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    【SPECIAL TALK SESSION】納浩一 × 二家本亮介が語るジャコ・パストリアス

    • Interview:Shutaro Tsujimoto
    • Photo:Takashi Hoshino

    現在発売中のベース・マガジン2月号【WINTER】では、特集『革新された低音解釈 70年代クロスオーバー』を70ページで展開しており、既成ジャンルを横断する新しい音楽ムーブメントとなった、“クロスオーバー・シーン”で活躍したベーシストたちのプレイや功績を再検証している。

    同シーンの顔ともいえるジャコ・パストリアスの特集では、それぞれジャズ界/ポップス界の第一線で活躍するベーシストであり、ともにジャコから多大な影響を受けたという納浩一と二家本亮介による“ジャコ対談”が実現。リアルタイムの興奮を知る1960年生まれの納と、後追いで衝撃を受けた1986年生まれの二家本という世代の異なる両者それぞれの視点から、稀代の天才=ジャコの偉大さについて語り合ってもらった。ここではジャコのルーツ、作曲家としての才能、知られざるブートレグの名盤など、本誌とは別内容でのトークをお届けしよう。

    「Teen Town」みたいな曲を僕も何回も書こうとしたけど。
    ━━納浩一

    ━━まず、ジャコのルーツから話してみたいと思うのですが、幼少期の逸話も凄まじいものが多いですよね。

    二家本 確かジャコはもともとドラマーで、15歳頃にフットボールで怪我をしてからベースを弾き始めたんですよね。

     うん。その時期にジャズを自分から聴くようになったらしいんだけど、きっかけが母親のベッドの下にたまたまあったチャーリー・パーカーの曲ばっかりを演奏するマックス・ローチ(d)のレコードだったらしい。それを聴きながらずっとベースでメロディを弾いていたら、数ヵ月でパーカーの曲を5、6曲弾けるようになったっていう話があって(笑)。

    ━━“レコード・プレイヤーが壊れていてベース・ラインが聴き取れなかったから”と本人は語っていますね。

     そうそう。でもそもそも“ベースでパーカーを弾こう”っていう発想が大きな間違いというか(笑)。そこからもう普通の人とはちょっと違いますよね。それが『Jaco Pastorius』(1976年)の「Donna Lee」につながるんだろうけど、普通パーカーをベースで弾こうなんて当時の人は誰も思わなかった。

    ━━幼少期の話では、ジャコが住んでいたフロリダの環境についてもよく語られます。カリブ海周辺の島々からアフロ・キューバン・リズムの音楽が入ってくるような土地で、彼は幼少期からかなり多彩な音楽に触れていたのだと。

     土地の影響は本人もよく語っていますよね。フロリダは本当にいろんな音楽がミックスされていた場所だったって。ラテンもあればジャズもロックもあるという。

    ━━ちなみに彼は影響を受けたベーシストとして、ジェームス・ジェマーソン、バーナード・オーダム、ジェリー・ジェモットを挙げています。

     やっぱりジェマーソンの影響は色濃いですよね。

    二家本 「Come On, Come Over」とかに、ジャコがセブンスで弾くフレーズがあるんですけど、そういうのを聴くとやっぱりソウル系のセッション・ベーシストをめちゃくちゃ研究していたんだなって思います。セブンスのときに3度から6度、5度とかに行く人を見ると、“あ、この人ジャコ好きだな”って思っちゃうくらい、一聴してジャコを感じさせる音の流れってありますよね。

     ハハハ、うん、わかります。

    二家本 でもやっぱりジャコって“いいコンポーザー”というか、僕は彼が作り込んだベース・ラインがすごく好きです。もちろんセッション的に自由に弾いているのもカッコいいんですけど、「Havona」とか「Donna Lee」のベース・ソロのクオリティが凄まじすぎて。あれは絶対にしっかりと作り込んだソロじゃないですか? 「Punk Jazz」とか「Three Views Of A Secret」とかもだけど、本当にいいメロディー・メーカーだなって。

