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【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】第25回 – “人工ハーモニクス”に挑戦(ハーモニクス 応用篇)

  • Text:Makoto Kawabe

この連載では、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。

第23回第24回と学んできたハーモニクス。今回は“応用篇”として、人工ハーモニクスについて紹介します。

はじめに

ベースの音域以上の高い音が出せるハーモニクス。とはいえ開放弦のハーモニクス(ナチュラル・ハーモニクス)は出せる音程が限定されてしまうので、実際の楽曲で使いこなすのは難しいですね。

でも“人工ハーモニクス”を使えば、どの音程も簡単に出すことができますよ。楽曲での使用頻度はあまり高くありませんが、技術的にはそれほど難しくないので演奏方法と使いこなし術を覚えておきましょう。

人工ハーモニクスとは?

前回の“ハーモニクス 理論篇”で解説したとおり、ハーモニクスが鳴るポイントは弦振動の節であり、弦長の整数分の1に相当する位置ですが、弦振動の節が生じるのは開放弦だけではありません。任意のフレットを押弦して弾いたときにも弦振動の節は生じており、ハーモニクスを鳴らすことができます。

いわゆる“人工ハーモニクス”は、任意のフレットを押弦した状態でのハーモニクス音のことで、奏法としては“タッピング・ハーモニクス”と“ピッキング・ハーモニクス”の2種類があります。

これにより、開放弦の音程に縛られることなくさまざまな音程のハーモニクスを鳴らせますし、ヴィブラートやチョーキングなど、ナチュラル・ハーモニクスではできない表現テクニックを併用することも可能です。

タッピング・ハーモニクス

タッピング・ハーモニクスは、ハーモニクス・ポイントを右手の指先で素早くタップする(叩く)ことで鳴らすハーモニクスです。

ちょっと実践してみましょう。左手で3弦3フレットを押さえ、右手人差指を使って3弦10フレット上で弦を叩いてみてください。

ハーモニクス音(1弦12フレットの実音とほぼ同じ高さのG音)が出ましたか? 的確に10フレット上を叩かないとしっかりとしたハーモニクス音が出ません。“弦だけ”を叩くのではなく、スラップのように弦を瞬間的にフレットにヒットさせるのがコツです。

叩いた指先は弦から離しても弦に触れたままでもハーモニクス音が持続しますが、叩いた指先で弦をフレットに押し付けてしまうと10フレットの実音が出てしまうのでNGです。慣れてきたら15フレット、8フレット、6~7フレット近辺なども叩いてみてください。色々な音程のハーモニクス音が出せますね。

タッピング・ハーモニクスは、ハーモニクスの音量に対して弦とフレットがヒットするバズ音がやや大きいのが音色的な特徴であり難点でもあります。

タッピング・ハーモニクス

ちなみに、右手の指先を指板に押し付けて実音を出すのは“タッピング奏法”です。

タッピング奏法は、指板上で右手の指先でハンマリングやプリングすることでピッキングすることなく実音を発生させるテクニック。タッピング・ハーモニクスととても良く似ていますが、奏法の目的や実践方法がちょっと違います。タッピング奏法については別の機会に詳しく説明します。

ピッキング・ハーモニクス

ピッキング・ハーモニクスは、左手で押弦しつつ別の指でハーモニクス・ポイントに触れてピッキングすることでハーモニクス音を出す奏法です。これも実践してみましょう。

1弦12フレットを左手の親指の側面で押さえつつ、19フレット上を同じく左手の薬指や中指で触れてピッキングしてみてください。かなり高いハーモニクス音(1弦19フレットの実音のほぼ1オクターブ上のD音)が出たら成功です。

左手でハーモニクス・ポイントに触れるピッキング・ハーモニクス

ピッキング・ハーモニクスには別の実践方法もあります。右手でハーモニクス・ポイントに触れつつ、右手でピッキングする手法です。ベースの場合は右手の親指の側面でハーモニクス・ポイントに触れて、人差指か中指でピッキングするのが主流です。

先ほどと同じハーモニクス音であれば、左手の任意の指で1弦12フレットを押さえつつ、19フレット上で右手親指を触れさせ、右手の中指か薬指でピッキングします。

右手でハーモニクス・ポイントに触れるピッキング・ハーモニクス(上から)
右手でハーモニクス・ポイントに触れるピッキング・ハーモニクス(正面から)

ちなみにギターの場合のピッキング・ハーモニクスはあらかじめピックを短く持ち、ダウン・ピッキングする際にピックとほぼ同時に親指を弦に触れさせてハーモニクス音を発生させる手法が主流で、メタル系のギターで特定の音程を出すよりも効果音的に使われることが多いです。

この手法はベースでも可能ですが、そもそもの使用目的が異なるのと、かなり歪ませないと充分な音量が得られないのが難点です。

タッピング・ハーモニクスとピッキング・ハーモニクスの使い分け

タッピング・ハーモニクスは指板上に限定されますが、ピッキング・ハーモニクスは指板上にはないハーモニクス・ポイント(ボディ上のピックアップ近辺など)も使うことができます。

タッピング・ハーモニクスに比べてピッキング・ハーモニクスは音量を確保しやすいですが、左手で押弦しつつ指板上のハーモニクス・ポイントに触れる場合は大きなストレッチが強いられがちですし、 指板上にないハーモニクス・ポイントは位置を特定しにくいのが難点です。

最初に実践した、3弦3フレットを押弦し15フレットをタップするハーモニクスは3弦15フレットの実音と同じ音程、10フレットをタップするハーモニクスは1弦12フレットの実音とほぼ同じ音程でしたが、前後のフレーズにポジション移動の余裕があるのならば人工ハーモニクスよりも実音で鳴らしたほうが簡単ですし確実です。

