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ブルー・デタイガーが語る、ベーシストとしての哲学とフェンダー製シグネイチャー・ベース

  • Interview:Shutaro Tsujimoto
  • Translation:Tommy Morley

フォーブス誌が選ぶ“世界を変える30歳未満30人”を表彰する『Forbes 30 Under 30』ミュージック・リストのカバー・アーティストを飾るなど、音楽界に旋風を巻き起こしているブルー・デタイガー(Blu DeTiger)。フェンダーから、彼女とのコラボレーションで開発されたシグネイチャー・ベース、Limited Player Plus x Blu DeTiger Jazz Bassが新登場した。本モデルの発表に際し、本人へのインタビューが実現。シグネイチャー・ベースへのこだわりとともにベーシストとしての哲学についても語ってくれた。

フェンダー史上最も軽くて、ライヴで演奏し続けても腰を痛めることがないベースになった。

━━ベース・マガジン初登場ということで、まずはプロフィールから聞かせてください。ベースを始めたきっかけは?

 ベースを弾き始めたのは7歳のときで、兄がドラムをやっていた影響で自然と楽器を手にするようになった。私はみんなとはちょっと違うユニークな存在になりたいと思っていたから、ギターではなくてベースを選び、それから恋に堕ちたの。昔はフェンダーのムスタング・ベースやプレシジョン・ベースを使っていたんだけど、ファンクやディスコ・ミュージックにのめり込んでからはジャズ・ベースに惹かれるようになっていった。

━━どんなベーシストに影響を受けてきましたか?

 シックのバーナード・エドワーズが大好き。ほかにもラリー・グラハム、マーカス・ミラー、ミシェル・ンデゲオチェロ、ジェームス・ジェマーソンはいつだって私にとってのヒーロー。

━━過去のインタビュー“DJをやりながらベースを弾くことで、ベーシストとして鍛えられた”と語っていました。興味深いので詳しく教えてもらえますか?

 17歳のときにニューヨークでDJを始めたんだけど、DJ中にベースを持ち込んでプレイするスタイルをやっていた。流れている音楽に対して即興でベース・パートを重ねていたのだけど、そのお陰でインプロヴィゼーションが上達したし、音楽に対する耳が養われて曲をすぐに覚えられるようになった。DJをやるためにはあらゆる年代のヒット・ソングを知っている必要があるから音楽の知識もとても広くなったしね。膨大な曲にあわせてベースを弾いているうちに、いつしかそれが染み込んで自分の音楽やベース・ラインを作るときの助けになっていったと思う。

━━これまでレコーディングした作品で、代表作を3曲挙げるとすると?

 クローメオ(Chromeo)と何曲か一緒に作ったんだけど、まずはそのうちの「Bluetooth」という曲。まさに私のプレイ・スタイルを反映している曲だと思う。それから、彼らと作った「enough 4 u」。この曲にも私らしさがよく出ていて、ブーツィー・コリンズのようなエンヴェロープ・フィルターを使ったベース・サウンドがとてもクール。3つ目は「Vintage」。私にとってはベース・ラインを作ること自体が“曲のメロディを書いている”ような感覚なんだけど、「Vintage」にはそれがよく出ていると思う。

━━あなたはセッション・ベーシストとしても、ドミニク・ファイクやキャロライン・ポラチェック、ジャック・アントノフ率いるブリーチャーズなど、名だたるアーティストと共演しています。これまでに立ったステージで、特に印象深いものを挙げるとすると?

 ブリーチャーズが『サタデー・ナイト・ライヴ』に出演したときにベースで参加したんだけど、あれはニューヨークのアイコン的な番組だから本当にクールな経験だった。あとは最近マディソン・スクエア・ガーデンで初めて演奏して(編註:2024年6月にODESZAによる公演のスペシャル・ゲストとして出演した)、あそこもニューヨークを象徴する会場だからこの街出身の私にとっては特別な体験だった。それから最近終えたばかりの自分のヘッドライン・ツアー。今年リリースした『All I Ever Want Is Everything』の全曲を演奏することができて楽しかったし、観客のエネルギーもすごくて素晴らしい経験だった。

スタジオやツアーに何十本も持っていかなくても、1本であらゆるサウンドが出せるようなベースが作りたかった。

━━フェンダーから発売された自身のシグネイチャー・ベース Limited Player Plus x Blu DeTiger Jazz Bassを構想するうえで、何を一番重視しましたか?

