NOTES

2024年2月にリリースされたアルバムから、注目作品のディスク・レビューを公開。

『The Gathering』フェリックス・マーティン

8弦+8弦+5弦+5弦が織りなす情熱的な音モザイク

 ベネズエラ出身、8弦&8弦のダブル・ネックを操るギタリストのインスト新作。その楽器の特性上、チャップマン・スティックやソロ・アコギ音楽のようなサウンドとフレーズ感が前面に出てくるが、ドリーム・シアターやメタリカを彷彿させる③④では、植松伸夫的な世界観で、ゲーム音楽的なサウンド嗜好も強く主張する。ラテン音楽もキーワードのひとつだが、サンバ的な熱狂よりタンゴ的情熱を押し出しており、エモーショナルな面も魅力だ。ベートーヴェンが薫る⑩などにも、テクニカル一辺倒ではない可能性を感じた。ベースのホアン・トレスもまた5弦&5弦のダブル・ネックを駆使しており、ときにタッピングで色を添えるため、ベース本来の貢献がわかりにくいのも事実。ただ、“パーカッシヴな弦楽器サウンドの積み重ね”によるアンサンブルは新鮮かつ刺激的で、楽器の進化とそれによる新しい音楽の誕生という好循環を堪能させてくれる。サウンドだけだと打ち込み的な人工感も表われてしまうため、なんとか視覚的なアプローチも含めて広まってほしいと感じた。(山本彦太郎)

◎作品情報
『The Gathering』
フェリックス・マーティン
Pヴァイン/PCD-25376
発売中 ¥2,750 全10曲

参加ミュージシャン
【ホアン・トレス(b)】フェリックス・マーティン(g)、ニック・クーベス(d)

『TANGK』アイドルズ

ポスト・パンク×ビート・ミュージックが示す弦ベースの新たな可能性

 フジロック、グリーン・ステージでのパフォーマンスも記憶に新しい英国ブリストル出身のポストパンク・バンドによる5作目。ヒップホップ界のトップ・プロデューサーであるケニー・ビーツを起用することでビート・ミュージックのアプローチを導入し、前作ではグラミー・ノミネートを果たすなど評価を確立してきた彼らは、今作でレディオヘッドの盟友ナイジェル・ゴッドリッチやLCDサウンドシステムとのコラボまで果たし、さらなる新境地に。ベースはとにかく音色のアイディアが豊富で、「Grace」でのリヴァーヴを使った独特のローエンド処理、「Gift Horse」でのトレモロ・サウンドでのリフ、「Dancer」でのベースを中央ではなく右チャンネルに配置しギターとシンメトリーにフレーズを鳴らすアイディアなど、トラックメイク的な発想で低音を扱うことでバンド・サウンドにおける弦ベースの新たな可能性をいくつも提示している。シンベ的な発想も採用しながら、エレベのアドバンテージを着実に生かす姿勢から学ぶものは多い。(辻本秀太郎)

◎作品情報
『TANGK』
IDLES
BIG NOTHING/PTKF3041-2J
発売中 ¥2,860 全12曲

参加ミュージシャン
【アダム・デヴォンシャー(b)】ジョー・タルボット(vo)、マーク・ボーウェン/リー・キアナン(g)、ジョン・ビーヴィス(d)、ジェームス・マーフィー/ナンシー・ワン(vo)、コリン・ウェブスター(sax)、他

『PORTRAIT』フジファブリック

多彩な音楽性で示した20年の集大成

 4月に20周年を迎える彼らの、約3年ぶりとなる12作目のフル・アルバム。冒頭からプログレ感満載の①やディスコチックで時代を感じさせる②、ダンス・ミュージックを基調としたなかでハネるリズムが心地よい⑤、8分の6拍子で繰り広げられる壮大で感動的な⑥、緩やかな曲調でヴォーカルを聴かせる⑦⑧など、振り幅の大きい音楽性を詰め込んだ、とても自由度の高い作品となっている。それはベース・プレイも同様で、おもにアンサンブルの低音を支えながらも要所要所で楽曲に彩りを与える③、ミドル・テンポの楽曲にベース・ラインで疾走感を持たせる④、低音から高音まで動き、オクターヴ奏法やスラップ奏法、さらには和音なども駆使する⑨など、多種多様なプレイで魅せ、加藤のポテンシャルを遺憾なく発揮している。バラードから一転してロック、ダンス・ミュージック、そしてまたバラードへと曲調が目まぐるしく変わる⑩は実にプレイアビリティ溢れる楽曲となっている。20周年にふさわしい至極の一枚だ。(水尾公弥)

