PLAYER
“ヴィクター・ウッテンから影響を受けた兼子拓真のベース”にしないといけない。
━━もともと兼子さんが注目を浴びたきっかけもヴィクター・ウッテンの「U Can’t Hold No Groove」のカバー動画だったわけですが、彼の存在はずっと根底に存在し続けていると?
ベースを始めよう、続けよう、極めようって思ったすべての根底にはヴィクター・ウッテンがいて、僕のベーシストとしての真ん中には常に彼の存在があります。でも決してヴィクター・ウッテンのモノマネじゃなく、“ヴィクター・ウッテンから影響を受けた兼子拓真のベース”にしないといけないから、そこはずっと試行錯誤している部分ですね。
━━「Vantablack」の中盤には2回ギター・ソロがありますが、ベース・プレイとしては前半のアコースティック・ソロでは休符を生かした2フィンガーでロー感を担うプレイ、後半のメタリックなソロでは、スラップで攻め立てるようなプレイと、異なるニュアンスのプレイを展開していますね。
ほかの誰かが喋る場面だと、喋っている人のテンション感、話し方、言葉数に合わせてバックも動かないとひとりだけ浮いちゃいますよね。ここは大人しく聴かせたいって部分でうるさくバッキングしても合わないですから。ソロが元気ならそれについていくのがより音楽的だし、カオスなギター・ソロをしていたら自分もそこに合わせたい。だからソリストのテンションに合わせるっていうのは、普段のスタジオ・ワークでも意識していることです。
━━「Tiny Vision」でのスラップはまた方向性が違っていて、ドラム・ビートやキーボードのメイン・リフに噛み合った、よりアンサンブルを意識したフレージングに感じます。
この曲はいわゆる“Jフュージョン”っぽいニュアンスの曲なのですが、喋るスラップというよりも、ちゃんとボトムを支えるプレイを意識しました。ボトムとリズムが前進するようなバッキング・スラップを鳴らせたと思います。「Starting Point」もそういうJフュージョン的なプレイを意識していて、頭のなかに櫻井哲夫さんとか、ナルチョ(鳴瀬喜博)さんを思いかべて弾きました。自分が喋るというよりは、休符とかバッキングを意識した“ザ・ベース・スラップ”をイメージしたプレイですね。
━━スラップ以外の観点だと、メロウな雰囲気の「The Room of Serendip」では全篇にわたって休符やスライドのニュアンスが生きた、スケールの大きなラインになっていますね。
チルとかトラップ・ビートみたいな今っぽさがある曲なんですけど、イメージとしては太った黒人がめちゃくちゃ高い位置でベースを構えて弾いている感じを表現してみました。休符の入れ方だったり、“渋くて太いけど、緩くてチルい”みたいなブラックなニュアンスを演出できたと思います。
━━各所で鍵盤とユニゾンで細かく合わせていますが、作品全体を見てもベースがいずれかの楽器とユニゾンしている箇所が多いですよね。
基本的にDEZOLVEにはめちゃくちゃユニゾンが多いんです。基本的にはユニゾンってソロで喋っている人をほかのメンバーが支えに行くってイメージだけど、フュージョンのユニゾンは全員が対等に喋るというか、ユニゾンとソリストが対等なポジションとして進んでいくと思うんです。だからユニゾンはソロで喋る人と目線、音量、音数を合わせて、同じコア色で喋るように意識しています。
━━基本的にユニゾンはベースも高い音で合わせることが多いと思うんですけど、「Atlantis」でのユニゾンは鍵盤とギターのメロディに対してロー・ポジションのみで合わせていますよね?
曲を作った真央樹さんのなかに“海底神殿”というキーワードがあったようなのですが、海底神殿ってちょっと暗くてどんよりしたものじゃないですか。だからベース・ラインも同じく、渋く重い感じにしたかったんですよね。高いところでユニゾンするのもカッコいいんだけど、低いところで行ったほうがより重く暗く、どっしりとしたユニゾンになるというか、そういうイメージを大切にしたかったのでロー・ポジションを選択しました。
━━「Beyond the Sunset」は“歌がないバラード”という印象で、ギターと鍵盤による美しい主旋が味わえる一曲です。一方、ベース・ラインとしては全体的に白玉のラインで構成された今作でもっともシンプルな展開となっています。
この曲はアルバムのテーマでもある、“やっと陽が登って、コロナ禍が明ける”という切なくも嬉しい思いを示したバラード曲で、実はこの曲だけ全員が同時録音、一発録りなんですよ。だから4人が同じ目線でバラードを作るという思いを大切にするために、ずっしりとしたベース・ラインにしてみんなと気持ちを共有したかった。それにおっしゃっていただいたように泣かしにくるような美しいメロディなので、このメロディを最大限に引き立てる選択ができたと思います。
━━中盤には空気感たっぷりな、ハイ・ポジションでの30秒にわたる長尺のベース・ソロがありますが、楽曲の世界観に合致した美しいメロディですね。
ありがとうございます。このベース・ソロはみんなの目を見て、“この音楽に浸るんだ”って気持ちを大事にしました。だからこのソロを弾いたときは目を瞑っていたと思います(笑)。“DEZOLVEはあくまでも音楽があるうえで技巧をしている”という話を先ほどしましたけど、このソロも音を紡いで行った結果、楽曲にとっては引き算の考え方のほうがより足し算になったというか、テクニックだけじゃない一面を提示したいという思いがあったんです。
━━このソロはあらかじめ計算したプレイというよりも、その場でパッと出た、自由度の高い即興的な演奏に感じます。
そうなんです。今作にはベース・ソロのある曲がいくつかありますけど、同時録音ということもあってこのソロはそのままの音作りで通しで録っているんです。あくまでも4人の目線を同じにして喋ることを意識したし、その場のテンションがフレーズに乗った一発録りの旨みが出せたと思います。“Beyond the Sunset感”を自分でも意識しつつ、空気感を持たせてインプロヴィゼーションで弾き切りました。
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