NOTES
ディアンジェロ、ジョン・メイヤー・トリオ、ザ・フー、ナイン・インチ・ネイルズ、ゲイリー・ニューマン、ジェフ・ベック、アデル――。時代もジャンルも異なる名だたるアーティストの音楽に、その低音を刻んできたピノ・パラディーノ。
2026年3月、ピノはブレイク・ミルズ(g)、サム・ゲンデル(sax)、クリス・デイヴ(d)とのカルテットでブルーノート東京公演を行なった。会場には多くのプロ・ミュージシャンの姿も。なぜ、ベーシストたちはピノの演奏に惹かれるのか。今回の公演を目撃したベーシストたちを中心に、ピノの魅力と好きな名演をQ&A形式で聞いた。
05:関谷友貴 (TRI4TH、Kurofune)が語る、ピノ・パラディーノの“すごみ”と名演

Q1:ピノの“ここがすごい”と感じる点を教えてください。
多彩な音色、タッチ、完璧なイントネーションで、彼にしかできないシグネイチャー・サウンドを構築している。さらに、強靭なテンポキープ力によるグルーヴ・コントロールと、センスに満ちたカウンターラインから感じられるのは、音楽全体を俯瞰して捉える卓越したアンサンブル力だ。
Q2:好きなピノの参加作品を教えてください。
・ディアンジェロ
『Voodoo』(2000年)
コメント:『Voodoo』を境に、ベーシストに求められるタイム感の引き出しはひとつ増えた。ディアンジェロのリクエストで“そこには音置けないだろ”というくらいアンサンブルをうしろに引っ張った「Playa Playa」。シンプルな8分音符を絶妙な音価とタイミングで有機的に昇華させた「Feel Like Makin’ Love」など、まさに経典のようなアルバムだ。
キャリア初期からフレットレスを弾いてきた彼にとって、大きなチャレンジでターニングポイントでもあったのだろう。そんな、一流のセッションマンの懐の深さに脱帽、クリエイティブな才能の塊なのだなと思った。
・ジョン・メイヤー・トリオ
『Try!』 (2005年)
コメント:ドラムと一緒にアンサンブルをドライブさせ、隙あらばカウンターラインをバシバシ入れる彼のアプローチは、コード感が薄くなりがちなギタートリオにおける最適解だ。当時、『Voodoo』を同じベーシストが演奏していることに耳を疑った。しかし、ロックやブルースがルーツの彼にとっては原点回帰だったのだろう。スティーヴ・ジョーダンとのコンビネーションは抜群で、アップテンポの曲もグルーヴのポケットが凄まじく広く、スローテンポの曲においても極限まで削ぎ落としたシンプルなベース・ラインが限りなくセクシーだ。「Vultures」では踊りたくなるような極上のファンク、アルバム後半の「Daughter」ではネオソウルが感じられるし、これまで積み重ねてきたものが糧になっていると感じる。そして、忘れてはならないのがライヴアルバムだということ。勢いで荒くなりそうな箇所も、冷静にバンドを俯瞰で見てコントロールしている集中力は凄まじいものがある。
・ピノ・パラディーノ & ブレイク・ミルズ
『Notes With Attachments』 (2021年)
コメント:とうとう、彼がリーダー作をリリースした。ベースを前面に押し出したいわゆる“ベース・アルバム”ではなく、アンサンブルを重視し音楽そのものの有機的な広がりを追求した作品である。共演者との化学反応もあり、ベース・プレイを幹としたクリエイティブな内容で、還暦を過ぎても新しいことにチャレンジする姿勢に感動した。
長尺のインプロに頼らない緻密に計算された世界の構築は、新しいジャズを創造したと言っても過言ではないだろう。特に「Just Wrong」では、“J・ディラを現代アート美術館へ観に行く”そんな感覚に陥った。Rob Allenのフレットレスをライン録音のほか、ベース本体の近くにマイクを数本配置し生音まで収録。これによって、ピッキングの空気感や息遣いが付与され、極上のアコースティックなサウンドを堪能することができる。
そのあと2度ライヴを拝見したが、ブレイク・ミルズとの相性は抜群。2026年のライヴでは、ピノがベースだけではなくギターまで弾いていた。Godinのアコースティック・ギターにはボスのGP-10が接続され、低音弦側をオクターヴ下げてベース音を鳴らしながら、高音弦でコードを弾いていた。リーダー・ライヴだからこそ実現する、ベースにとらわれないマインドで、音楽オタクがステージで遊んでいたのがとても印象深かった。
Information
関谷友貴 X Instagram
Profile
せきや・ともたか●1981年9月5日生まれ、大阪府大阪狭山市出身。ベーシスト、作・編曲家。高校卒業後に渡米し、LAMA(現L.A. College of Music)でジミー・ハスリップ、フィル・チェンらに師事。その後、バークリー音楽大学でジャズ作編曲を学びながら、多数のライブやレコーディングに参加する。2002年にLAでレコーディングしたリーダーアルバム『Footprints』でデビュー。2012年には井上鑑、山木秀夫らを迎えた『Live at Last Waltz』をリリースし、2026年には3作目となる『Moments』をドルビーアトモス作品として発表。
ジャズバンド「TRI4TH」のベーシストとして活動し、2018年にSME Recordsよりメジャーデビュー。SUMMER SONICやFUJI ROCK FESTIVALをはじめとする大型フェスへの出演に加え、Blue Note Tokyoでの単独公演も成功させる。チバユウスケ、Kan Sanoをはじめとする多彩なアーティストとのコラボレーション作品も発表している。また、ニューヨーク・オフ・ブロードウェイで上演された三谷幸喜作・演出のミュージカル『TALK LIKE SINGING』や、東宝ミュージカル『RENT』などの舞台作品にも演奏で参加。さらに、津軽三味線と島唄を融合したジャズバンド「Kurofune」のリーダーとして、ヨーロッパ最大級の日本文化フェスティバル「Japantag」のヘッドライナーを務めるなど、国内外でジャンルを越えた活動を展開している。
音楽制作チーム「MISSING Sound Tracks」ではアーティストへの楽曲提供・プロデュースを手掛け、2026年には田原俊彦『ナニコレ最高!!!』を作曲し、オリコン週間ランキングTOP10入りを記録。教則本『3年後、確実にジャズ・ベースが弾ける練習法』の出版、尚美ミュージックカレッジ専門学校での講師、さらにGeek IN Boxと共同設立したオンラインコミュニティ「BASS GEEK College」を通じて、後進の育成にも力を注いでいる。