NOTES

2023年12月にリリースされたアルバムから、注目作品のディスク・レビューを公開。

『印象万象有象無象現象』パスピエ

アンサンブルの心地いい位置に存在するベース

 クラシックやニュー・ウェイヴ、テクノポップを軸に、ジャンルを縦横無尽に行き交うパスピエ。結成15周年を前に発表した9thアルバムでも新境地を開拓し続ける姿勢に驚くが、一貫してポップ・ロックに着地しようという気概のある作品に。1曲ずつ聴き込むと、各パートの足し引きの妙でグルーヴを作り出している。それが顕著なのが露崎義邦で、本作では全篇でベースが“心地のいい位置”に存在している。定位的な意味もあるが、アンサンブルのいてほしい場所にフレーズが入っているイメージだ。ジャム・セッションの如く自由に弾きつつ、抑揚のあるプレイで没入感のあるノリを生んだ①、緻密な平歌のプレイとメロディックなサビの対比が心地よい③、シンセの間に入る生ベースがスパイスとなった⑧、また演奏だけでなく音色も多彩。歌を前に出すため、プレイの豊富な引き出しを一瞬では聴き手に悟らせない点にも露崎の手腕を感じる。つまり聴けば聴くほどクセになってしまうのだ。パスピエがポップたる所以に露崎のプレイが大きく寄与しているのは間違いない。(神保未来)

◎作品情報
『印象万象有象無象現象』
パスピエ
ユニバーサル/POCE-12204(通常盤)
発売中 ¥3,080 全11曲

参加ミュージシャン
【露崎義邦(b)】大胡田なつき(vo)、成田ハネダ(k)、三澤勝洸(g)

『月で読む絵本』クジラ夜の街

アルバムへの中毒性を高める、ヒネりという毒気

 タイトルに銘打たれた“絵本”のように目の前に情景が浮かび、物語を感じさせてくれる。そんな確固たる世界観のある作品だ。アルバムはしっとりとメロを聴かせるポップ・ソングや、ストレートなロック・ナンバー、おもちゃ箱をひっくり返したようなスカ・チューン、アッパーな昭和歌謡など、色とりどりの楽曲が並び、この“絵本”のストーリーを作っていく。そしてそれら楽曲は、キャッチーかつドラマティックでありつつ、ちょっとしたヒネりも併せ持つ。このヒネりという“毒気”によって、彼らが作り出す深淵な音の世界に引き込まれてしまうのだ。そして多彩な楽曲に合わせ、ベース・プレイも表情豊か。メロディアスなプレイで曲に寄り添うときもあれば、一転してバキバキなスラップを叩きつけ、場面が変わるとウォーキング・ベースで渋くボトムを支える。エフェクトを使った音の変化もおもしろい。そんな裏方に徹するだけではない多弁なベーシストと、隙を見せるとフレーズを入れてくるスタイルのドラマーによる “口数多め”のリズム体。このコンビもバンドの売りのひとつだ。(辻井恵)

◎作品情報
『月で読む絵本』
クジラ夜の街
クラウン/ CRCP-40672(通常盤)
発売中 ¥3,000 全14曲

参加ミュージシャン
【佐伯隼也(b)】宮崎一晴(vo,g)、山本薫(g)、秦愛翔(d)

『KNOWER FOREVER』ノウワー

超絶技巧ポップスを彩る2種のベース・グルーヴ

 ジャズやファンクを吸収しながらも、マルチプレイヤーらしい振り切ったクセを持つルイス・コール。彼とジェネヴィーヴ・アルターディ(vo)のユニット、ノウワー6年ぶりのアルバムは、新世代のジャズ/フュージョンからエレクトロニクスまで、技巧的な演奏をポップに仕上げている。コールは作曲・アレンジに加えてドラムを担当。超絶ドラマーとして知られる彼を支えるのはサム・ウィルクスとモノネオンで、ともにLAジャズ・シーンで活躍する実力派だ。ウィルクスは幅広いスタイルが得意で、②はメロウなフィルター・ベースを、⑧ではメタリックでガッツのある旋律を聴かせる。一方でパーカッシヴなグルーヴを得意とするモノネオンは③⑥などでフリーキーなグルーヴを披露。ひたすらにタイトなコールのドラムに対してズラしていくウィルクス、同じタイム感で突っ込んでいくモノネオン。ひとりが叩くドラムでもタイプが異なるベーシストによってリズムの印象はガラリと変わる。多彩なグルーヴのニュアンスをぜひ感じ取ってほしい。(伊藤大輔)

