NOTES

2023年11月にリリースされたアルバムから、注目作品のディスク・レビューを公開。

『What Cha Got』ボビー・ヴェガ

ピック弾きとグルーヴ・ミュージックの完璧なマッチング

 サンフランシスコを拠点にするファンキーなピック弾きの名手による、26年ぶり2作目のソロ・アルバム。10代でボ・ディドリーやスライ・ストーンの作品に参加し、その後のビリー・プレストンやサンタナとの共演、ロッコ・プレスティアの代役としてのタワー・オブ・パワーでのプレイなど50年近いキャリアをとおしてピック弾きを追求してきた彼は、本作でこの奏法のさらなるポテンシャルを提示し、ピックとグルーヴ・ミュージックの完璧なマッチングを示してくれている。ベースとギターのカッティングが絶妙に連動しながら豊かなリズムを作る①、スラップ・スタイルのピック弾きによる独自の音色が心地良い②、ファンクネス溢れるブラッシングがボビー奏法の真髄を映し出す⑤など、聴きどころは多数だ。また⑥をはじめ美しいピッキング・ハーモニクスが各所で良い味を出しているが、これは本誌11月号のピック弾き特集でも本人が語っている“ティアドロップ型のピックの鈍角のなだらかな面を弦に当てる”独特なピックの握り方に由来するサウンドだろう。(辻󠄀本秀太郎)

◎作品情報
『What Cha Got』
ボビー・ヴェガ
Little Village/国内は配信のみ
発売中 全9曲

参加ミュージシャン
【ボビー・ヴェガ(b,,gt)】プレイリー・プリンス(d)、ジミー・パフ(p)、キッド・アンダーセン(g)、イェンス・クルーガー(banjo)

『在ライフ』在日ファンク

豪華アーティストも参加する、極上のファンク・サウンド

 “ジェームス・ブラウンからの流れを汲むファンクを日本に在りながら再認識する”意をバンド名に掲げる在日ファンクの5年ぶりとなる6作目。初っ端から聴き手のハートを鷲掴みにする在日ファンク節が炸裂する①や、小気味よく韻を踏んでいき心躍らせる②によって、バンドの世界観に引き込む極上のファンク・アルバムだ。さらに本作には、重くなりがちなテーマを陽気さも交えて届ける④に七尾旅人、舞台に向けて制作された楽曲をリアレンジした⑤に高岩遼(SANABAGUN.)、そのほか③④にサイトウジュン(YOUR SONG IS GOOD)、⑦にMC.sirafu(片想い)、①⑨に気鋭のジャズ・ピアニストでSTUTSのサポートなどでも知られる高橋佑成が参加し、楽曲に多彩なサウンドをもたらしている。スライドやスタッカートなど、的確なプレイによって楽曲のノリを生み出す③⑦⑧、ロング・トーンや歌うようなベース・ラインが耳に馴染む⑨など、村上啓太のグルーヴィなベース・プレイは全曲とおして心地よく楽曲を彩る。⑩での安定したベース・ソロも必聴。(水尾公弥)

◎作品情報
『在ライフ』
在日ファンク
カクバリズム/ DDCK-1078
発売中 ¥3,300 全10曲

参加ミュージシャン
【村上啓太(b)】浜野謙太(vo)、仰木亮彦(g)、永田真毅(d)、橋本剛秀(sax)、ジェントル久保田(tb)、村上基(tp)、七尾旅人(vo)、高岩遼(vo)、サイトウジュン(organ,fx)、MC.sirafu(steelpan)、高橋佑成(p,k)