 “マーケットに存在していないものを作りたい”という思いがあって、そのなかでも特にスタジオでもライヴでも使えるような汎用性の高いベースはまだ目にしたことがないと思っていた。それで私はツアーに持っていくのに適した軽量なベースを作ろうと考えるようになり、結果的にこのベースはフェンダー史上最も軽くて、ライヴで演奏し続けても腰を痛めることがないベースになった。

━━レコーディングでさまざまなサウンドに対応できるうえ、ライヴでの使いやすさも重視したと。

 音についてもこのベースは抜きん出ていて、パンチとドライブ感の両方を兼ね備えたサウンドを得ることができる。ハムバッカーのピックアップを搭載しているんだけど、こういうレイアウトってフェンダーにとっても初めてのことだったみたいね。コントロールの設定によってさまざまな音作りをすることができて、広範囲な音域もしっかりと鳴らすことができる。もちろんルックスにもこだわっていて、私はパフォーマーだからステージで輝きを放つ楽器にしたかった。

━━ヴィジュアル面のコンセプトは?

 それ自体が芸術品のように際立っている楽器が好きだから、美しくてつい眺めてしまうのはもちろん、ステージ上でプレイしている姿もクールに見えるものを目指した。ラメ塗装も気に入っているし、私の名前がブルーなのでブルーを使いたかった。たくさん色見本のなかから、お気に入りのブルーを見つけることができたわ。

━━ピック・ガードがミラーになっているのも特徴的ですね。

 ピック・ガードがステージ上で光が当たると反射して輝いてくれるのは、とても気に入っている点。ミラーなので、最前列のお客さんからだとピック・ガードに自分が映って見えるからおかしく感じるでしょうけど(笑)。

━━ピックアップやプリアンプに関して、どんな点にこだわりましたか?

 チェンバード構造のボディにすることですごく軽量なものになったけど、そのせいでロー・エンドやミッドが失なわれないようにしたかった。だからピックアップのレイアウトやプリアンプをうまく組み合わせることで、どの周波帯域も失なわずに、絶妙なバランスを実現できている。ライヴで演奏する際もレコーディングのミックスのなかでも、きちんとヌケてくるサウンドが素晴らしいわ。

━━チェンバード構造のボディとのことですが、一般的なベースを持ったときに違和感を覚えるくらい大きく重量感が異なるのでしょうか?

 うん、腰がすごくラクに感じるくらい全然違っている。一般的なベースだと、私はプレイし終えるとマッサージを受けなきゃいけないくらい腰が痛くなってしまう。ベースってそれだけ重い楽器じゃない? でも軽い楽器をライヴで使うようになってからは、もう重いものは別の楽器って感じよね。特にこのベースは移動を伴うときに本当にグッドな楽器で、空港に行くときに重い楽器を持ち運ばなくていいのは身体に負担がかからなくてとても助かっている。

━━ピックアップやプリアンプは既存のモデルを参考にしたのでしょうか? それともゼロから設計したのでしょうか?

 ハムバッカーはこのモデルのためにゼロから作ったもので、とても良いものになった。ネック側のピックアップはジャズ・ベース用のPlayer Plusノイズレス・ピックアップで、プリアンプにもPlayer Plusのものを採用している。つまりこのベースはゼロから作ったものと既存のもののコンビネーションをうまく調整することで、幅広い音作りを実現したということ。

━━コントロールが充実しているのは、あなたがペダルよりもベース本体のノブの操作でサウンドを変化させることを好んでいるからでしょうか?

 うん。私は個人的にベースと自分の指ですべてをコントロールしたいし、そのうえで自分のスタイルで演奏したいタイプ。スタジオやツアーに何十本も持っていかなくても、1本であらゆるサウンドが出せるようなベースが作りたかった。そうは言っておきながらも、エフェクターを使って音作りをするのもすごく楽しい作業なんだけどね。

━━ご自身が演奏する際は、コントロールの設定はどのようにセッティングしていますか?

 もちろん状況によって変わるけど、基本的には全部フラットにしておくのが好き。でももし演奏中にピノ・パラディーノのようなサウンドが必要なときがあれば、ハイを下げることもある。一方でスラップが多い曲ではブライトにしたり、ハイを少し持ち上げたりすることもある。また時にはピックアップを切り替えることもあって、例えばブリッジ側のピックアップを使うとベースに内蔵したドライブをオンにさせたような音になり、ハードなフィーリングになるのでそれも気に入っている。

━━“弾きやすさ”という意味で、ネックにもこだわりがありますか?

