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BM DISC REVIEW – BASSMAN’S LIBRARY – 2024 January

2024年1月にリリースされたアルバムから、注目作品のディスク・レビューを公開。

『Empire』yonige

ドライブ・サウンドのなか、要所で魅せるベース・プレイの彩り

 2022年に所属事務所を退所後、メンバーふたりでの活動/運営を経たyonige。2023年に再び事務所に所属し、実に3年8ヵ月ぶりのリリースとなった3rd作。新たな道を自ら切り開いていく前向きな気持ちを歌った③、ミドル・テンポながら疾走感があり、サビのキャッチーなメロディや楽器陣が掻き鳴らす無骨な演奏、胸に迫る歌詞に心が掴まれる⑦など、以前のような恋愛をテーマにした楽曲だけではなく、彼女たちのリアルな経験を乗せた“若者のリアルな感性”が息づく作品となっている。ベースのごっきんは骨太なサウンドを奏で、アンサンブルの根底を支える。要所要所にスライドを用いたメロディアスなプレイで魅せる②、タイム感をピタリとあわせた正確なプレイを展開する③⑥、一転してメロウでしっとりとした⑤では、スライドを織り交ぜたタイトなフレーズのほか、ロング・トーンによる心地よいベース・ラインなどを余す所なく堪能できる。そしてこれまでにないほどのヘヴィなサウンドの⑧に、驚きと同時にバンドの新たないち面を感じられた。(水尾公弥)

◎作品情報
『Empire』
yonige
Digital Release/YONG-0001
発売中 ¥3,500 全12曲

参加ミュージシャン
【ごっきん(b)】牛丸ありさ(vo,g)、土器大洋(g)、堀江祐乃介(d)

『時をかけるメロディー』小山田壮平

ベース・ラインに情緒を与える、抜群のセンスと技術

 元andymoriのフロントマンによるソロ2作目。ベーシストを務めるのは、andymoriに始まり、その後結成された4人組バンドAL、そしてソロ前作の『THE TRAVELING LIFE』(2020年)と、小山田が信頼を寄せ続けてきた藤原寛。デビュー時は“和製リバティーンズ”と称されることもあったandymoriだが、USやUKのガレージ・ロック勢と彼らが一線を画していたのは、3 人編成のなかで躍動するベースがメロディックなカウンター・フレーズを奏でまくる斬新なリズム・アプローチによるところが大きかった。そんな藤原の歌心満載のベース・プレイは本作でも円熟を見せつつも健在で、小山田のヴォーカル・ラインを引き立て、楽曲を彩り奥行きを与え、ドライブしながらアンサンブルをグイグイと引っ張る。メロディアスなリード・ベースならほかにもあるが、藤原のプレイは経過音のニュアンスなどで、低音に情緒を与えるセンスが飛び抜けていると感じた。決して常套句なアプローチでないのに“これしかない”と思わせる演奏を常に叩き出す技術に脱帽。(辻本秀太郎)

◎作品情報
『時をかけるメロディー』
小山田壮平
スピードスター/VICL-65907(通常盤)
発売中 ¥3,300 全12曲

参加ミュージシャン
【【藤原寛(b)】小山田壮平(vo,g,blues harp,spring drum,p, marimba)、久富奈良(d,per)、濱野夏椰/Cruise Chen(g)、ファンファン(tp)、野上幸子(violin)、街角マチコ(theremin)、他

『EVOLVE』NEMOPHILA

妖しく獰猛に轟く、気高き美重音

 メタルを軸にラウドもグランジも呑み込んだ実力派バンドの3枚目。分厚いディストーション・ギターの壁が迫り来る①、のっけから獰猛なヘヴィネスに圧倒されるも、シャッフルのリズムがひと筋縄ではいかないヘヴィ・ミュージックを彩る。複雑なリフが強襲する②など、7弦ツイン・ギターの重厚さと一体化しながらもアタック強めのゴリッとした質感のベース、ハラグチサンの存在感が際立つ。中東の香りかぐわすダンス・チューン④やベースから始まる⑥の異国情緒と近未来感が錯綜するミクスチャー、ディスコ・サウンドとヘヴィ・リフの融合⑦など、独自性を持ったバンドのアイデンティティが炸裂する。ベース・プレイは、⑧の2本のギター・リフの濃密な絡みとなめらかで妖艶なメロディが流れるスリリングな楽曲展開にフックとして入るスラップ、⑨のさまざまなフレーズがせめぎ合うなかでのピック弾きっぷりが心地よい。⑤のピアノに寄り添うベース・ライン、⑩のヴォーカルの抑揚に合わせた歌心あるフレーズも聴きどころ。妖しく美重音を轟かせる傑作。(冬将軍)

