を新たに走り出したふたりの胸中を覗くと、そこには長年活動を共にしてきたふたりが築き上げた絶対的な“信頼関係”があった。

アンプを壊さずにベースからギターをどう鳴らすか。
(金廣)

――2020年2月にグッドモーニングアメリカ(以下、グドモ)が活動休止し、その後すぐにAsuralbert Ⅱを始動したわけですが、結成に至るまでの経緯を教えてもらえますか?

金廣:グドモの活動休止が決まった際、PEGGYから“次どうするんですか? またバンドやりましょうよ”って声をかけてくれたんです。グドモの活動休止からしばらく休憩するという考えもあったんですけど、遅かれ早かれ新しいバンドはやるつもりだったし、待っていてくれる方々もいるので、間髪入れずにすぐ活動を開始することにしました。

――楽曲やバンドのコンセプトなど、グドモと差別化しようという思惑もあったのでしょうか?

金廣:結構ありましたね。自分の音楽的ルーツはブリットポップやメロコア、加えて90年代初頭くらいのJ-popなんですけど、改めてここに戻りつつ、そういった音楽を鳴らそうと考えていました。グドモの規模が大きくなるにしたがって、そういったルーツの部分からは乖離していったこともあったので、改めて一回原点に帰ってみようと思ったんです。ステレオフォニックスやグリーン・デイのような、シンプルだけど骨太、そしてどこか特徴的な音楽を目指したんです。

PEGGY:個人的に、グドモはちょっとテンポが速いなと思っていたんです。グドモの場合はそのときの流行りとかもあってテンポを上げていく考え方だったんですけど、もうちょっとロー・テンポのほうが自分は表現しやすいと思っていたし、フィルとかもロー・テンポのほうがいろいろ引き出せると思いつつプレイしていて。だから新しいバンドをやるならもうちょっとゆっくり、ミドル・テンポのバンドがやりたいなと考えていました。僕のルーツのひとつにはハードコアもあって、ラウドなドラムも大好きなので、そういった意味でもより“男らしい”音楽をやれたらいいなと思っていたんです。

――なるほど。当初からグドモとは違った方向性を目指していたんですね。

PEGGY:ただ金廣さんはポップな音楽を作ることに関して天才的な人だと思っているので、そのポップなサウンドのなかにラウドな要素を入れられたら、グドモとはまた違ったおもしろい音楽が生まれるなと思っていました。

金廣:結局各々が鳴らしたい音を鳴らしてそれが合致するのがバンドだと思っているので、いろいろ試行錯誤しつつ変えていく必要はあるけど、ある意味音楽を始めたばかりの“こういう音を鳴らしたい”っていう衝動を一番大切にしつつ、それを形にしたんです。

――今年3月、前ベースのヤマザキヨシミツさんが脱退したことをきっかけに金廣さんがベース・ヴォーカルに転向したわけですが、なぜ転向してまでギターレスという形式を選択したのですか?

金廣:まず第一に、僕とPEGGYは長いこと一緒にやってきているので、お互いのプレイとか求める部分はある程度理解していて。そのなかでヨッシー(ヤマザキの愛称)はこのバランス感にうまく入ってきてくれたと思うんですけど、彼が脱退して以降、今後を考えるなかで僕たちのこのバランスのなかでうまく立ち回れるベーシスト像がまったく見えて来なくて……。コロナ禍だったこともあってなかなか人と会いづらい状況でもあったので、もういっそのことふたりでやるのもいいかなと、そういうスタンスもおもしろいんじゃないかと思ったんです。

――なるほど。そこからどういう経緯でベースに持ち替えたんですか?

金廣:最初はベースレスのギターとドラムでやってみたんですけど、それだとあまり自分が好きなサウンド感ではなくて。ギターから出る音は結局ギターの音にしかならないし、ローの倍音の感じがどこまで行っても“ギターのロー”なんです。声と一緒で、レンジが低いところまで出るものから高い音を出すことはできるけど、その逆だとどうしても本質的な部分がなくなってしまう。あとギターでベース音をオクターバーで鳴らしたときのレイテンシーがどうしても気になってしまって。ギターよりベースが常にうしろにいるっていうのが気持ち悪いなと。それだったらベースに持ち替えてギターの音も同時に鳴らしてしまおうと考えたんです。もちろん同期という選択肢も考えましたけど、それはいつでもできるし、今はそういう一定なものではなくて生の音をぶつけていきたいと考えたので、ベースに転向する決意を固めたんです。

――7弦ギターやバリトン・ギターという選択もあったのでは?