 私は楽器によってプレイが制限されないことは本当に重要なことだと思っている。このネックは1966年製ジャズ・ベースのCシェイプのネックを採用しているんだけど、すごく弾きやすくて文字どおり何でも弾けてしまう。触った感じもとてもいい具合よ。もともと私が使っていたフェンダー・カスタム・ショップ製のベースのネックをモデルにしているんだけど、いろんなネックを試したなかで、結局これが一番しっくりきてプレイしやすい形状だった。

━━普段使っている弦のゲージについても教えてもらえますか?

 低音弦はスラップをプレイするのに適した太さと重量感がほしいと思っていて、スタンダードな0.045 – 0.105のゲージに落ち着いている。

━━このベースを、どんなベーシストにおすすめしたいですか?

 もちろん、常にツアーに出ている上級者で、一本でどんなタイプのサウンドでも出せるベースが必要な人には最適なベースだと思う。でも、このベースのクールなところは誰にでも使えるところで、すべてのサウンドが網羅されているから初心者にとっても良い製品だと思っている。誰もがこのベースから何かを得ることができるはずだし、それは私が目指していたことのひとつでもあるの。

━━最後に、読者に向けて“良いベーシストになるため”のアドバイスをいただけますか。

 一番役に立ったのは、尊敬しているベーシストを3人くらい選び、その人たちの演奏を完璧に学ぶこと。そのプレイヤーたちの持っているサウンドを完璧に真似するために、できることは何でもする。そして彼らのテクニック、リック、フィーリングを自分のものにしたら、あとは自然に取り入れられるはず。私自身も、先ほど挙げたようなベーシストたちを深く研究して、ベース・ラインやフィーリング、グルーヴ、音の置き方などを学んでいったんだけど、その積み重ねがいつしか自分独自のスタイルになっていったと思っているわ。

Limited Player Plus x Blu DeTiger Jazz Bass

まばゆいばかりのスカイ・バースト・スパークルのフィニッシュから、輝くクロム・ハードウェア、ミラー・ピックガードに至るまで、ブルー・デタイガーの大胆な芸術的ヴィジョンが反映されたジャズ・ベース。オフセット・アッシュのボディにはチェンバー加工が施されており、サテン・フィニッシュのメイプル・ネック、バインディングされた9.5インチ・ラジアスのローズウッド指板、ヴィンテージ・トール・フレットが、スムーズで快適な演奏性を実現する。

本器のために開発されたベース用ハムバッカー、Player Plusシリーズで採用されたPlayer Plus ノイズレス・ジャズ・ベース・ピックアップは、ヴィンテージの魅力とモダンなパンチを融合し、多彩なサウンドを生み出す。また、3バンドEQとアクティヴ/パッシヴの切り替えが可能な18V Player Plusプリアンプも搭載しており、柔軟なサウンド設計が可能となっている。

  • Fender/Limited Player Plus x Blu DeTiger Jazz Bass

Specifications
●ボディ:チェンバード・アッシュ●ネック:メイプル(1966 “C”)●指板:スラブ・ローズウッド●スケール:34インチ●フレット数:20●ピックアップ:カスタム・ブルー・デタイガー・ファイアボール・ベース・ハムバッカー、プレイヤープラス・ノイズレス・ジャズ・ベース●コントロール:マスター・ヴォリューム、ピックアップ・セレクター、トレブル、ミドル、ベース、アクティヴ/パッシヴ切り替えスイッチ●ペグ:スタンダード・オープン・ギア●ブリッジ:4サドル・ヴィンテージ・スタイル・ウィズ・シングル・グルーヴ・スチール・“バレル”・サドルズ●価格:242,000円

Limited Player Plus x Blu DeTiger Jazz Bassの詳細はこちらから。

Profile
ブルー・デタイガー●ニューヨーク市出身。7歳でベースを手に取り、さまざまなバンドでの活動のほか17歳からはDJ中にベースをパフォーマンスするセットでフロアを沸かせるなど、ロウアー・マンハッタンの音楽シーンで存在感を示す。またパンデミック期にはベースのカバー動画がTikTokで注目集め、現在ではフォロワー数が140万人を超えている。2023年にはフォーブス誌が選ぶ“世界を変える30歳未満30人”を表彰する『Forbes 30 Under 30』ミュージック・リストのカバー・アーティストを飾った。自身のソロ名義では2024年3月、デビュー・アルバム『All I Ever Want Is Everything』を発表。サブリナ・カーペンターやジャングルのオープニング・アクトを務めたほか、米国やヨーロッパでのヘッドライン・ツアーを成功させる。また、ブリーチャーズ(『Saturday Night Live』で共演)、オリヴィア・ロドリゴ、ドミニク・ファイク、キャロライン・ポラチェック、クローメオなどとベーシストとして共演するなど、ベース・シーン注目の存在として幅広い活動を展開している。

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