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シューゲイザーに在る“低音” – 後篇『長谷川正(Plastic Tree)×ハタユウスケ(cruyff in the bedroom)』

  • Interview:Koji Kano
  • Photo:Takashi Hoshino

伝説的シューゲイザー・バンド、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの過去4作品がCD/LPで再発されることを受け、前篇/後篇の2回に分けてお送りする特別企画『シューゲイザーに在る“低音”』。前篇ではマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの軌跡と、彼らのベース・サウンドに焦点を当てた企画をお送りしたが、後篇は、国内シューゲイズ・シーンを長年牽引し続ける、長谷川正(Plastic Tree)とハタユウスケ(cruyff in the bedroom)によるスペシャル対談をお届けしよう。ベーシストとギタリストによるトーク・セッションでシューゲイザーにおけるベースの本質、アンサンブルを見出していく。

結局シューゲイザーってマイブラのことであり
『loveless』のことなんだと思います。(ハタ)

━━おふたりは現在、違うシーンで活動しているわけですが、一緒にバンドをやっていたこともあるとか?

ハタ 4、5年くらい前にセッション・バンドで一緒になったんですよ。20曲くらいやるバンドで、ヴォーカリストが立ち替わりでどんどん入れ替わる内容だったので楽器陣は大変だったと思います。

長谷川 オルタナ系バンドのカヴァーがメインで、イベントのために組んだバンドでしたね。

ハタ でもそれ以前にも、正くんがLemon’s Chairのサポートをしてたときに挨拶程度はしたことあったよね。

長谷川 そうだね。お互いに共通の知り合いも多いし、実はわりと近い存在だったんじゃないかな。

━━さっそくシューゲイザー・バンドの名前も出ましたが、今回は“シューゲイザー”に関してお話を聞いていきます。まず、おふたりはシューゲイザーをどんな音楽だと認識していますか?

ハタ 結局シューゲイザーってマイブラ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)のことであり、『loveless』のことなんだと思います。でもシューゲイザーって何をやっても曖昧な状態にいるというか、この『loveless』っていうマスター・ピースは誰も超えられないんです。けどそれで良いと思えちゃうんですよね。ただ、ひとつ言えるのは“変な音楽”だと思いますよ。

長谷川 まったくの同意見ですね。いわゆるスタイルとしてのシューゲイザーって『loveless』のことなんですよ。ギターのレイヤーや重ね方とかアームを使った特有の揺らすサウンドはある意味ここで完結しちゃってるんですよね。

ハタ だからこの『loveless』は危険なんです(笑)。ヘタに触るとロクなことがない(笑)。

━━ちなみにおふたりがシューゲイザーと呼ばれる音楽を始めたきっかけとは?

ハタ “シューゲイザー”っていう看板で世に出てるのはPlastic Treeのほうが全然先だよね。

長谷川 そうだね。バンドのサウンドにシューゲイズの要素を取り入れたのは国内ではけっこう早いほうだったかもしれない。それこそ僕は『loveless』を聴いて、これはカッコいいなと。それで自分でもやってみたいと思ったんです。あまりに好きになりすぎて、Plastic TreeのライヴのSEは今でも一曲目の「only shallow」なんです。

ハタ それは気分がアガるね。

長谷川 “シューゲイザー”って冠でやり始めたのは、バンドを作ってすぐなので90年代後半くらいからですかね。

ハタ 僕は前のバンドでデビューした当時、ブリット・ポップの全盛期でもろにその影響を受けてたんです。それでいろいろ聴いてたんですけど、そのなかにスウェーデンのワナダイズというバンドの「You & Me Song」という曲があって。シューゲイザーほどじゃないけど、サビでドーンとギターの波が来る曲で、それをきっかけにこういう音楽カッコいいなって思ったんですよ。それで掘っていったら、イギリスのクリエイション・レコーズっていう大御所のシューゲイザー・バンドがいくつも所属するレーベルにたどり着いたんです。

長谷川 絶対そこには一回ぶち当たるもんね。

ハタ そこを聴いていくうちにノイジーなギター・サウンド、そしてシューゲイザーに魅了されてしまったんです(笑)。それで前のバンドが解散になったとき、せっかくこんなカッコいい音楽を知ってるんなら自分でもやりたいなと。マッドチェスターとかシューゲイザーみたいなUKロックのクール感、繊細だけどアグレッシブみたいな部分に惹かれてその音楽を自分でやろうと思ったんです。

━━なるほど。ではお互いのバンドのサウンドにはどんな印象を持っていますか?

長谷川 cruyff in the bedroomは“ロック・バンド”だなって感じるんです。シューゲイザーのなかには音響的なバンドだったり、ガレージに寄ったバンドだったりいろんな形式がありますけど、クライフはその両方に寄ったサウンドなんだけど軸はあくまでもロック。ロックンロールが芯にあるバンドだと思っています。

ハタ そう解釈してもらえるのは嬉しいですね。Plastic Treeは「Sink」という曲を当時聴いたとき、なんか変わったことやってるバンドだなって思ったのが最初。シューゲイザーでありつつ、いろんな要素を独自のフィルターで通したサウンド感が印象的でしたね。

長谷川 あれはたしかに当時としては珍しいサウンドだったんじゃないかな。曲調としてはAメロBメロは抑えめ、サビでガツンと来る“オン/オフ”で、シューゲイザーの要素をスパイスとして入れている曲なんですよ。

━━Plastic Treeはシューゲイザーでありつつ、オルタナやガレージ的な要素を含んだサウンドが魅力ですよね。長谷川さんは作曲も担当していますが、そういった狙いもあるのでしょうか?

長谷川 僕もハタくんと似てる部分があって、ルーツはパンクとかベタなロックンロールなんです。そこからいろいろ聴いていくなかでシューゲイザーをはじめとしたいろんな音楽に出会ったんですけど、基本はロックンロールのフォーマットがあって自分たちもそこは忘れちゃいけないなって思ってるんです。だからロックンロールというジャンルのなかの“シューゲイザー”というひとつのスタイルだと認識してるんですよ。

ハタ シューゲイザーってファッションとかのカルチャー的なものがないんです。だからパンクとかみたいに視覚的にわかりやすいジャンルが羨ましくて。シューゲイザーでそういうのを作ろうとしてもまとまらないし、誰もまとめる人がいないですからね(笑)。

長谷川 うん。ずっとフワフワしたままだもんね(笑)。

ハタ だから音楽としてもカルチャーとしてもフワフワした存在なんだと思いますよ。

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