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【Live Report】 風街オデッセイ2021 – 2021年11月5日(金)、6日(土)/日本武道館

  • Report:Shutaro Tsujimoto
  • Phoro:CYANDO

風街オデッセイ2021
BASSIST:水健司、亀田誠治、細野晴臣、鈴木茂
●2021年11月5日(金)、11月6日(土)●日本武道館

豪華ゲストが集結した2日間
はっぴいえんども36年ぶりにステージに

 松本隆の作詞活動50周年記念コンサート“風街オデッセイ2021”が、11月5日(金)、6日(土)の2日間にわたって日本武道館で開催された。過去にも、“風街レジェンド”(2015年)、“風街ガーデンであひませう”(2018年)と、“風街”コンサートは開催されてきたが、今回は50周年ということでゲストの数も公演規模も過去最大規模。さらには、両日ともに松本隆、細野晴臣、鈴木茂が“はっぴいえんど”として36年ぶりに演奏するというニュースも開催前から話題を呼んだ。40組以上の豪華ゲストが集結する本公演のバック・バンドを務めるのは、今剛(g)、土方隆行(g)、中西康晴(k)、山木秀夫(d)など日本を代表する凄腕プレイヤーたちが集結した、井上鑑(音楽監督、k)率いる“風街ばんど”。ベーシストは、松任谷由実、山口百恵、松田聖子など日本のポップスにおける数々の名曲でプレイしてきた髙水健司だ。

DAY1:11月5日(金)

 開演前から松本隆作詞の楽曲がBGMとして流れる日本武道館。開演を告げるオープニング映像が流れたあと、トップバッターとして登場したのは鈴木茂と林立夫だ。この日の公演は「砂の女」のギター・カッティングのイントロから幕開けとなった。続く2曲目は、「砂の女」とともに鈴木茂の最初のソロ作『BAND WAGON』(1975年)に収録された「微熱少年」。スライド・バーを使った長尺のギター・ソロは会場を大いに沸かせていた。サンバーストのプレシジョン・ベースをこの日のメイン器として臨んだ髙水健司も、同曲ではスラップを織り交ぜたグルーヴィな演奏で“風街ばんど”の豪奢なアンサンブルに華を添える。

髙水健司

 鈴木茂と林立夫がステージを去ったあと、黒いジャケット姿でステージに上がったのは曽我部恵一だ。はっぴいえんど解散後、松本隆の作詞家デビュー曲となったチューリップの「夏色のおもいで」を伸びやかな歌声で披露し、観客を魅了した。

 「想い出の散歩道」で透明感のある歌声を聴かせ、和やかなMCで会場を温かいムードに包んだのはアグネス・チャン。“私も来年50周年です。(松本隆が)初めて書いた歌謡曲が私のだったんです”と語ると、松本の専業作詞家デビュー作である「ポケットいっぱいの秘密」を披露。1976年にキャラメルママがカントリー調のアレンジを施した同曲のハネたベース・ラインを髙水は巧みな音価コントロールで聴かせ、キュートな楽曲の魅力を際立たせることにひと役買った。

 ここからは女性シンガーたちのステージが続く。“私の歌手生活はこの曲から始まりました”というMCから、筒美京平作曲の「雨だれ」を披露したのは太田裕美だ。続いて演奏されたのは「木綿のハンカチーフ」。日本のポップス界に輝かしい名曲の数々を生み落とした、松本隆・筒美京平という黄金のコンビによる最初の大ヒット曲は会場を一層盛り上げ、フロアからは自然と手拍子も起きていた。太田が舞台から下りると、森口博子がステージに上がり三木聖子の「三枚の写真」と桜田淳子の「リップスティック」を、続いて大橋純子が自身のヒット曲「シンプル・ラブ」と「ペイパー・ムーン」を披露。そして前半戦の最後は、佐藤竹善による原田真二の「タイムトラベル」で締め括られた。

