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    【BM web版】歪みベーシストという生き方②━━辻怜次[Bentham]

    • Interview:Takahisa Kondo

    歪みって、点を線にしてくれるイメージなんです。
    それをつなげたり、切ったり、休符を作ったりしてつないでいく。

     2020年11月号の表紙巻頭にて展開しているSPECIAL PROGRAM『歪みベーシストという生き方』。80ぺージを超えるヴォリュームで、さまざまな角度からベースにおける歪みサウンドを徹底検証している同企画のBass Magazine Web版の記事として、本誌に登場した以外の“歪みベーシスト”たちのインタビューを掲載していこう。

     BM web版“歪みベーシスト”は第一弾として、Cö shu Nie(コシュニエ)の松本駿介を紹介したが、今回はBenthamの辻怜次が登場だ。ダンサブルかつ性急なビートを放つBenthamにおいて、さまざまな音色を使い分けることで楽曲を彩る辻であるが、音作りの根幹となるのは“歪み”である。その音作りのポイントについて話を聞いた。

    歪みで倍音をコントロールして、音を“毛羽立たせる”イメージですね。

    ━━辻さんが“歪み”というものを意識したきっかけは? 

     中学生の終わり頃、当時は関西に住んでいたんですが、GLAYのJIROさんがパーソナリティをされているFM802の“BUGGY CRASH NIGHT”という番組を毎週を欠かさず聴いていたんですよ。ある日、その番組でレッド・ホット・チリ・ペッパーズの「アラウンド・ザ・ワールド」(アルバム『カリフォルニケイション』収録)が流れたんです。そのイントロがカッコよすぎて、“わ、歪ませたい!”って思ったんですよね。あのイントロで完全にハマりました。それで調べたところ、フリーがBOSSのODB-3(ベース・オーバードライブ)を使っていたので、同じものを買いましたね。なので、ODB-3から始まったと言えますね。

    ━━初めて歪みエフェクターを踏んだときの印象は?

     踏んではみたものの、何か音が特徴的すぎて、“これで大丈夫なのかな……”みたいな不安が最初にあって。自宅にあった小さなベース・アンプで鳴らしたせいもあるかもしれませんが、最初は不安からのスタートでした(笑)。

    ━━でも、その時点で歪ませるっていう感覚を覚えたんですね。

     そうですね。それから、高校1年生ぐらいの頃に、知り合いからテック21のサンズアンプ・ベース・ドライバーDI(プリアンプ/DI、以下サンズ)を売ってもらって。で、地元でライヴをするときはサンズとODB-3をかけっぱなしにする、みたいな。それが今の原型ですね。今も足下にあるサンズは、それからずっと使い続けている個体で、一度も壊れずに頑張ってくれていますね。

    左から辻、小関竜矢(vo,g)、鈴木敬(d)須田原生(g)。
    Re: Public <2014-2019>
    ポニーキャニオン/PCCA-04855 【通常盤】

    ━━それが音作りの基礎になったんですね。時代はひるがえって現在、歪ませた自分のサウンドを、バンドのなかにどのように取り入れようと考えていますか?

     基本的に、Benthamのメンバーは“自分の好きな音を出していこう!”みたいに言ってくれるんですよね。レコーディングでも、“歪んでいてもいいじゃん!”とか“こだわるところはこだわろうよ!”って言ってくれる人たちなんです。だから、まずは自分なりの歪みを突き詰めていって、バンドに合うかどうかは自分でも聴きつつ、エンジニアさんやPAさんにも意見を聞く、という感じです。自由にやらせてもらえているのは本当にありがたいですね。

    ━━そのなかで、何か試行錯誤はありましたか?

     歪ませると、音が妙に引っ込んじゃったりすることもありますよね。なので、歪ませる以前に、手元でアタックをコントロールする練習はしました。

    ━━やはり、エフェクターうんぬん以前に、手元のニュアンスが大切なんですね。

     Benthamの前にやっていたバンドで、サウンド・プロデューサーとして佐久間正英さんを迎えた作品があったんです。僕自身はそのレコーディングのあとに加入したんですけど、そのご縁もあって、一度だけ、佐久間さんとライヴをやらせていただく機会があって。そのときに佐久間さんのプレイを観たりとか、ベースを少しだけ教えていただいたんです。なので、僕はいわゆる“佐久間式”と呼ばれる、“逆アングル”のピッキングを意識して取り組んできて。そのうえで歪みを加えると、アタックが残ってはっきり聴こえるような音になるという、そこに行き着いたんですよね。

    ━━まずはピッキングの方法から見直したと。

     それがありつつ、歪みエフェクターの種類ですとか、それをどのぐらいかけるか、などがキモになってくるというか。ちなみに、サンズのツマミの設定については、特に気にしているのはプレゼンスとトレブルですね。おそらく、ほかの人と比べると強調して出してるのかなっていうぐらいのツマミの位置にすることもあります。その音色を生かすためにも、アタックをしっかり出すようなピッキングで音の芯をキープするっていうことは、特にサンズをかけるときに気にしていますね。

    ━━音作りも綿密にやりつつ、最終的にはそれをコントロールする技術を磨いているんですね。

     そうですね。ピック弾きに対しては意識して取り組んできました。プレイヤーとしてこだわりを持って、聴いてくれる人にちゃんと届けないといけないですし、そもそも、歪ませることによって、普通のベースよりも余計に聴きにくくなっちゃうというか、好みが分かれる音色になるのかなとも思っていて。そのなかで、なるべくタイトに聴こえるように意識しています。

    ━━辻さんが考える、“歪み”に対するイメージは?

     例えば音を一本の線だとすると、歪みで倍音をコントロールして、それを毛羽立たせるイメージですね。そうやって、ほかの音と絡ませるんです。

    ━━なるほど! 毛羽立たせることによって周囲となじませるんですね。あと、辻さんのサウンドは、歪んでいるうえに、一音一音の粒立ちが際立っていて、8分や16分でルート音を刻むときも音符がすべて見える印象です。

     ありがとうございます、恐縮です! 歪みの加減もありますし、さっきも話した、ピッキングも、なるべく順アングルにはならないようにしていて。順アングルだと弦がこすれるようなジャリッていうノイズも拾っちゃうので、なるべく逆アングルにして、ダウン・ピッキングで叩き込んだり、弦に対して平行に当てることで、バランスの良いロー感とトレブル感をキレイに出す、というか。それはライヴでもレコーディングでも同じです。あとは、使うピックですね。素材や形など、ピックによってその弾き方を変えたりするので。今は1.0mmのポリアセタールを素材にしたオニギリ型のピックを使っているんですけど、これだとちょっと硬くて、しっかりと弦を震わせることができるので、そこでアタックの部分が出るんです。もしかしたら、それがいい具合に、(リズム的に)縦の線を出してくれるのかなと思います。