ポジション移動の制約がある場合を除いて、実用上は実音で出せる音域をハーモニクスで鳴らしてもあまり意味がないので、タッピング・ハーモニクスでは3倍音以上、ピッキング・ハーモニクスでは12フレット以上のポジションで実践してこそ活用する意味がある奏法と言えるかもしれません

いずれにしても、短い弦長(ハイ・ポジション)や高次になるほど、ハーモニクス・ポイントの位置がシビアになるので、的確に位置を把握することが重要です。

人工ハーモニクスのハーモニクス・ポイント

人工ハーモニクスのハーモニクス・ポイントは法則性を理解すれば簡単に見つけられます。

ハーモニクス・ポイントは“弦長の整数分の1”に相当する位置であり、開放弦のナチュラル・ハーモニクスでは低次倍音から12、7(19)、5(24)……フレットでしたね。

※ハーモニクス・ポイントについての解説はこちら

人工ハーモニクスでもハーモニクス・ポイントは押弦しているフレットに12、7、5……を足したフレットにハーモニクス・ポイントがあります。

3倍音のハーモニクス・ポイントは押弦しているフレットの7フレット上にありますが、これは該当するフレットの実音の1オクターヴ上に相当するハーモニクス音です。

実例を挙げると、1弦17フレットの実音はC音ですが、7引いた10フレットを押弦した際の17フレット上のハーモニクス・ポイントで1オクターブ上のC音に相当するハーモニクスを鳴らせます。

4倍音のハーモニクス・ポイントは押弦しているフレットに5を足した位置であり、押弦したフレットの実音の2オクターブ上に相当するハーモニクス音なので、例えば1弦12フレットを押弦した際の17フレット上のハーモニクス・ポイントで2オクターブ上のC音が鳴らせます。

ちょっとややこしいですが指板上のハーモニクス・ポイントについてまとめると、実音の1オクターブ上は7引いたフレットを押弦してタップする、2オクターブ上は5足したフレット上をタップする、といったところでしょうか……。

筆者的には実音の1オクターブ上は弦長の半分の位置でピッキング・ハーモニクスするほうが断然分かりやすいです(笑)。

指板上にないハーモニクス・ポイントは目測で弦長を分割して位置を見極めるのが手っ取り早く、俯瞰して見るとなんとなく判断できるようになります。まずは目星をつけて親指を当てつつハーモニクス・ポイントを探しましょう。

1960年代仕様のジャズ・ベースでは30フレット近辺にフロント・ピックアップが、45フレット近辺にリア・ピックアップがあるので、これらの構造物を目安にするのも良いでしょう。

人工ハーモニクスを活用する

人工ハーモニクスのハーモニクス・ポイントは上記のとおりですが、即興で狙った音程を出すのはなかなか難しいかもしれません。

とはいえ、メロディとして活用するなら左手の運指とハーモニクス・ポイントの位置関係はシンクロするので、最初の一音の位置が判明すれば、あとは左手の運指に合わせてハーモニクス・ポイントを動かしていくだけなので、それほど難しくないかと思います。

慣れてきたら簡単なメロディを弾いてみてください。

タッピング・ハーモニクスを使った譜例

ピッキング・ハーモニクスを使った譜例

楽譜上の人工ハーモニクスの表記は統一されていない印象がありますが、筆者が書く譜面ではハーモニクス音をひし形で表わしつつ、タブ譜は押弦するフレットを菱形で囲い、ハーモニクス・ポイントを()内にフレット位置で表記しています。

指板上にないブリッジ寄りのハーモニクス・ポイントについても相当するフレット位置で表記しています。

タッピング・ハーモニクスは“↓”や“T.harm.”などで、ピッキング・ハーモニクスは“P.H.”などと表記することもあります。

ピッキング・ハーモニクスの名演というと、やっぱりジャコですね。ウェザー・リポートの「Birdland」冒頭で聴ける甲高いメロディがベースのピッキング・ハーモニクスによる演奏です。

前半が弦長の半分の位置(ネック~フロント・ピックアップ近辺)による2倍音、後半は前半とまったく同じ左手の運指で1/4の位置(フロント~リア・ピックアップ近辺)による4倍音による演奏です。

ピッキングの強さ、ハーモニクス・ポイントの正確さはもちろんですが、ジャズ・ベースのリア・ピックアップのみにしないと同じ質感の音色は得られません。良し悪しはともかく、ピックアップ位置が1cm異なる70年代のジャズ・ベースでも同じ質感の音色にはなりません。

バードランドの冒頭

まとめ

ハーモニクスの解説が続きましたが、いかがだったでしょうか?

その名のとおりハーモニクスは“倍音”なので、綺麗に鳴らすには正確にハーモニクス・ポイントを把握することはもちろん、倍音が多く含まれる弾き方や音色作りも重要です。

指弾きであれば①ブリッジ寄りでピッキング、②ピックアップが選べる場合はブリッジ寄りのシングル1基を選択、③パッシヴ・トーンを全開、この3点が基本です。人工ハーモニクスは使用頻度が少ないかもしれませんが、独特の響きと憂いのある音色はエレキ・ベースの隠れた魅力でもありますね。

人工ハーモニクスで遊んでいると色々と音楽的なアイディアも浮かぶと思いますのでぜひ実践してみてください。

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◎講師:河辺真 
かわべ・まこと●1997年結成のロック・バンドSMORGASのベーシスト。ミクスチャー・シーンにいながらヴィンテージ・ジャズ・ベースを携えた異色の存在感で注目を集める。さまざまなアーティストのサポートを務めるほか、教則本を多数執筆。近年はNOAHミュージック・スクールや自身が主宰するAKARI MUSIC WORKSなどでインストラクターも務める。
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