曽我部恵一
大橋純子

 この日の後半戦は、白のヤマハBBを抱えた亀田誠治の登場からスタートだ。亀田は今年7月にリリースされた松本隆の作詞活動50周年を記念したトリビュート・アルバム『風街に連れてって!』のプロデュースを担当した経緯で今回の公演に参加。“風街オデッセイ2021”は、1日目に亀田誠治、2日目に冨田ラボ•冨田恵一と、松本の作品に新しい空気を吹き込んだふたりのサウンド・メーカーが出演する点も見どころのひとつ。この日は亀田のベース・プレイとともに、『風街に連れてって!』参加アーティストのB’z、横山剣、川崎鷹也の3組が、時代を超える名曲を今の時代の新たな形で届けてくれた。

 トップバッターはB’z。彼らは桑名正博の「セクシャルバイオレットNo.1」をB’z流のハードロック・サウンドで届け、会場を熱く盛り上げた。亀田のハイ・ポジションを大胆に使った攻撃的なピック弾きプレイとB’zのふたりのコンビネーションは完璧で、たった5分間のステージながら武道館満員のオーディエンスの心を見事に掴みにしていた。B’zのライヴ・バンドとしての底力を感じさせる、力強いパフォーマンスだった。

 続いては横山剣による「ルビーの指環」と川崎鷹也による「君は天然色」。「ルビーの指環」の演奏後、亀田は“原曲をアレンジした井上鑑さんの前で演奏できて、幸せと緊張です”と本公演の音楽監督への尊敬の想いも語った。「ルビーの指環」では、亀田は指弾きに切り替えてオブリが印象的なサビのラインをなめらかに聴かせ、「君は天然色」では原曲でも印象的なプル・フレーズを艶やかなトーンで響かせていた。

亀田誠治(左)と横山剣(右)
亀田誠治(左)と川崎鷹也(右)

 亀田誠治と川崎鷹也がステージを去ると、舞台中央にはドラム・セットが登場。C-C-Bの笠浩二と米川英之がステージに現われると、電子ドラムのサウンドとともに「Romanticが止まらない」と「Lucky Chanceをもう一度」を披露した。そこからは、イモ欽トリオによる「ハイスクールララバイ」、山下久美子による「赤道小町ドキッ」、早見優による「誘惑光線・クラッ!」と、80年代のシンセ・ポップの名曲たちが立て続けに演奏された。

 バス・ドラムの4つ打ちと、軽快なベース・ラインの絡みが心地良い「夢色のスプーン」を伸びやかな歌声で歌い上げたのは武藤彩未だ。筒美京平の楽曲らしい流麗なストリングスが、平成生まれのシンガーでありながら昭和アイドルの残り香をもった彼女のステージに彩りを添えていた。

山下久美子
武藤彩未

 続いて白い衣装に身を包んだ安田成美が、彼女のデビュー・シングルで細野晴臣作曲の「風の谷のナウシカ」を披露。安田がステージを去ると、モニターには「Woman“Wの悲劇”より」の文字が表示され、会場に期待感と緊張感が入り混じったムードが流れる。そんななか、ステージに現われたのは1999年生まれの若手シンガー、鈴木瑛美子だ。呉田軽穂(松任谷由実)による繊細なソングライティングの妙はもちろん、緊張感のあるシンセ・フレーズが耳をひくイントロや、少ない音数ながら高音を生かしたフレーズで聴き手の琴線に触れるベース・ライン(ベーシストは再び髙水健司)など、同曲の編曲の素晴らしさを改めて感じさせてくれる演奏は感動的だ。この日大役を務めることとなった彼女の堂々とした歌唱も、アンサンブルにナチュラルに溶け込み、その歌声と松本隆の描く詞世界に会場全体が聴き惚れているのが伝わってきた。続いての楽曲も呉田軽穂(松任谷由実)による作曲で、松田聖子の「瞳はダイアモンド」。鈴木瑛美子は先ほどとは異なる、力強いシンガーとしての一面を聴かせ、ベースもファンキーなプレイでそれに応えた。日本のポップス史における屈指の名曲が続き、武道館にはいよいよ公演がフィナーレに向かいつつある予感が漂い始める。

