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追悼 – 加部正義

  • Text:Yuichi Gamo
  • Interview:Yusuke Mikami(Bass Magazine 1996 MAY), Hisayoshi Ishihara(Bass Magazine 2004 DEC)
  • Photo:Eiji Kikuchi

ここからは過去のベース・マガジンに掲載された加部のインタビュー記事を改めて紹介しよう。まずは『ベース・マガジン 1996年5月号』から、1970年代前半に存在した幻のバンド、ウォッカ・コリンズが再結成し、アルバム『ケミカル・リアクション』をリリースした際のインタビューだ。“天才ベーシスト”と称された加部が自身のベース・プレイについて語った貴重な内容となっている。

同じフレーズをずっと弾き続けるのが一番難しいよね。

━━今回はベーシストとしての役割を果たしてるわけですね。ところで普段はベースの役割なんて意識していますか?

 してないね。ギターみたいに“ジョン”って弾いちゃうからさ(笑)。

━━ギターに対抗するかのようなフレーズが、加部さんの特徴ですよね。

 対抗っていうか、ギターのつもりで弾いてるんだ。だけど、うまいベーシストの出す“ドーン”っていう迫力のある1音も好きだよ。俺もああいうプレイをやってみたいんだけどね。

━━加部さんのフレーズは、派手なものが多いでしょ? でも、派手なだけじゃなくてすごく安定しているんですよね。基礎的な部分がしっかりしている、なんて言い方は失礼かもしれませんが……。

 長くやっているからなんじゃない? 基礎っていうか、なんとなく自然にね……長くやっているっていうだけだと思う。

━━フレーズの引き出しも異常に多いでしょ?

 多いんじゃなくて適当なんだよ。特にステージでは、深く考えずに合ってなくても弾いちゃうんだ。そうこうしているうちに、合ったフレーズが偶然出てくる(笑)。だから、引き出しが多いわけじゃないんだ。自分が弾いたフレーズは、二度と同じように弾けないしね。もっとも潜在意識みたいな部分では覚えているのかもしれないけどさ。

━━加部さんのベース・サウンドって、ちょっと歪んでるんだけど全体的にうまくなじんでるっていう感じですよね?

 なじむことは大切だよ。でもいい音を作るのって難しいよね。ウォッカ・コリンズの音は、なかなかいい感じになってるかな。

━━過去、サウンド・メイキングの研究をした時期なんてあるんですか?

 3人でやっていたピンククラウドの頃だね。ギター・ソロになると隙間が空くでしょ。そこをうまく乗り切るために、ベースのサウンドとかフレーズについて考えたんだ。

━━でも、ピンククラウドではうまく間(マ)を生かしてるっていう印象があったんですけど?

 最終的にはその隙間はそのままでいいって思うようになったんだ。そこを埋めようとしても無理があるってことに気がついたんだよ。

━━じゃあ当初、隙間は不安なものだった?

 うんうん、すごく不安だったよ。レコーディングしたあとに聴き返してみて、“これで平気なのかな?”っていつも思ってたんだ。結構ツライものがあった。だから最初の頃は、なるべく音数を増やすようにしてたんだよ。

━━そうだったんですね。

 俺のプレイが確立されたのは、Charとジョニー(吉長)と一緒にやるようになってからだと思うんだ。それ以前は、けっこう適当にやってたからね。で、Charたちと一緒に3人でやるようになってから、間(マ)を生かすっていうような、ちゃんとしたプレイについて考えるようになったんだよ。

━━あのバンドは加部さんにとっても大きな存在だったわけですね。

 うん。でも最初は、3人で“ブィーン”って適当にやるんだって思ってたんだ。ところがいざやってみたら、けっこうキメの多い曲がたくさんあってさ。「シャイニン・ユー、シャイニン・デイ」なんか大変だった。ベースは“ドン・ドドッ”だけでしょ。バックにキーボードでもいたらいいんだけど、3人だけだからねえ。どうしていいかわからなくて不安だったんだ(笑)。けっこう困った覚えがあるよ。……でもああいうのは勉強になったね。そのおかげでプレイ・スタイルが確立できたんだと思う。決められたワクのなかでのプレイっていうのを知ることができたんだ。まあ、たまにはワクからハミ出るんだけどね。

━━ずっとハミ出したまんまでもおもしろかったんじゃないですか?

 そしたらもっと早く解散しちゃってたかもね(笑)。……とにかくCharとジョニーと長くやってたおかげで、ベーシストとして成長できたんだと思う。長くやって慣れたっていうのが一番大きいのかな。やっぱり最初は戸惑ったからね。それまで何も考えずに弾きまくっていたんだからさ。

━━加部さんにとっては弾きまくるほうが楽?

 同じフレーズをずっと弾き続けるっていうのが一番難しいよね。“ドンスドドン”っていうのを3分間続けるのはけっこう大変。俺が“パラパラ”って弾いたときは、間(マ)が持たないっていうことだよ。それか次のコードがわからないっていうときだな。4音弾けばどれかが合うだろうなってね(笑)。

『ベース・マガジン 1996年5月号』

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