金廣:そうですね。そういう選択もありましたけど、やっぱりギターはギターですから。例えばロイヤル・ブラッド(編注:イングランドのギターレス・ロック・デュオ)だとショート・スケールのベースを使っているので、自分もショート・スケールのベースを最初使ってみたんですけど、欲しい倍音感が出なくて。だから新たに通常のロング・スケールのJBタイプを購入したんです。

――この形態にするうえで、おふたりで話し合ったりもしたんですか?

金廣:正直、話し合ったというよりはノリ的な部分が大きかったですね(笑)。

PEGGY:実際、新しいベーシストを探してはいたんです。ただやっぱり、自分たちの知らない人を入れたところで、このなかでやっていけるのかっていう見えない部分もあったし、自分たちの周りでやってくれそうな人を考えてみても今の自分たちにピッタリハマる人があまり思いつかなくて。そのなかでロイヤル・ブラッドやトゥエンティ・ワン・パイロッツ(編注:アメリカのふたり組ロック・バンド)などのように、ふたり組でありつつ足りない部分を同期で補うのもいいんじゃないかとは思いつつ、でも実際にやるのは金廣さんなので、簡単に“ふたりでやりましょう”とも言えず、心のなかにその思いを秘めていたんです。そんなとき、金廣さんから“もうふたりで良くないか”という言葉が唐突に出てきて、“今だー!”ということで、“僕もそう思ってました!”と伝えたんです(笑)。

――ということは、意図せずお互いが同じ気持ちを抱いていたと。

PEGGY:そうですね(笑)。ヨッシーが脱退してひと呼吸置いたタイミングだったので、いろいろなやり方を模索しつつ、お互いが同じ考えにたどり着いたんだと思います。

金廣:うん、そうだね。まあでもたまたまだと思いますよ(笑)。

――ベースレスであれば、ザ・ドアーズやザ・ホワイト・ストライプスをはじめ前例も多くありますが、ギターレスというのは前例も少ないと思います。参考にしたサウンドとは?

金廣:やっぱりロイヤル・ブラッドみたいな、ベースでギターを鳴らす方向性を模索しましたね。おかげでこんなにエフェクター・ボードがデカくなっちゃいましたけど(笑)。ベースの音ひとつにしても、単音をただ鳴らすのではなくてオクターバーを入れて分厚い音を鳴らすことも考えましたね。ただやっぱり同期は入れないでふたりだけで完結できるスタイル、加えてアンプを壊さずにベースからギターをどう鳴らすのかということは常に考えています。ちなみにライヴではギター・アンプふたつとベース・アンプひとつの計3台を鳴らしているんですよ。

PEGGY:そうなんです。だからはっきり言ってライヴでは爆音です(笑)。でもそれがこのバンドの良さでもあると思ってるんです。

――3台はすごい迫力でしょうね! Asuralbert Ⅱの楽曲はグドモよりもベースが目立っているというか、ベース・ソロの曲など、前面にベースがある印象を受けました。このサウンド感もギターレスにした要因なのでしょうか?

金廣:それもあるかもしれないですね。3ピースになったら必然的にベースの割合って増えるとは思うんですけど、もともと結成当初から、ギターがなくてもベースとドラムだけで成り立つようなバンドにしたいっていう話をしていたので、そこからの流れもあると思います。だからこそ、自分も必然的にベースに持ち替えるっていう選択をしたのかもしれませんね。

PEGGY:ベーシストによってドラマーのプレイも大きく変わってくるんです。例えばヨッシーはピックでガンガン前に出て弾いてくれるプレイヤーだったので、僕も一緒に前のめりなプレイになる。だから結果的にリズム体の主張が強めな音源になったんだと思います。そのスタンスはふたり体制になっても変えたくない部分でもあるんです。

金廣:やっぱり自分たちが聴いてきた音楽がそういったプレイをするリズム体だったので、自然と自分たちも同じようなニュアンスを欲していた部分もあると思いますね。

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