プランのご案内
  • NOTES

    UP

    ドラムのビートに影のようにぴったり“張り付く”ベース【鳥居真道の“新譜とリズムのはなし”】第14回

    • Text: Masamichi Torii
    • Illustration: Tako Yamamoto

    トリプルファイヤーの鳥居真道が、世界中のニューリリースのなかからリズムや低音が際立つ楽曲をセレクトし、その魅力を独自の視点で分析する連載「新譜とリズムのはなし」。今月も最近リリースされた注目の5曲を紹介していきます。(編集部)

    ◎連載一覧はこちら

    第13回

    目次

    ① Leven Kali – Sleepwalking

    ② MOMO. – Egum Eô

    ③ Spacemoth – Do We Exist?

    ④ ISMAY – American Flag

    ⑤ Jesca Hoop – Big Storm

    ① Leven Kali – Sleepwalking

    山下達郎的? レヴィン・カリの“短くて軽やかなブギー”

    レヴィン・カリはアメリカ人ソングライター/プロデューサー/マルチ・インストゥルメンタリストで、ビヨンセやドレイクといったビッグネームから、EXOやRed Velvet、LE SSERAFIMのようなK-POP勢への楽曲提供でも活躍中の人物です。父親はマザーズ・ファイネストというアトランタのファンク・バンドでベースを弾いていた人物とのこと。

    今回取り上げる「Sleepwalking」は、3月にリリースされた6年ぶりとなる3作目の収録曲です。いわゆるブギーに分類されるサウンドですが、日本人にはシティ・ポップ、とりわけ山下達郎のように聴こえるかもしれません。この手の曲にしては2分40秒と短いのも特徴的です。

    演奏はすべてカリがひとりで行なっています。むろんベースもカリによるものです。ブギーらしくスラップを交えたプレイをしています。コーラスのレイヤーやギターのカッティングのためにスペースを広く取っており、それがシンプルで軽妙なプレイにつながっているのだと思われます。

    ② MOMO. – Egum Eô 

    西アフリカ的グルーヴとMPBの融合──ビートに“張り付く”ベース

    MOMO.はロンドン在住のブラジル人ミュージシャンです。これまでにアルバムを7枚リリースしています。私は2024年の『Gira』がお気に入りでよく聴いていました。70年代のMPBをモダンにしたようなサウンドが特徴的です。デヴィッド・バーンも彼のファンとのこと。

    「Egum Eô」は、6月にリリースされる予定のアルバム『Tum Tum Tum』からの先行カットとなっています。アルバム・タイトルはこの曲のコーラスから取られていますね。リズムはナイジェリアのアフロ・ビート的です。間奏のギターもハイライフ調で、西アフリカの要素が大きいといえます。

    ベースを弾いているのは、Pedro Dantasというベーシストです。ドラムのビートに影のようにぴったりくっついたプレイが素晴らしい。シンコペーションや音価コントロールで躍動感をダイナミックに表現しています。他ではなかなか聴くことができない独特のフレージングです。

    ③ Spacemoth – Do We Exist?

    7/8拍子で駆動するミニマル・テクノポップ

    スペースモスはマリアム・クドゥスのソロ・プロジェクトです。エンジニアでもあるクドゥスは、トロ・イ・モアやLa Luzとも仕事をする人物です。La Luzではレコーディング以外にもサポート・ミュージシャンとしてツアーに参加しており、バンでの移動中にシンセサイザーを使って次作『Inward Eye』の断片を制作していたとのこと。

    今回取り上げる「Do We Exist?」は、『Inward Eye』から先行カットされた曲です。サイケなギミックを盛り込んだ、テクノポップといった趣のサウンドです。ディーヴォやノイ! 、ステレオラブを連想させるカラフルなアレンジです。

    リズムは7/8拍子になっており、執拗に繰り返されるベース・リフが耳に残ります。ほぼドラムのビートとベースのリフだけで成り立っていると言っても過言ではない。演奏しているのはクドゥス本人です。芯のあるパリッとしたトーンになっています。フラット・ワウンドの弦をピックで弾いているのではないかと思われます。

    ④ ISMAY – American Flag

    牧場主が鳴らす、カントリーとサイケが交差するサウンド

    イズメイ(ISMAY)はエイヴリー・ヘルマンによるオルタナ・カントリーのプロジェクトです。ヘルマンは牧場主でもあるそうです。リアル・カントリーの世界ですね。すでに2枚のアルバムを発表しており、6月には最新作の『Half Truth』をリリースする予定です。今回取り上げる「American Flag」はその先行カットとなっています。

    歌詞は馬について歌われたものでオルタナ・カントリー的ですが、サウンドは60年代のサイケデリック・ロック調です。初期ピンク・フロイドやCANのようなテイストが感じられます。プロデュースを務めたのはサム・コーエンで、ベースも彼が弾いています。

    ベースはトレブリーなトーンでネックのハイ・ポジションを使ったフレーズを繰り返し演奏しています。既に紹介したスペースモス「Do We Exist?」に通ずるプレイです。歪んだギターやクラリネットがレイヤーとして加わると、ベースのリフが表情を変えます。聴いていておもしろく感じられるポイントです。

    ⑤ Jesca Hoop – Big Storm

    不穏にうねるビート──ジェスカ・フープが描くゴシック・フォーク

    ジェスカ・フープはカリフォルニア出身で現在はマンチェスター在住のシンガーソングライターです。モルモン教徒の両親を持ち、幼少期から讃美歌や民謡に親しんだそうです。やがてモルモン教から離脱してLAに移住します。そしてなんとトム・ウェイツの子供のベビーシッターをしていたそうです。彼女の才能に気が付いたウェイツ夫妻の肝いりで音楽業界に足を踏み入れたとのこと。まもなくキャリア20周年を迎えるベテラン・ミュージシャンです。

    「Big Storm」は、5月にリリースされる7作目『Long Wave Home』からの先行カットとなっています。ダーク・アメリカーナ/ゴシック・フォークのような不穏な響きを漂わす曲ですが、BPMの設定やビートの雰囲気はクラウト・ロック的です。

    ベースを弾いているのは、ジョン・ソーンというイギリスのベーシストです。パーム・ミュートを使い、暗いトーンで演奏しています。ドラムのキックにぴったりとくっつきつつ、ときおり三連符的なフレーズを挿入して遊ぶという粋なプレイとなっています。

    ◎Profile
    とりい・まさみち●1987年生まれ。 “高田馬場のジョイ・ディヴィジョン”、“だらしない54-71”などの異名を持つ4人組ロック・バンド、トリプルファイヤーのギタリスト。現在までに5枚のオリジナル・アルバムを発表しており、鳥居は多くの楽曲の作曲も手掛ける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライヴへの参加および楽曲提供、音楽関係の文筆業、選曲家としての活動も行なっている。最新作は、2024年夏に7年ぶりにリリースしたアルバム『EXTRA』。また2021年から2024年にかけて、本誌の連載『全米ヒットの低音事情』の執筆を担当していた。
    X Instagram

    ◎お知らせ
    当連載で取り上げてきた楽曲がプレイリストになりました。フォローよろしくお願いします!
    Spotifyはこちら
    Apple Musicはこちら