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INTERVIEW – YUKI[POLYPLUS]

  • Interview:Koji Kano

簡単に言うと全員オフェンスみたいな感じ(笑)。

――「silhouette」はフィルター系エフェクトのベース・サウンドが楽曲全体をリードしている印象です。

 これは派手にかけましたねー(笑)。オクターバーとワウと同時にかけつつ、16分の刻みでピックで弾いています。細かい部分でいうと、ヘッドフォンで聴くとサビではベースがLRで分かれるんですよ。

――ベースをLRで鳴らすのは珍しいですね。

 そうですね。真ん中にいつつ、両サイドにも音を振っています。ウワモノが各パートで近しいプレイをしているので、ベースで思いっきり景色を変えてやろうと思ったんです。テンポもハーフになるのでベースのスペースを大胆に広くしてベースを強調してやろうと(笑)。POLYPLUSでは、ある意味ほかの楽器を食ってもいいみたいなところがあるんですよ。

――なるほど(笑)。サビではグリスとヴィブラートを絡めたような大胆なプレイに驚かされます。

 ここはシンセ・ベース的なアプローチというか、フレット楽器には出せない独特なグリス感を出してみたんです。プレイとしてはかなり長い尺でグリスを鳴らしつつ、そこにヴィブラートを加えています。最初はルートをドーンと一音ずつ弾く感じにしていたんですけど、真面目にルートだけ弾いててもつまらないし遊んでみようと思ったんです。実はこのレコーディングの前の晩、寝てなかったのですが、ちゃんと寝てたらこの判断に至らなかったかもしれません(笑)。

「silhouette」Music Video

――「starry」とはある意味正反対の考え方ですね。

 そうですね。「starry」はあの曲調のなかでクソ真面目にルートの白玉を弾いてるのが逆に奇怪だなと。だから“これでええの!?”っていうベクトルが違うだけで、おもしろさはそれぞれに存在してるんです。それがこのバンドの醍醐味かなと思います。

――今作ではYouTuberや映像制作会社とのコラボも注目ポイントですね。

 そうなんです。「update」ではお笑い芸人でありYouTuberのせやろがいおじさん、「silhouette」では映像制作会社のyuccaさんとコラボさせていただきました。一般的なコラボの概念から離れて、そういう斜め上な感じがPOLYPLUSとして心地よかったりするんです。「silhouette」はyuccaさんからお題となるキーワードをもらって、セッションしながら映像のイメージにハマる曲を作っていったんですけど、こういった作り方は新鮮でしたしいい経験になりましたね。

――インストでは歌がないわけですが、POLYPLUSはサックスを歌として捉えているように感じます。

 パートの特性上、主旋律を担うのはサックスが一番適してますよね。ただ、それに絶対的な役割があるわけではなく、バランスは結構入れ替わってるかなと。常に主旋律が主役というよりも、“全員主役で全員前列”みたいなイメージなんです。簡単に言うと全員オフェンスみたいな感じ(笑)。あと“ここはこれをやってればOKでしょ”みたいなマインドではなくて、常に流動体が5人演奏しているので、それぞれが瞬間的に出す些細な感覚をみんなでキャッチし合いつつひとつの音楽を作っていこうと思っています。

――今作を振り返って、POLYPLUSは5人のジャズ・プレイヤーが新しいインストの形を作っているように感じました。改めて自分たちの音楽の形を客観的にどのようなものだと捉えていますか?

 僕らはあくまでも“インスト・セッション・バンド”という認識を持っていて、メロディやリズムを聴かせるというよりも、人が高揚するための道具としての音楽を鳴らしているイメージなんです。歌詞がないのでメッセージとしては残らないですけど、それはそれでよくて、それぞれリスナーに自由に受け取ってもらいつつ、聴くことでの感情の起伏を感じてもらえたらなと思っています。

――歌詞がないからこそ自由に受け取ってもらえるのかもしれませんね。

 歌詞があってもいろんな受け取り方ができるので、歌詞がなかったらもっといろんな受け取り方ができると思っています。逆に何もキャッチしなくてただただ興奮する形もいいですね。あえて僕らを“ジャズ”っていうカテゴリーで考えるならば、ビートとかコード・ワークの形式ではなくて、“自由である”っていう考え方が一番ジャズな要素なんじゃないかと思っていて。それがこのバンドにおけるジャズなんだと思います。

――一枚を通していくつものベースを楽曲によって使い分けているように感じましたが、使用したベースを教えていただけますか?

 メインで使ったものはSago New Material Guitars製の5弦PJタイプです。そのほかだと同じくSago製の5弦JBタイプや4弦PJタイプも使いました。僕は出したいアタックの硬さによってベースを使い分けているんですけど、今作だとワーミー・ペダルを踏んでいる曲もあるので、そういう場合だとアタックが出すぎないようにPJタイプを選んだりしています。

――最後に、次回作に向け今後どんなベース・プレイをしていきたいかを教えてください。

 POLYPLUSでのベースはこうありたいっていうものは明確にありつつも、年を追うごとに新しいことを試していきたいっていう気持ちが大きくなっていて。今作で思い切ったプレイをしてみた背景には、“どこまでアホみたいなベースが弾けるか”っていうことに挑戦した部分もあるんです。だからライヴでどう再現できるかわからないけど、今後も新しいアプローチに果敢に挑戦してきたいなって思っています。バンド全体としては今作ではガチャガチャしたロック・テイストの曲にも挑戦してみたので、今後はもっとそこに踏み込んでみてもいいかもなって思っています。

◎Profile
ゆうき●1979年6月23日生まれ、滋賀県彦根市出身。2004年に結成されたクラブ・ジャズ・バンドJABBERLOOPのベーシストとして2007年に『and infinite jazz…』でメジャー・デビューし、これまでに7枚のフル・アルバムをリリースしている。また2014
年にはジャズ・シーンで活躍するプレイヤーが集結し、“フロアを躍らせるセッションを”を合言葉としたインスト・セッション・バンドPOLYPLUSを始動させる。そのほかADAM atやDJ OKAWARIなどのサポートも行なっている。POLYPLUSは2021年9月1日(水)に3年ぶりとなる2ndフル・アルバム『move』をリリースした。

◎Information
POLYPLUS:Twitter Instagram
YUKI:Twitter Instagram