PLAYER
冷静と情熱の間で、静かに暴動する轟低音
a flood of circleは、各メンバーの熱量の高い演奏が生々しく混ざり合い、唯一無二のロックンロール・サウンドを生んでいるバンドだ。そのスタイルは前作『CENTER OF THE EARTH』(2019年)でひとつの完成形に到達した。そして、ライヴ・ツアーを経て研ぎ澄まされていったサウンドは新作『2020』でより鋭角に進化し、コロナ禍の影響でリモート上の作業が余儀なくされたことでその情熱的な音楽性に冷静な視点が加えられた。シンプルであることを恐れない表現力を追求するHISAYOは、音楽と一体化するアプローチを志したという。アグレッシブでありながらアンサンブルの中核として機能するベース・プレイについて語ってもらった。
音が出せないもどかしい期間があったからこそ、
スタジオで演奏したときの感動がある。
━━前作『CENTER OF THE EARTH』から約1年半ぶりのアルバムとなった新作『2020』ですが、この期間はバンドにとってどういったものでしたか?
前作が完成したときに“続きがある感じ”がしたんですよね。前作もその時点では最高なものができたとは思うんですけど、もうちょっとやりたいことがあるっていうか、前作が終わった時点から次のアルバムに向かっていた気持ちがあったと思います。曲を作っている佐々木(亮介/vo,g)のなかには、すでにアルバムの構想がありましたね。
━━それにバンド全体でついていった、と。
バンドが向かう大きな方向性みたいなところが、前作で固まった部分もあるんです。それまでは、例えば海外のエンジニアと一緒に新しいことに挑戦したり、バンド・サウンドじゃないものをバンド・サウンドっぽくアプローチしたりだとか、そういった実験的な試みをやってきたんですけど、その流れのなかでやっぱり一度原点に戻ってみようとしたのが前作で、その方向性に対して“やっぱりここだね”っていうモードになったと思います。今、このメンバーでできることに自信がありますし、確固たるものが自分たちのなかでできていて、それを研ぎ澄ませていったのが最近のモードですね。
━━コロナ禍という状況でライヴが中止になったりもしました。それは今作の制作に影響がありましたか?
アルバムに入っている曲は前作を作り終えた直後から佐々木が作り始めていたので、どの曲を録音するのかはコロナ禍の前に決まっていたんですよね。レコーディングは半分は2、3月には録り終えていて、さらに残りの6曲……「2020」「天使の歌が聴こえる」「人工衛星のブルース」「ヴァイタル・サインズ」「Rollers Anthem」などは5月に録るって話していて、3、4月でアレンジ作業を進めようと予定していたなかでのコロナ禍だったんです。曲自体はすでにあったので、予定の変更がアルバムの内容には影響しなかったんですが、楽器の演奏には影響があったと私は感じています。残りの6曲を録るにあたっての準備期間はスタジオに入れなかったので、リモート・プリプロ的なことをやりましたね。佐々木がアレンジ案を何個か送ってくれて、それに私が継ぎ接ぎをしたり、フレーズを変えてみたりとかして。スタジオで対面して作業すれば一瞬で済むことをデータ上で試す感じでした。
━━そうだったんですね。
でも、リモートで良かったことももちろんあるんですよ。バッと音を出しながらだと流れていっちゃうようなアイディアも丁寧に作業することで、グチャっと一気に音を出さずに旋律を丁寧に分けてから確かめたり、(アオキ)テツ(g)がこういうオブリできていたら自分は少しズラして重ならないようにしようっていうバランスを取ったり、俯瞰して考えることができましたね。あとは、音が出せないもどかしい期間があったからこそ、スタジオに入れたときの感動があって、みんなで面と向かって演奏したときの尊さをより強く感じました。どちらのやり方もいいんですけど、そのどちらの良さも生かせたかなと思います。
━━実際にスタジオで合わせてみてベース・プレイが変わるなんてこともあったのでは?
リモートで作業しているときはナベちゃん(渡邊一丘/d)が打ち込みでフレーズを作っていて、それは生っぽい音色ではあるんですけど、スタジオに入って生ドラムに変わっただけで、同じビートを叩いていてもやっぱり気持ち良さは違いましたよね。そうなるとグルーヴも全然違いますし、ベースのフレーズが同じでもニュアンスだったり勢いがまったく変わります。そういう意味では、この制作方法も良かったなと思っていますね。