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    シューゲイザーに在る“低音” – 後篇『長谷川正(Plastic Tree)×ハタユウスケ(cruyff in the bedroom)』

    • Interview:Koji Kano
    • Photo:Takashi Hoshino

    ベースは唯一のコード感であり、
    ヴォーカルのガイドになるパート(長谷川)

    ━━ハタさんはギタリストでありコンポーザーでもあるわけですが、シューゲイザーのベースにはどういったプレイやサウンドを期待するのでしょうか?

    ハタ まずシューゲイザーはベースが良くないと成り立たない音楽だと思うんです。ギターは基本的にループっぽいことをひたすらやっているし、ノイズの壁を作るときってコードとノイズで“壁感”を作るので、そうするとコード感は極めて希薄になる。だからそのコード感を導いてくれるのがベースかなと。だからこそベースが歌ってないとアンサンブルが成り立たないし、そこができてないバンドはいつまでも“シューゲっぽい”で終わっちゃうのかなと思うんです。

    長谷川 結局シューゲイズ系のバンドのベースって、ボトムを支えるということが大前提にあるうえでどこにでも立ち位置を持っていけると思うんですよ。例えばマイブラだとあえてルートを弾かずに変なところを弾いてる曲もあったりして。でもそこを弾くことによってコード感が一気に広がるような感覚もあったりするので、曲にもよるとは思いますけどちゃんとベースとしての役割を果たしつつ、ギターだけでは表現できないコード感を広げる役割も担っていると思いますね。

    ハタ うん。だからある意味ではサウンドの肝なんだよね。正直このジャンルではベースの重要性は特に高いと思いますよ。

    長谷川 あとベースの音選びも重要ですね。ギターのレイヤー具合にもよるけど、ギターが低音弦でボトムを重ねていくようなトラックだとしたら、ベースは4弦開放のEより3弦7フレットのEのほうがアンサンブルのなかでは太く聴こえたりとか。ただこれは感覚的な部分が大きいのでバンドごとに試行錯誤が必要になってくると思います。

    ━━ギターでは担えないコード感をベースが補っているということですね。

    長谷川 そうですね。あとそれに加えて縦軸の気持ちよさをギターで表現するのであれば、ベースは横軸、体が動くようなうねるようなグルーヴを生み出すのもこのジャンルのベースでは必要な役割だと思います。

    はせがわ・ただし●11月16日、千葉県出身。当初はギタリストとして活動していたが、のちベースに転向。1993年に有村竜太朗(vo,g)とともにPlastic Treeを結成する。インディーズでのリリースを経て1997年にメジャー・デビュー。ドラマーの交代などを乗り越えながら2007年には初の日本武道館公演を成功させたほか、海外にも活動の幅を広げている。これまでに15枚のオリジナル・アルバムを発表しており、最新作は昨年リリースの『十色定理』。6月13日にはZepp Tokyoにてストリーミング・ライヴ“Peep Plastic Partition #9 アンドロメタモルフォーゼ”を開催する。
    https://www.plastic-tree.com/

    ━━では長谷川さんがベーシストとしてシューゲイザー・サウンドを鳴らす際、どういったことに気をつけているのでしょうか?

    長谷川 音にはやっぱり悩みますよ。シューゲイザー・バンドだからってベースにもファズをかけてとかいろいろやってしまうと、全体がスカスカになっちゃうんです。

    ハタ そうだね。そこがギターの音作りの認識と違う部分なんだよね。

    長谷川 ギターのトラックが暴力的であればあるほど、ベースは意外とクールに音を作ったほうが全体の音像が良くなるんじゃないかと思いますね。

    ハタ どうしてもこのジャンルはギターが目立つ音楽だから、ベースを差し込む場所はギターとギターの隙間を狙ったりすることもあるんです。でもそこを的確に狙える人と狙えない人の差はバンドの良し悪しにも大きく影響してくる要素だと思います。

    ━━長谷川さんはシューゲイザーのベースで参考としているバンドはいるんですか?

    長谷川 いわゆるシューゲイザーってカテゴリーに入るかどうかはわからないんですけど、カーヴ(編注:1990年にイギリスで結成されたロック・デュオ)が自分のなかでひとつのベースのお手本みたいところがあるんですよ。

    ハタ それ聞いてすごく納得します。Plastic Treeの音像とカーヴの音像は近しいものを感じますから。

    長谷川 全体的な音楽の雰囲気はノイジーなギターが何本も重なっていてシューゲイザーなテイストなんですけど、一方でリズムがスッキリしててインダストリアル的な空気感もあるんですよ。そのなかでベースの主張がとにかく強いんです。

    ハタ うん。シューゲイザー界隈では一番強いかもしれないね。

    長谷川 でも決してめちゃくちゃ超絶プレイをしているわけではなくて、シンプルにループするフレーズが多いんです。なおかつ打ち込みベースでは表現できないような、ちゃんと人間味のあるグルーヴで曲の雰囲気を崩さないし、ギターにも負けない存在感ある音が出ているんです。だからシューゲイザーとしての全体像のカッコ良さは『loveless』に集約されちゃうと思うんですけど、自分がベーシストとしてそういった音楽性の音楽をやるとなって、どんなスタイルでやっていこうか悩んだときにお手本になったのがカーヴなんです。

    ハタ カーヴのアンサンブルはたしかに個性的なんですけど、そのなかでベースの扱いはほかのシューゲ・バンドとはまた違った感覚があると思いますね。

    ━━ハタさんはヴォーカリストでもあるわけですが、“歌いやすいベース”とはどういったものだと考えますか?

    ハタ やっぱりうしろから蹴ってくれるような感覚のベーシストが好きですね。でも、かと言って暴れっぱなしだと歌えなくなりますけど(笑)。シューゲイザーってギターのコード感が希薄な分、普段ライヴではベース・アンプを僕のほうに向けてもらって、ベースの音をめちゃめちゃ聴いて歌ってるんですよ。やっぱりそうやってベースと寄り添えるかどうかは大事ですし、そこでもグルーヴが生まれるのかもしれませんね。

    長谷川 たしかにベースは唯一のコード感であり、ヴォーカルのガイドになるようなパートだと思います。

    ハタ ギターは歪まくってキラキラしてて、倍音出まくりなのでわけがわかんないときもあるからね(笑)。だからこそベースがガイドとしていてくれると安心するんです。

    長谷川 ただギターに関してはそれがカッコいいし、それがシューゲイザーの醍醐味であるんですよ。

    ハタ うん、そこは譲れない部分だからね(笑)。だからベースの人はある意味我慢してる部分もあるんじゃないかな。

    はた・ゆうすけ●大阪府出身。“ジャパニーズ・キング・オブ・シューゲイザー”と称される日本のシューゲイズ・バンドの代表格、cruyff in the bedroomのヴォーカル&ギターで全楽曲の作詞作曲を担当。バンドは1998年に結成され、これまでに6枚のフル・アルバムをリリース。海外からの評価も高く、国内のシーンを牽引している。またバンドと並行してプロデューサー、作詞作曲家、アレンジャー、クラブDJ、イベント・オーガナイズ活動も展開しており、自身のレーベル“Only Feedback Record”のオーナーでもある。また生粋のガンバ大阪ファンが嵩じてJリーグ好き芸人と“芸人Jリーグナイト(トーク・ライヴ@阿佐ヶ谷ロフト)”にレギュラー出演中。
    http://www.onlyfeedback.net/cruyff/

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