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【追悼】️マニが残したベース名演10曲【後篇】
- Text : hiwatt
- Photo : Brian Rasic / Getty Images
記事の前篇はこちら。
6. イアン・ブラウン
「Can’t See Me」
(『Unfinished Monkey Business』収録/1997年)
1stアルバムの権利問題により、ザ・ストーン・ローゼズは5年間の活動停止を余儀なくされ、その間に生じたバンド内の不和で解散にまで発展。ただ、解散後もバンドの絆を繋ぎ止めたのは他ならぬマニだ。バンドのなかで最もフレンドリーな性格で知られる彼は、再結成に至るまで調停役であり続け、ジョン・スクワイアが去ったときもイアン・ブラウンを支えた。そして、イアンがソロ・デビューするときにも「Can’t See Me」に客演し、再出発を祝福した。
すでにプライマルでの活動を始めていたマニにとって、この手のブレイクビーツにベースを乗せるのはお手のものだっただろう。彼が影響を受けたブラック・ミュージックのプレイヤーとして、ジェームス・ジェマーソンがいるが、隙間を埋め尽くすようなフレージングと、タイトなピッキングは彼を思い出させるもので、これまで以上に程よく力の抜けたプレイがクールなグルーヴを生み出している。
7. ドット・アリソン
「colour me」
(『Afterglow』収録/1999年)
スコットランド出身のトリップホップバンド、ワン・ダブは、アンドリュー・ウェザーオールがプロデュースしたことでも知られるが、バンドのフロントウーマンであるドット・アリソンのソロ1st『Afterglow』の1曲目に、マニが招聘されている。スタジオ・ミュージシャン的な客演の少ないマニだが、そんな数少ない仕事のなかでも、間違いなく最高の演奏を披露しているのがこの曲だ。
プライマル・スクリーム、イアン・ブラウンのソロと、ダブやトリップホップのベース・スタイルにコミットしつつ、40歳を前にして老練し始めたタイミングでもあり、音粒は見事なまでに揃い、フレージングには風格が漂い、ブラックなグルーヴに接近している。楽曲のダークなムードに奉仕しつつも、彼のベースは突出した存在感を放っているのだが、心地良くコンプが効き、ベースが前に出るミックスもそれを助けており、音響的な側面でマニのベースを楽しむには必聴の逸品。
8. プライマル・スクリーム
「Kill All Hippies」
(『XTRMNTR』収録/2000年)
この曲は、ボビー・ギレスピーの志向するインダストリアルとファンクの折衷を見事に実現している。ドラムは、本来はグルーヴィなビート・パターンの間を殺し、音色はナイン・インチ・ネイルズのようなダイナミックなものに。マニは基本的にエフェクターを使用しないが、プライマルではしばしば歪ませることがあり、この時期のライヴではBOSSのDS-2(ディストーション)を使用しており、インダストリアルなサウンドに寄与する一方で、ベース・ライン自体はかなりファンキー。
リズム体がヘヴィな音を鳴らし、ダブサイレンが響く一方で、ギレスピーはダルマに目を入れるかのように、“You got the money,I got the soul”とファルセットボイスでソウルフルに歌う。インダストリアル・ロックの路線に乗った、2000年代のプライマル・スクリームを代表して、『XTRMNTR』からこの曲をおすすめしたい。中期プライマルのアティチュードを体現した一曲だ。
9. プライマル・スクリーム
「Loaded」
(Live At Glastonbury / 2011年)
グラストンベリー2011のアザーステージにて、初日のトリを務めたプライマル・スクリーム。もちろん、大名曲「Loaded」も演奏したわけだが、そこでのマニのプレイが印象的だ。原曲はプライマル・スクリーム2nd作(『Primal Scream』/1989年)の「I’m Losing More Than I’ll Ever Have」を、アンドリュー・ウェザーオールがアシッドハウス仕立てのダブミックスにしたもので、ベースはヘンリー・オルセンによる演奏。
バラード調のオリジナルがアップテンポになったことで、「Loaded」は不思議とザ・ローリング・ストーンズの「Sympathy For The Devil」に似てしまうのがおもしろいが、マニのプレイはキース・リチャーズのそれに重なるものがあり、余計に笑えてしまう。この時期からザ・ストーン・ローゼズの復活ツアーにかけて、エピフォンのジャック・カサディ・ベースを愛用しているのだが、箱鳴りの印象が強いマニがこれを使っているのには納得がいく。
10. ザ・ストーン・ローゼズ
「Beautiful Thing」
(2016年)
解散から20年、復活の狼煙となった「All For One」は、バンドが一貫してテーマとしてきた“One”、つまりバンドという共同体の讃歌であり、ファンとしても非常に胸が熱くなるカムバックであった。それと同時に『Third Coming』が噂され、ソニー・ミュージックともアルバムのリリースを契約したとされたが、再び解散。そして惜しくもマニが亡くなったことで、ザ・ストーン・ローゼズのオリジナルメンバーによる楽曲は、この「Beautiful Thing」で永遠に最後となってしまった。
2ndアルバムで取り組んだ硬派なファンクネスを無に帰すことなく、それぞれが20年の間に得たことをバンドに還元した一曲。マニの重くうねるレゲエ・ベースのオーセンティシティは向上し、バンドの接着剤としての役割はもはやサウンドにも顕在化。彼がいなければ再結成はなかったし、この新たな「Fools Gold」も、有終の美として相応しいものにならなかっただろう。マニよ、永遠なれ。
◎執筆者プロフィール
hiwatt●1995年生まれ、大阪在住。世界のインディ音楽や、アンダーグラウンドの電子音楽などについての執筆活動を行なう。マンチェスター・シティFCをこよなく愛する。
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