◎作品情報
『EVOLVE』
NEMOPHILA
マスターワークス/DDCZ-2303(通常盤)
発売中 ¥3,300 全10曲

参加ミュージシャン
【ハラグチサン(b)】mayu (vo)、SAKI/葉月 (g)、むらたたむ(d)

『らんど』ZAZEN BOYS

緻密なアンサンブルを支えるセンスフルな低音使い

 12年ぶりとなる6thアルバムには、唯一無二の特異な世界観を存分に堪能できるバラエティに富んだ全13曲が収録されており、予測不能に展開されるアンサンブルの屋台骨を支えるのが、紅一点MIYAの放つ低音だ。各所に緻密な音粒を忍ばせながら、変拍子のドラミングとリンクした抜群のリズム・コンビネーションを聴かせる②、音価を巧みにコントロールした一定のショート・リフでグルーヴを推進する⑥、時折りグリスダウンを挟みながら一貫してギターとのユニゾンを展開する⑦、フレット・ノイズを生かした後ろノリのフレージングで向井の歌を支える⑧など、楽曲ごとにベースとしての“立ち位置”を変えながらアンサンブルを彩る姿勢には脱帽で、セクションごとに表情を一変させながら鬼気迫る音使いを聴かす⑩には、プレイヤーとしてのセンスが凝縮されている。また、安定感抜群の力強いルート弾きでグルーヴを推進する③⑤などを筆頭に、チューブライクなドライブ・サウンドもMIYAの魅力。パワフルなその低音からは、弦をハジいた際の微細なニュアンスが聴き手にも感じ取れる。(加納幸児)

◎作品情報
『らんど』
ZAZEN BOYS
MATSURI STUDIO/PECF-3287
発売中 ¥3,300 全13曲

参加ミュージシャン
【MIYA(b)】向井秀徳(vo,g,k)、吉兼聡(g)、松下敦(d)

『Real Life』キンガ・グゥイク

マイケル・リーグとのタッグで到達した新境地

 2019年に「Joy Joy」のMVでブレイクした逸材(1997年ポーランド生まれ、現在はフランス・パリを拠点とする)の新作。2017年の『Dreams』ではグレゴリー・ハッチンソン、2019年の『Feelings』ではボビー・スパークスIIと、ロイ・ハーグローヴ(RHファクター)と関わりのある人材とも共演していたが、今回はスナーキー・パピーのボスで卓越したベーシストでもあるマイケル・リーグをプロデューサーに迎えている。といってもツイン・ベース場面が登場するわけではなく、マイケルはギターやエレクトリック・シタールなど、ベース以外の楽器をプレイして豊穣なバックグラウンドを演出する。“華やかに弾く姿をお望みなら動画をどうぞ”というわけでもないだろうが、このアルバムでの彼女はまさにバンド・サウンドのボトムに位置する。流麗なメロディ、小粋なコード、タイトなリズムを持つ楽曲のなかでベースを響き渡らせることが何よりも楽しい、といった感じだ。スナーキー・パピーのドラマーでもあるロバート・シーライトとの二人三脚ぶりも印象深い。(原田和典)

◎作品情報
『Real Life』
キンガ・グゥイク
WM Germany/5419761758
発売中 ¥3,090 全9曲

参加ミュージシャン
【キンガ・グゥイク(b,vo)】ブレット・ウィリアムズ/ジュリアン・ポラック/ニコラス・セムラド(k)、マイケル・リーグ(k,g)、ケイシー・ベンジャミン(aerophone)、ロバート・シーライト(d)、他

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