     そうですね。そういう意味では作曲家、アレンジャーとして見ても、「Teen Town」とか「Three Views Of A Secret」とか、彼の書くものは本当に独特なサウンドですよ。「Teen Town」みたいな曲を僕も何回も書こうとしたけど、ただデタラメみたいな曲になってあんな風にはならない。あの曲って、パーツをバーッと貼ってるだけみたいに聴こえるんだけど、よく聴くとトータルとしてキャッチーなメロディになっていて、すごくよくできている。C、A、F、Dっていうコードの動きもジャコ独特ですしね。あとジャコが作曲でよくやるのは「Liberty City」のCとEの長3度の動きみたいなやつね。そういうアイディアって、ありそうだけど案外彼しかやっていないと思います。

    ━━納さんは2022年の自身のリーダー作についてのインタビューの際、ジャコのビッグ・バンドを意識したという話もしていましたね。

     曲を書くときにはジャコ的なものも相当意識しているので、僕はベースだけじゃなくて作曲でも彼からすごく影響を受けてますね。コード進行だけ拝借させてもらったりね(笑)。影響を受けたものでいうと、それこそ「Three Views Of A Secret」とかは本当にいい曲だなと思います。

    二家本 マジでいい曲ですよ。ジャコの人生を表わしているかのような……とかもよく言われますよね。コモブチキイチロウさんのカバーも好きでした。

     日本人のベーシストたちがジャコの曲をカバーしたアルバムに入っているやつだ(編注:2006年にリリースされた『Play Jaco』のこと。櫻井哲夫、納浩一、日野”JINO”賢二、コモブチキイチロウ、今沢カゲロウ、Akiraが参加した。)

    二家本 そうです。櫻井哲夫さんとかも参加されてるやつですね。納さんも参加されてましたよね?

     僕はあのとき「Continuum」をやりましたね。

    二家本 あのCDも持っていて、よく聴いていました。

    ━━二家本さんは今日たくさんジャコのCDを持ってきてくれましたが、自宅にはどのくらい持っているんですか?

    二家本 ジャコだけで4〜50枚はあると思います(笑)。引っ越しのタイミングでCDはけっこう売っちゃったんですけど、ジャコだけは全部残しました。

    納が所有するレコード。本誌の対談で詳しく語っているが、ジャコ作品で最も好きな1枚を選ぶならジョニ・ミッチェル『Shadows And Lights』とのこと。
    二家本が所有するCDとDVD。最も好きなジャコ作品は学生時代にベース・ソロの映像に衝撃を受けたという『Young And Fire Live!』(DVD)と『The Birthday Concert』とのこと。

    ━━ブートレグのCDもけっこうあります。

    二家本 ジャコの晩年のセッションをお客さんがこっそり録ってたやつとか、すごくいいですよ。ブートレグもけっこう名演とされてるものが多いんですよ。

    納 ブートレグでいうと、あれ知ってる? 1985年の年末セッションみたいな形で、マイケル・ブレッカー(sax)とハイラム・ブロック(g)と、ミッチ・フォアマン(k)っていうメンバーでやってるやつ

    二家本 え〜、知らなかったです。

     「Teen Town」とかお馴染みの曲もわりとやる2時間半くらいのライヴなんだけど、もう全員ミスノートがほぼ1個もないの。“何だこれ”っていう(笑)。でもMCとかを聞いてると、軽く集まってのジャム・セッションって感じで。僕もたまたま買ったんだけど、めっちゃ良かった。ハイラムとジャコとマイケルっていう組み合わせがあんまりないでしょ?

    二家本 すごいですね(笑)。

     ハイラムとジャコはよくあるけど、そこにマイケル・ブレッカーがいるっていうのがちょっと不思議で、いかにもセッションのメンバーっていう感じでね。セッションでこのクオリティの演奏するんだって驚くと思うよ。

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