◎作品情報
『KNOWER FOREVER』
ノウワー
ビート/BRC748
発売中 ¥2,640 全12曲

参加ミュージシャン
【サム・ウィルクス/モノネオン(b)】ルイス・コール(d)、ジェネヴィーヴ・アルターディ(vo)、ライ・ティスルスウェイト/ジェイコブ・マン/ポール・コーニッシュ/チキータ・マジック(k)、アダム・ラトナー(g)、デヴィッド・ビニー/サム・ゲンデル(sax)、ほか

『いまも忘れらんねえよ。』忘れらんねえよ

結成15周年イヤーを締めくくる2枚組アルバム

 2023年に結成15周年を迎えたロック・バンドによる4年ぶりフル・アルバム。オリジナル15曲を収めたDISC1に加え、トリビュート・プロジェクト“忘れらんねえよを歌ってみた”と題されたDISC 2では、豪華アーティストによる5曲の楽曲カバーを収録している。DISC1の大半でベーシストを務めるのは、近年ライヴ・サポートも務めるヒトリエのイガラシ。パンキッシュで疾走感のあるアンサンブルをしっかりと支える“シンプル・イズ・グッド”なアプローチを基本に、適宜ハイ・ポジションでのメロディアスなフレーズなどでリズム的フックを作り出すセンスは流石のひとこと。⑭での金属感と温かみを兼ね備えたドライブ・サウンドなど、楽曲への高い理解度が可能にする巧みな音作りにも注目だ。DISC2では、安藤裕子、田所あずさ、NakamuraEmi、もっさ(ネクライトーキー)、橋本絵莉子といった女性ヴォーカリストたちによるカバーが聴けるが、彼女たちの歌声を通じて柴田隆浩の曲の持つメロディの魅力やポップスとしての強度を新たな視点から再発見させる企画になっているのも興味深い。(辻本秀太郎)

◎作品情報
『いまも忘れらんねえよ。』
忘れらんねえよ
ユニバーサル/UMCA-10097
発売中 ¥4,950 全20曲

参加ミュージシャン
【イガラシ、ササキ(b)】柴田隆浩(vo,g)、ロマンチック☆安田/カニ ユウヤ/神田ジョン(g)、トオミ ヨウ(k)、タイチサンダー(d)、ほか

『WORLD』Elephant Gym

天性のフレーズ・メイカーが創出する予測不能な音使い

 類まれなる演奏センスを武器に、世界的な躍進を続ける台湾発3人組の4th作。ベーシストのKT Changが奏でる低音は、ある種“常套化”したとも言える、ロック・バンドにおけるベース・プレイの概念を覆すものであり、特に今作でのプレイは衝撃的なものだ。彼女らが多大な影響を受けたと語る亀田誠治が参加した④では、バンドの個性が爆発したインストゥルメンタルを展開。タイトなドラミングとノイジィなギター、そしてそこに華を添えるピアノと濃密に絡み合いながら、亀田とKT Changが奏でるダブル・ベースの旋律が鍵となり楽曲を組み立てていく。ソングライターのほか、ベーシストとしても脚光を浴びるTENDREが参加した⑨では、TENDREの透き通る歌声とリンクするかのように、休符を巧みに入れ込んだ音づかいで彩るKT Changのフレーズ・メイクに脱帽。台湾のシンガー林以樂をゲストに迎えた⑧では、ライトハンドを駆使したショート・リフで楽曲を彩る一方、中盤では攻撃的かつ予測不能な高速プレイに移行するなど、天性のフレーズ・メイカーの才能が末恐ろしい。(加納幸児)

◎作品情報
『WORLD』
Elephant Gym
WORDS Recordings/WDSR-006
発売中 ¥2,970 全10曲

参加ミュージシャン
【KTチャン(b,vo)、亀田誠治(b)】テル・チャン(g,p)、トゥ・ジアチン(d)、?te/TENDRE/リン・イーラー/シャシャ・ティルパティ/ホン・シェンハオ/KCWO(vo)

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