『ラブ&ピース!マスターピース!』サンボマスター

デビュー20周年を飾る充実感に溢れた10thアルバム

 2017年に発売された『YES』以降にリリースされた全10曲と①④のFIRST TAKEトラックを収録したフル・アルバム。キャッチーなメロディを貫いたうえでパンクが香る①やレゲエ・テイストを用いた③、ダンサブルな④、ヒップホップのような導入部を配した⑧、ウォームなシャッフル・チューンの⑩など、幅広さを見せる楽曲群は実に魅力的。効果的な場面転換や静と動の対比を生かしたアレンジなども秀逸で、聴き応えのある一作に仕上がっている。ベースは各曲のカラーに合わせて懐の深さを発揮していることがポイント。力強く疾走するルート弾きを筆頭に、②のキレのいいユニゾン・リフ、グルーヴィな③⑥、メロウなフレージングを配した⑨、ルート弾きにコード感をプラスしている⑥⑨等々、聴きどころは多い。また、①⑨⑩でベースだけになるパートがあることやストレートなオクターヴ・フレーズ/ウォーキング・ラインなどを弾かない姿勢、ファットなトーンなども注目。職人的な堅実さと個性を両立させた上質なベースを全篇で味わえる。(村上孝之)

◎作品情報
『ラブ&ピース!マスターピース!』
サンボマスター
Getting Better/VICL-65872(通常盤)
発売中 ¥3,300 全12曲

参加ミュージシャン
【近藤洋一(b)】山口隆(vo,g)、木内泰史(d)

『クロスロード』ユニコーン

バンドの遊び心を低音で支える安定のベース・プレイ

 セルフオマージュと、とにかく明るいことをコンセプトに作ったというユニコーンによる17枚目のアルバム。メンバーそれぞれの幅広いバックグラウンドに由来するさまざまなアイディアと彼ら一流のユーモアがバンド・サウンドだけにこだわらない多彩な全11曲に結実している。楽団風の表題曲①をはじめ、遊び心が効きすぎて、ヘヴィ・メタルを思わせるテクニカルなプレイをフィーチャーした哀愁のロック・ナンバー⑩が生真面目すぎるように思えるが、どの曲からもビートルズ以来のロックの伝統が感じられるところは、やはりユニコーンならではなのだろう。そのなかで、ホーンも鳴らしながら沖縄民謡とスカを掛け合わせた⑧で刻むリズムの歯切れの良さ、サーフ調のロックンロール⑨の不穏な音色、⑩のサステインを効かせ、うねらせたフレーズなど、耳に残るプレイも閃かせつつ、EBIのベース(④のみABEDON)は基本、ずしっとした音色でバンド・アンサンブルの下を支える役割に徹している。そのプレイには気づくと、鳴っていてほしいところで鳴っている安心感がある。(山口智男)

◎作品情報
『クロスロード』
ユニコーン

キューン/KSCL-3472(通常盤) 
発売中 ¥3,300 全11曲

参加ミュージシャン
【EBI(b)】ABEDON(k)、奥田民生(vo,g)、川西幸一(d)、手島いさむ(g)

『THE GREATEST UNKNOWN』King Gnu

シンセ・ベースを多用した、新たなベーシスト像を提示

 今やドーム・ツアーを行なうほどの存在となった彼らの、約4年ぶりとなる4th。この4年間にリリースされたシングルはすべて収録されているため、耳馴染みのあるナンバーはあれど、叙情的なメロディや緻密なアレンジ、ドラマティックな曲展開で形作られた楽曲群は、どれも心を一瞬にしてつかむ求心力を持つことを再確認させてくれる。今作は作品の場面転換の役割を果たすインタールード的な楽曲を含んだ全21曲で構成。静と動、硬と軟、美と醜などさまざまな色の曲が交錯し物語のように進み “アルバム”としての意味が強く感じられる作品となっている。新井和樹のベースに耳を向ければ、今作はシンセ・ベースが多くを占める。音色や音価などシンベの長所や魅力を生かしたライン作りで、強固かつグルーヴィに曲の骨子を担っており、ベーシストとしての魅力に揺るぎはない。むしろ、ベーシストとして新たなスタイルを手に入れ、アップデートをしたのではないだろうか。今最も先鋭的な音を作る彼らが、満を持して提示した今作。その鋭さと切れ味は、予想の上を行っていたことは間違いない。(辻󠄀井恵)

◎作品情報
『THE GREATEST UNKNOWN』
King Gnu
Ariola/BVCL-1352
発売中 ¥3,630 全21曲

参加ミュージシャン
【新井和輝(b)】常田大希(g,vo)、井口理(vo,k)、勢喜遊(d)

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