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シューゲイザーに在る“低音” – 後篇『長谷川正(Plastic Tree)×ハタユウスケ(cruyff in the bedroom)』

  • Interview:Koji Kano
  • Photo:Takashi Hoshino

ギターが好き勝手やってるのを
横目でニヤニヤしながら見てる感じ(長谷川)

━━『loveless』の発売から30年が経った現在、シューゲイザーのサウンドも多様化していて、ドリーム・ポップやネオ・シューゲイザーと言われるサウンドも台頭するなど多様化しているように感じます。

長谷川 やろうとしてることは同じでも、“バンドでやるのか、デスクトップでやるのか”っていう表現方法が変わってきてるように思います。さっき言ったように『loveless』とかだと、今でもどうやって作っているのかわからない部分もあって、そういうものを突き詰めていくとバンドでやれることに限界が出てくるから、デスクトップ的な表現方法に行き着くんだと思います。

ハタ “美しくて耽美的”と“フワフワキラキラで暴力的”っていうキーワードが根底にありつつ、シューゲイザーはその表現方法が進化していると感じるんです。このキーワードでいろんな表現ができるっていうのは本当に珍しい音楽なんだと思います。そのなかで近年は特にバンド・サウンドの方向性が変わっていってる感じがするんですよ。具体的にはあまり過激に歪ませない“ドリームポップ感”のあるバンドが増えてるように思います。

長谷川 シューゲの耽美の部分だね。この部分にフォーカスしてるバンドとか、ギターのチャキチャキ感を押し出すバンドが増えてきた感じはするね。

━━では求められるベースのサウンドやプレイも同時に進化しているのでしょうか?

長谷川 このジャンルの軸になるのはあくまでもギターのサウンドになりますけど、ギターのレンジ感は確実に広がっているはずなので、そこに対してベースがどの位置で鳴っていたら気持ちいいかとか、そういった部分でベースの音作りや帯域も変わってくると思います。ただ自分の場合はあまり変わってないですが……(笑)。

ハタ シューゲイザー・バンドのサウンドは時代とともに多様化しつつも、それぞれ目指してる方向性はみんな近いものがあると思うんです。だから、そこに到達するために各々サウンドやプレイを追求する必要がある。それが進化につながっていると思います。

━━サウンドが進化しているとはいえ、やはりその根底にあるのはマイブラなんでしょうか?

長谷川 そうですね。使うギターはジャズマスター、エフェクターはファズとリヴァーブっていう当時のマイナー機材でこんなに暴力的で美しいものを作り出したっていうのはひとつの発明だと思います。

ハタ うん。その発明が今でもしっかり受け継がれてるからこそ、音楽的にもサウンドの作り方としても革命的なんですよ。ミックスの感じも含めてとにかく暴力的なサウンドなんだけどメロディがどこか甘い。その一方に暴力性もあるからこそ、ここを下支えするベーシストの存在が重要なんです。

長谷川 シューゲイザー・バンドをやるベーシストの皆さんはそういうものを自分が支えてるんだぞっていうことにゾクゾクしてやってもらえるといいんじゃないでしょうか。

ハタ ギター陣は“申し訳ねえ”って思ってますよ(笑)。

長谷川 (笑)。だからそういうギターが好き勝手やってるのを横目でニヤニヤしながら見てる感じですね。

━━時代とともにシューゲイザーのサウンドも多様化しているけど、ベースの役割には一貫したものがあるということですね。

長谷川 ギターの音色が多彩過ぎるだけに、ベースはヘタに飛び道具とかを使うのではなく、それを支える役割に徹したほうが音楽全体としては良いんじゃないかなって思いますね。

ハタ ギターは畳みたいな大きさのエフェクト・ボードを使う人もいますけど、ベースは数を並べまくるのではなくて、必要な音色を見極めるということですね。

━━仰るとおり、このジャンルのギタリストは巨大なエフェクト・ボードでシステムを組んでいる人が多いですけど、ベーシストはわりとあっさりしたボードが多いように思います。

長谷川 バンドのキャラクターにもよるけど、僕自身はそのほうが良いと思ってます。ハタくんが言ったように、いろんなエフェクトを組み込むよりは、音色の部分はギターにある程度任せて、そのうえで必要なものを揃えることが重要だと思います。

ハタ そうだね。やっぱりギターの音色が多彩すぎるから、ベースがどの音色を鳴らすかはアンサンブルのなかで重要な要素になりますね。

長谷川 ただそのなかでも、ベースならではのモジュレーション系とかの表現方法があると思うので、そこは自分たちの音楽に対してどう使うかがセンスだと思います。極論としてはシューゲイザーでスラップをガンガン鳴らすバンドがいてもいいと思うんです。

━━では最後に、改めて“シューゲイザーの魅力”とは何でしょう?

長谷川 何度も言うけど、やっぱり“美しいものと暴力的なものがひとつになった音楽”ということに尽きるかな。果たしてすべての人にそれが伝わるかどうかは定かではないんですけど、そういうものって実は自分がロックに求めていたもの、そのものだったりして。だからロックのなかでは極端な表現方法だとは思うんですけど、自分はそこにグッときた。それを皆さんにも体感してもらえたら嬉しいです。

ハタ 非現実的であることと恍惚感ですね。ドリーミーでありつついきなりぶん殴られる感じ、そしてあの浮遊感は特別なものだし、自分はそういうものが好きでこの音楽をやってるんです。マイブラっていうお手本がいるけど、それは曖昧であるからこそバンドごとに表現方法も違うし、みんなが好きに表現できる。それがシューゲイザーの魅力でもあると思います。ここからまた新たなシューゲイザーが生まれることに期待しています。

▼ Hasegawa’s Gear

長谷川のメイン・ベースは5年ほど前から使用しているESPのオリジナル・ブランド、BROCADE製のPBタイプ。ホワイト・アッシュのボディにメイプル・ネック、指板はスラブ貼りのローズウッドというウッド・マテリアルで、ピックアップはセイモア・ダンカン製のSPB-2をマウントしている。コントロールはヴォリューム、トーンともにフルテンで使用しているとのことだ。“ローが強めでパワフルな音なんですけど、全体としてはまとまっているので轟音のアンサンブルのなかでもちゃんと抜けきてくれるんです”。
長谷川の音作りのカギとなるのが、ダークグラスエレクトロニクス製のVINTAGE ULTRA V2。セッティングのポイントはミッド帯域のコントロールで、ロー・ミッドは250Hz、ハイ・ミッドは1.5kHzをややカットしている。ディストーション・チャンネルは常時オンで、このうえにTECH21製のXXL BASS EDITION(ディストーション)をかけて強い歪みを作り出すこともある。“ひと味違うプリアンプを探していたときにこれに出会いました。ギターのレンジとぶつからないようにミドルを細かく音を作り込める点と、ベースらしいボトムを再現できる点が気に入っています”。

▼ Hata’s Gear

ハタのメイン・ギターは鮮やかなスパークル・ブルーが印象的なグレッチ製の一本。リア・ピックアップがTVジョーンズ製パワートロン・プラスに替えられているほか、ヴォリュームとピックアップ・セレクターのみ生きた配線に改造されており、ホロウ・ボディでありながらもソリッド・ボディのギターに寄ったサウンドにカスタマイズされている。“グレッチでシューゲイザーをやってるのは僕とライドのマーク・ガードナーぐらいでしょうね(笑)。ただやっぱりカッコいいし、これにしか出せない音があるんですよ”。