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INTERVIEW – YUKI[JABBERLOOP]

  • Photo:Kokoro Niimi
  • Interview:Koji Kano

たった8小節ではあるんですけど、始まりから終わりまでに物語を作りたい。

━━レコーディングで使用したその他のペダル類は?

 WALRUS AUDIOのBadwater Bass Pre-amp and D.I.をメインの音作りで使いました。このペダルの歪みは近年の音源では特によく使っています。やかましめの曲で聴けるザラっとした歪みはだいたいコレですね。

━━「tender」では一貫してローの帯域が強く出た、サステインを絞ったウッド・ベースの質感のような“こもった”サウンドに聴こえます。どのようにサウンド・メイクを?

 これも同じくNano Q-Tronなんですけど、親指でミュートしながら弾くとエンヴェロープされるところまで音が到達せずに、“ボワン”って部分だけ聴こえるんです。ある程度の入力があって初めてフィルターがかかるんですけど、フィルターに達しないぐらいのタッチで弾くとこういう質感の音になるんです。自分のなかにある“チル・ニュージャズ”的なスイッチが入ると、こういうプレイがやりたくなるというか(笑)。ただホーンのメロディとか譜割が難しい曲でもあるので、どれぐらいレイトにやるかは苦労しました。これも一発録りなんですけど、途中のキメとかでグダってる部分もあるけどおもしろいからこのまま進行しようと。

━━間奏と終盤のベース・ソロは、自由度の高いプレイに感じますが、タッチの強さを的確にコントロールすることで抑揚が生まれていますね。

 そうなんですよ。最初は囁くぐらいから弾き初めて、だんだんアタック感を強めていきました。やっぱりソロには“ストーリー性”が欲しいんですよ。たった8小節ではあるんですけど、始まりから終わりまでに物語を作りたい。別に自分がジャズ・プレイヤーという自負もないんですけど、そこは僕が持っているジャズネスというか、ライヴでは音源と違う弾き方で違うストーリーを描きたいと思っていて。“毎回変わって当たり前、同じことを弾いたら負け”みたいな(笑)。決めておいてもしょうがないというか、覚えるくらいだったら毎回違うことを弾けるスキルを持っておいたほうがいいだろうなと。これは各メンバーが持っている考えだと思います。

今作の録音においてメインで使用されたSago New Material Guitars製のオリジナルPJタイプ。“一本で録り切るつもりはなかったんですけど、気づいたらこのベースだけで全部録れちゃいました。それだけ汎用性の高い一本です”と語る。なお「the Force」のみ、同社製のグリーン・カラーのJBタイプを使用したとのことだ。

━━永田さんは同じくジャム・インスト・バンドのPOLYPLUSもやられていますけど、POLYPLUSとJABBERLOOPにおけるセッションにはどんな違いがあると考えますか?

 シンプルにPOLYPLUSのほうがセッション要素が大きくて自由度も高いですね。JABBERLOOPはどちらかというと、もう少し作り込まれたポップス的な要素が大きいかな。それにホーン・セクションの数も違うし、単純にPOLYPLUSにはギターがいますから。マインド的にはPOLYPLUSは全員攻めのイメージで、そのスリル感を楽しむバンド。JABBERLOOPは今回の“白玉の話”にも通じるんですけど、もう少し構築された楽曲を楽しむイメージで、スウィング・ジャズみたいな音楽性が得意ですね。同じ界隈にいるのでパッと聴くと同じような音楽に思うかもしれないけど、近いジャンルではありながらも、そういう違いは僕のなかでつけるようにしています。

━━改めて今作『WAVE』を振り返り、どんな作品になったと実感していますか?

 やってそうでやってなかった新しい要素を提示できたと思っています。この『WAVE』ってタイトルは、“いろいろ世の中が停滞したけど、また波に乗っていこうぜ”って意味が含まれているんです。加えて、波って大きくても小さくてもずっと存在しているじゃないですか? だからそういう大きい/小さいに関わらず、シーンにずっと居続けられるバンドでありたいなっていう裏テーマも自分のなかで持っています。そういう今後につながる一歩の作品になったと思いますね。サウンド的には王道のリズム/サウンドがあるなかでどうやって今までと違う部分を出すかを考えて、ほんの些細な違いとか、そういうところにこだわったアルバム。だからそういう細かい部分に気づいてもらえれば、このアルバムは成功だと思っています。

━━最後に話は変わりまして、永田さんの本誌の連載セミナー『Feel Free Jazz!』も回数を重ねてまいりましたが、これまでやってみた所感はいかがでしょう?

 最初はポップスとかロックをジャズっぽくアレンジする方法を僕なりにご紹介できればと思って始めた連載ですけど、そのなかでもお伝えすることがいろいろあるなと最近は思ってまして。たとえば前回(2023年5月号)やったような奏法的なことはもちろん、理論的なことだったり、曲の構築方法だったりと、単なるジャズ・アレンジだけじゃない部分の要素もすごく生かせる箇所があると思っていて。ジャンルのことを掘り下げたりとか、音楽全体に言及できている点にもやりがいを感じています。“ジャズ”ってワードがついていますけど、ジャズじゃないことでもお伝えできることがたくさんあるし、ジャズにこだわらずやっていったほうがおもしろい内容になると思っています。いくらでもネタは出てくるので、読者の皆さんがわかりやく、学びやすい内容を今後も考えていきたいと思います。

◎Profile
ゆうき●1979年6月23日生まれ、滋賀県彦根市出身。2004年に結成されたクラブ・ジャズ・バンドJABBERLOOPのベーシストとして2007年に『and infinite jazz…』でメジャー・デビュー。2023年6月21日リリースの最新作『WAVE』を含め、これまでに8枚のフル・アルバムなどをリリースしている。また2014年にはジャズ・シーンで活躍するプレイヤーが集結し、“フロアを躍らせるセッションを”を合言葉としたインスト・セッション・バンドPOLYPLUSを始動させている。自身のバンド活動と並行し、中山美穂やADAM atといった幅広いアーティストのサポートも手がけている。

◎Information
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YUKI:Twitter Instagram