 大瀧詠一の「恋するカレン」などをモチーフにしたインストゥルメンタル・メドレーに乗せて“風街ばんど”のメンバー紹介がされると、続いてステージに上がったのは斉藤由貴だ。彼女は松本隆について“俺ってやっぱりすごいってどこかでほくそ笑んでると思います”というMCを挟みながら、「初戀」と「卒業」という、これまた筒美京平作曲による名曲を歌い上げた。「卒業」では、髙水のオクターヴを使った歯切れ良いベース・ラインと16ビートのドラムが生み出す軽快なグルーヴが、彼女の少しハスキーで美しいファルセットの歌声の魅力を引き立てた。

 本篇の最後では太田裕美が再び登場。武道館に鳴り響く温かい拍手に包まれながら、彼女は本日2度目のステージに上がった。生のストリングスによる流麗なイントロから始まったのは、大瀧詠一作曲の「さらばシベリア鉄道」だ。太田は、この曲の転がるようなアンサンブルの上で芯のある歌声を存分に聴かせ、本篇の最後を締め括った。

太田裕美

 本篇が終了すると一度会場は暗転。本日の主役である松本隆、そしてはっぴいえんどの登場はもう間もなくだ。

オリジナル・アルバム3枚のアート・ワークを使ったオープニング映像が流れたあと、“はっぴいえんど”という文字が“ドンッ”とモニターに表示されると、鈴木茂、細野晴臣、松本隆が順にステージに。サポート・メンバーとして、キーボードに鈴木慶一と井上鑑、アコースティック・ギターに吉川忠英もスタンバイしている。鈴木茂が“こんばんは、はっぴいえんどです。”と告げると、『風街ろまん』(1971年)収録で、鈴木の作曲デビュー作である「花いちもんめ」から演奏がスタート。ハンチング帽を被った細野晴臣は右足でリズムを取りながら、乾いたギター・リフが印象深いこの曲のリズムを松本隆のドラムともに積み上げる。この日のベースは、ヘフナーの500/5だ。ヘフナー特有のトーンと右手の親指弾きによって生まれる丸くて芯のある低音と、細かく刻まれるファンキーなバス・ドラムに乗って心地良いグルーヴを生んでいた。さらには鈴木慶一によるハモりが、鈴木茂のヴォーカルと上手く絡み合い絶妙なコーラス・ワークを聴かせる。

細野晴臣

 「花いちもんめ」が終わると、細野晴臣による“ドラムス、松本隆。ギターに鈴木茂。ベースは誰だ? あ、僕だ。細野です”というメンバー紹介で、会場の空気は和やかに。サポート・メンバーの紹介が終わると、今度は鈴木茂による“素晴らしいヴォーカリストを呼びたいと思います”というアナウンスから、曽我部恵一が再びステージに上がった。大瀧詠一作曲によるはっぴいえんどの最初のシングル「12月の雨の日」が曽我部恵一のメイン・ヴォーカルで披露され、鈴木茂、鈴木慶一、曽我部恵一による3人のハーモニーが会場を魅了した。

井上鑑(左)と曽我部恵一(右)

 3曲目、セットリストのラストを飾るのは「風をあつめて」だった。細野はアコースティック・ギターに持ち替え、ベースは鈴木茂に交代。“生まれて初めて、人前でベースを”と語る鈴木茂がプレイするのは水色のヘフナー・ベースだ。ライヴで聴く「風をあつめて」は、ドラムのビートが原曲よりも強調されて聴こえ、松本隆が繰り出すフレーズの複雑さと繊細さが改めて感じられるような生々しい演奏だった。彼らの“バンド感”溢れるサウンドに、多くの聴衆は胸を打たれたのではないだろうか。

松本隆
鈴木茂

 はっぴいえんどの演奏が終了すると、この日登場した全出演者がステージに一挙集合した。“16歳のときビートルズが武道館に来て、あの辺で観てました。それでバンドってカッコいいからやってみたいなと思って。そこから5年して細野さんと知り合ってはっぴいえんどを作って、あそこからここまで歩くのに50年かかりました”と松本隆は最後に語り、1日目のステージは幕を閉じた。

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