◎作品情報
『PORTRAIT』
フジファブリック
ソニー/AICL-4493(通常盤)
発売中 ¥3,300 全10曲

参加ミュージシャン
【加藤慎一(b)】山内総一郎(vo,g)、金澤ダイスケ(k)、他

『Songs』Age Factory

アンサンブルの屋台骨を支え続ける低音人としての鏡鑑

 Age Factoryというバンドに対し、どのようなイメージを持っているだろうか。ロック、グランジ、パンク、ヒップホップ……さまざまな捉え方が存在しているかと思うが、それらはどれも不正解ではないだろう。通算5枚目のフル・アルバムとなった今作を聴いていても、楽曲ごとに表情を一変させる“多彩さ”こそが、彼らの持ち味であることを再認識できる。そして3ピースという少数編成のアンサンブルの屋台骨を支えるのが、ベーシストの西口直人だ。ヒップホップで聴かれるトラップ・ビートのような、重厚なバス・ドラムと噛み合いながら“低音”で楽曲を推進させる①、疾走感溢れる2ビート・ナンバー②での、ストロークをコントロールしつつ音価を細やかに聴かせる表現力、サイケデリックな空気感漂う③冒頭でのチューブ・ライクな極太ベース、そしてセクションごとにルートのポジションを変化させることで楽曲に抑揚を付与する⑩など、楽曲ごとに適切なベース・サウンド/プレイで楽曲を彩るさまは、“ベーシスト”としての確かなプライドを感じる。(加納幸児)

◎作品情報
『Songs』
Age Factory
UK.PROJECT INC./UKDZ-0247
発売中 ¥3,500 全10曲(CDはツアー会場限定販売/数量限定)

参加ミュージシャン
西口 直人(b)】清水 英介(vo,g)、増子 央人(d)、他

『音楽』SUPER BEAVER

強く心に響く音世界を堪能できる上質なフル・アルバム

 

キャッチーなメロディや情熱的なヴォーカル、抑揚を効かせたアレンジなどが折り重なって生まれるSUPER BEAVERならではのドラマチックな味わいを継承したうえで、あらゆる面に更なる磨きをかけた意欲作。楽曲の上質さに加えて、気持ちを駆り立てるロック・チューン3曲で幕を開けたあとウォームな④やメロディアスかつエモーショナルな⑤、ミニマルなサウンドで深みのある世界を構築している⑩、光を感じさせるバラードの⑪など多面性を見せる構成も秀逸で、深く惹き込まれる。ベースも充実していてパワフルにドライブする①やファットにウネる③⑧⑫、しなやかなグルーヴが心地いい⑤⑪、グルーヴィな⑥など、各曲のテイストに合わせた細やかなグルーヴの使い分けは実に見事。また、ハイポジを巧みに織り交ぜたカウンター・プレイや③④⑤あたりで聴けるシンフォニックなフレージング、音圧と抜けの良さを兼ね備えた上質なベース・トーンなども聴きどころ。ポテンシャルの高さが遺憾なく発揮された強固な存在感を放つベースを全篇で味わえる。(村上孝之)

◎作品情報
『音楽』
SUPER BEAVER
ソニー/SRCL-12775(通常盤)
発売中 ¥3,300 全12曲

参加ミュージシャン
【上杉研太(b)】渋谷龍太(vo)、柳沢亮太(g,k)、藤原“35才”広明(d)、河野圭(p)、美央/伊能修/黒木薫/入江茜/城戸喜代/村井俊朗/杉野裕/下川美帆/高橋暁/森本安弘/吉田篤貴/沖増菜摘/梶谷裕子/伊藤彩/山本大将/地行美穂/田島華乃/金子由衣/西原史織/大月桃斗/須原杏/加藤由晃/小林万理能/河邉佑里/白須今/名倉主/三輪紫乃(violin)、館泉礼一/二木美里/三品芽生/河村泉/世川すみれ/今井凛/武市華奈(viola)、笠原あやの/内田麒麟/西方正輝/成澤美陽/竹下花音/佐藤慧(cello)

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