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    【BM web版】歪みベーシストという生き方③━━川上シゲ

    • Interview:Koji Kano

    邦ロック黎明期から歪みを鳴らし続ける、
    歪みベーシストの先駆者

     2020年11月号の表紙巻頭にて展開しているSPECIAL PROGRAM『歪みベーシストという生き方』。80ぺージを超えるヴォリュームで、さまざまな角度からベースにおける歪みサウンドを徹底検証している同企画のBass Magazine Web版の記事として、本誌に登場した以外の“歪みベーシスト”たちのインタビューを掲載していこう。

     BM web版“歪みベーシスト”として、第一弾にCö shu Nie(コシュニエ)の松本駿介、第二弾にBenthamの辻怜次を紹介してきた。BM web版の最後となる第三弾には、ベースを歪ませるという概念が、まだ日本に浸透していなかった1970年代より歪みベースを鳴らし続け、国内における“歪みベーシスト”の先駆者として、ベース・シーンに大きな影響をもたらした川上シゲが登場だ!

    当時のベースの歪みは“アタックとアンプ”だったんじゃないかな。

    ━━川上さんが最初に耳にした“歪んだベース”とはどういったものでしょうか?

     1960年代に聴いた、ジョン・エントウィッスルとジャック・ブルースのベースだね。あとちょっと毛色は違うけどティム・ボガートかな。ジョン・エントウィッスルとジャック・ブルースのサウンドは10代の頃によく聴いてたし、ある意味自分の原点かもしれないね。

    ━━当時だと、まだ国内では歪みベースは一般に認知されていなかったのでは?

     うん、そうだね。俺は17歳頃にギターからベースに転向してベースを始めたんだけど、ギターと同じような感覚でベースも弾いてたんだよ。その当時は特に歪むとか歪まないとかは意識したり考えたりしてなかったな。ただ、ベースはピックとか指のアタックでどんどん音も変わっていくし、今みたいに機材もなかったから、その当時のベースの歪みは“アタックとアンプ”だったんじゃないかな。

    ━━なるほど。では、川上さんが最初に意図的にベースを歪ませたのはいつでしょうか?

     いつ頃だろうね(笑)。多分、カルメン・マキ&OZで1976年に出した『閉ざされた街』の2曲目、「崩壊の前日」からだね。これを録ったのは1975年だから俺が23、4歳の頃だな。

    ━━なぜ「崩壊の前日」で歪みサウンドを使ったのですか?

     このときはアメリカのロサンゼルスでレコーディングをやったんだけど、現地で当時のマネージャーがマエストロのベース・ブラスマスターを買ってきたんだよ。それまで俺はエフェクターとかは一切使わずにSunnのアンプにベースを直で突っ込んで、アンプだけで音を作ってたんだけど、試しに買ってきたブラスマスターを使ってみたら、ものすごい音が出て(笑)。それでこれを歪みとしてレコーディングで使おうってなったのがきっかけ。今でも当時のものを現役で使ってるよ。

    1976年に発売されたカルメン・マキ&OZ
    『閉ざされた町』

    ━━当時はどんな設定でどんな使い方をしたのですか?

     俺にとって初めてのエフェクターだったし、何も知識がなかったから、全部フルまでツマミを回して使ったよ。当時はクリス・スクワイアとかも使っていたけど、フルまで上げてるやつは俺ぐらいだったんじゃない?(笑) でもフルまで上げた音が本当にカッコよくて、それをそのまま「崩壊の前日」のイントロに使ってしまったんだよ。ブラスマスターはメロディアスなフレーズを弾くときに使うことが多かったね。

    ━━あのサウンドは当時のシーンでは衝撃的なサウンドだったと思いますが、当時のバンド・メンバーの反応はいかがでしたか?

     そのときは、グランド・ファンク・レイルロードでエンジニアをやってたケヴィンに録ってもらったんだけど、この音が鳴った瞬間、それはもう大喜びだったよ。メンバーもみんなノリノリで誰も文句言うやつなんかいなかったね。

    ━━では、レコーディングを終えてこのサウンドが世に出たとき、リスナーの反応はいかがでした?

     かなりおもしろい反応だったね。テレビ収録だと、ブラスマスターを使ったときはカメラマンがギターの音だと思ってギターを映したりしたこともあった。だから“ギターじゃなくてベースの音だよ!”って言ったりしてね(笑)。みんな“あれは何なの? 何の音なの?”って聞いてきて、当時日本だと誰も見たことも聴いたこともない音だったから、そういう驚いた反応が多かったね。というか、今でも知らない人はみんなギターが出してる音だと思ってるみたいだよ(笑)。

    ━━もはや歪みベースを川上さんが輸入してきた感覚ですね!

     そういうことになるかもね(笑)。当時はベース用エフェクターなんてものはなかったし、ブラスマスターも誰かに影響されて使ったわけじゃないから、たまたまこれに巡り合って、シールドを挿したその瞬間から、自分の音が始まっちゃったんだ。ブラスマスターを使って「崩壊の前日」のイントロを鳴らしたことで、歪みベースっていう存在が一般にあらわになったんじゃないかな。

    ━━ということは、日本で最初の“歪みベーシスト”は川上さんと言えますね。

     うーん、そうかもしれないね。ただ、特別歪みベースを意識してたわけではかったし、ブラスマスターに出会う前からアタックを強めでグリスをたくさん使うプレイをしてたから、自然と歪んだ音になっていたかもしれないね。あと弦と弦を押さえる指の間の空間が振動することでもいい音が出せるし、それもひとつの歪みサウンド。だから意図的に歪みを作っていたというよりは、意図せず出てしまっていたっていう感覚のほうが近いかもね。

    ━━なるほど。そういった意味でも歪みベースの先駆者だと思います。

     どうだろうね(笑)。ただブラスマスターは俺にしか使いこなせないと思ってるよ。あと当時の機材で言うと、Sunnのヘッドが本当に優秀でSunnだけでもいい音が出せるんだよ。

    マエストロ/ベース・ブラスマスター
    1975年に購入した当時のものを、現在でも使用している。スイッチ部分のワッシャーは、思いっきり踏んだ際にスイッチが埋まってしまったことがあり、当時のローディーに付けてもらったもの。

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