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FEATURED BASSIST-イガラシ[ヒトリエ]

  • Interview:Zine Hagihara
  • Photo:Taichi Nishimaki

自分たちの演奏で肉体が伴ったものを作っていけたらと思う。

━━「tat」は、スクエアなグルーヴの打ち込みライクなビートが今までのヒトリエらしいエッジィなニュアンスですが、ベースはもっと低音の効いたマイルドなサウンドでもマッチしそうなところを、相変わらずゴリっとした歪みサウンドで攻めてますね。

 この曲はシンベのイメージも少しありつつ、ローの部分が歪んだ感じになればいいなと思っていて……逆な発想ですよね(笑)。この曲と「faceless enemy」はシュヴァート製の5弦ベースで弾いていて、でもフレーズ的には4弦でも全然弾けるんですよ。ただ単純に、音色の部分のためだけに5弦ベースのローB弦が必要で採用しているんです。サウンドに関して、「faceless enemy」は作曲したゆーまおが、ベースはあまりアタック感がないほうがいいって言っていたから、5弦ベースで歪みの腰も落として、いわゆるロックっぽいベース・サウンドではないイメージでした。それに対して「tat」は、5弦ベースならではのロー感が欲しくて採用しながらも、4弦と同じセッティングにつなげて同じように歪ませていますね。

━━シュヴァート製の5弦ベースはどのようなサウンド・キャラクターなんですか?

 5弦ベースをいろいろ弾いてみて思ったことなんですけど、普段4弦ベースを弾いていても違和感なく弾けて、誰でも自分のメインの1本として使えるっていうような作りになっているものも多いと思います。でも、パッシヴの4弦をメインで使っている立場から欲しかったのは、思いっきりキャラの違う5弦ベースだったんですよね。だから持ち替えの弾きやすさもあまり考慮せず、パッシヴのジャズベに対してめちゃくちゃハッキリとしたアクティヴらしいサウンドで、EQのツマミをフルテンにしたらかなりバキバキのサウンドになるし、自分のメイン器とは一番かけ離れたベースですね。ただ、基本のサウンドからイカつい音っていうわけではなくて、フラットなセッティングにするとどこにでも馴染むオールラウンダーにもなるし、だからこそ「faceless enemy」でも活用することができたわけです。

━━なるほど、わかりました。新作『REAMP』について話を聞いていきましたが、今のヒトリエはとてもクリエイティブな状態で、それに呼応するようにイガラシさんのベースもどんどん躍動感が増しているということを再確認できたと思いました。では、イガラシさんはバンドの現状をどのように感じていますか?

 今言ってくれたようなことを感じてもらえたならいいなって思っていたので、そう思ってもらえるようなものができたことが嬉しいというか、ホッとします。それは自分たちでは判断できない部分でもあるので、今までのヒトリエを聴いてくれていた人が今のヒトリエを聴いてそう感じてくれたら嬉しいし、自分たちはこのアルバムができて、これを続けることしかできない……イヤになったわけじゃないし、カッコいいものが作れたとは思っているけど、あとは受け取る人がどう思うか……。創作意欲はありますし、ものづくりは続けていくんですけど、“新しいヒトリエ像はこうだ”って提示するつもりもないですし、このまま自分たちの演奏で肉体が伴ったものを作っていけたらな、と思っています。

2021年4月19日発売のベース・マガジン2021年5月号にもイガラシのインタビューを掲載予定。本インタビューとは別内容でお送りします。

EQUIPMENTS

BASS

イガラシのメイン器である1964年製のフェンダー・ジャズ・ベース。岡峰光舟(THE BACK HORN)の紹介を経て知人より購入した。ボディはアルダー、ネックはメイプル、指板はローズウッドというオーソドックスな材構成で、新作『REAMP』においては「curved edge」、「ハイゲイン」、「dirty」、「bouquet」、「YUBIKIRI」の録音で使用された。

昨年の秋頃に手にした横浜の工房シュヴァート(SCHWERT)によるJBタイプの5弦モデル。ボディはアルダー、ネックはメイプルという材構成で、バルトリーニ製ピックアップを搭載したアクティヴ・モデルだ。コントロールはベース、トレブル、ヴォリュームを備える。「faceless enemy」、「tat」、「イメージ」で使用された。

EFFECTS

イガラシのエフェクト・ボード。ベースからの信号はまず、aip製TranZformer LX(プリアンプ)へ。その後、ダークグラスエレクトロニクス製MICROTUBES B7K(プリアンプ)、Tronographic製Rusty Box(プリアンプ)、XOTIC製X-Blender(エフェクト・ループ)を経由してからTDC-YOU製BASS DI(DIボックス)へと送られる。その後はBASS DIのXLRアウトからPA卓へ、アウトプットからアンプへと信号が送られる。X-BlenderにはFulltone製OCD(オーバードライブ)、AKAI Professional製Deep Impact SB1(ベース・シンセサイザー)、HAO製BASS LINER(DI/プリアンプ)が接続されている。また、Sonic Research製ST-200(チューナー)はRusty Boxのライン・アウトからの信号が送られている。パワー・サプライはEx-pro製PS-1を採用。左上に置いてあるOne Control製Prussian Blue Reverb(リヴァーブ)は結線されていない。
 基本のサウンドはMICROTUBES B7Kで作られている。BASS LINERは、OCDなどで歪みサウンドを作った際に歪みがちになってしまう帯域をカットするために活用している。“ピックアップのバランスが関係していると思うんですけど、ヴィンテージの竿がライヴでハウっちゃうんですよ。OCDで歪ませているときはマストで踏んでいますね。総じて1964年製のジャズベをライヴで使うためのセッティングです”とはイガラシの弁。

AMPLIFIER

最近のライヴで導入しているのがこのアンペグ製PF-800(アンプ・ヘッド)とSVT-810E(キャビネット)の組み合わせだ。PF-800は軽量でありながらパワフルな出力を持ち味とするソリッドステート・アンプで、サウンドについてイガラシは“以前使っていたアンペグのSVT 1987 Limited Editionがフル・チューブで自分のプレイにも合っていたんですけど、最近は動作不良が起きてしまうので使うのを控えていて。PF-800はフル・チューブに慣れている自分でも違和感がなくて気に入っています。トランジスタ・アンプの「ラインが見えやすいけど中身がない」っていうことがなくて、アンペグらしい存在感のあるサウンドですよ”と語ってくれた。

PICK

ピックはClayton製Ultem Goldのスタンダード・タイプ(0.94mm)をセレクト。べっ甲に近い弾き心地とクリアな音色を再現したウルテムという素材を採用したモデルで、イガラシは“象牙質な感じで、「ジャリ」っとした感覚がいいんですよね”と語るほどお気に入りのようだ。

◎PROFILE
いがらし●サウンド・クリエイターとして活動していたwowaka(vo,g)が中心となり、2013年にイガラシ、ゆーまお(d)とともに“ひとりアトリエ”を結成。その後、シノダ(g,cho)が加入し“ヒトリエ”となる。2014年にメジャー・デビュー。2020年8月に初のベスト・アルバム『4』を発表する。2019年にwowakaが他界してしまうが、現在は3ピース形態として活動中。2021年2月17日に3人体制では初となるアルバム『REAMP』を発表した。イガラシはヒトリエのほかに[忘れらんねえよ]などのサポート活動も行なう。尊敬するベーシストは亀田誠治。ピザが好き。

◎INFORMATION
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ヒトリエ HP Twitter YouTube