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FEATURED BASSIST-イガラシ[ヒトリエ]

  • Interview:Zine Hagihara
  • Photo:Taichi Nishimaki

爆発する思いを歌っているから、ベースも爆発している。

━━「curved edge」では弾かないセクションはまったく弾かず、それに対してAメロなどでド派手なフレーズを展開したりとオン/オフの緩急がかなり急激になっていますよね。

 確かに、サビとかは本当に弾いていないですね(笑)。

ヒトリエ『curved edge』 / HITORIE – curved edge

━━リズム・アプローチも大胆で、大きな隙間を作ってグルーヴを作っていくというアプローチは今までのヒトリエにはあまりなかったスタイルで、新たなヒトリエを象徴する新境地的な曲と言えるのでは?

 そうかもしれないですね。今までも、例えばイントロの前半ではベースがいなくて後半からブワーっと弾いてAメロでまたいなくなるっていうようなアプローチはあって、それはwowakaのオン/オフの使い方だったんですけど、この曲では一番盛り上がりそうなサビでまったく弾いてないですからね。でも、これは曲の成り立ちからきている部分がデカくて。シノダの作曲なんですけど、そもそものコンセプトとしてリズムの遊びで攻めたかったんだと思うんですよね。トラップっぽいリズムでK-POP的な曲展開だったりするんですけど、そういうもののダイナミクスの最大値ってサビでは来なかったりするじゃないですか。サビ後の間奏やメイン・テーマで盛り上がりがあったりして、そこにベースの照準が合っているっていうことだと思います。シノダがくれたデモの時点でそういう方向でしたしね。

━━なるほど。

 あとは、去年はけっこう気持ちが沈んでいるときとかに、気づくと原さん(the band apartのベーシスト原昌和)の動画を観ていたんです。原さんが喋っている動画を観ると気持ちが救われるっていう一年でしたね。この曲のデモをもらってベースを考えているときも“原さんになりたい”って思っていました。ベーシストとしてもすごい方なんですけど、精神面でのスピリチュアルな哲学とかもおもしろくて。

━━原さんは話もおもしろいですし、ベースのフレーズも斬新でグッときますよね。

 そうですよね。原さんのベース・プレイってめちゃくちゃミュートで刻んでいて音符が詰まっているようなスタイルで、そういうフレーズのニュアンスを自分もこの曲でめちゃくちゃにやりたかったんですよ。それで思い切りの良さが出たのかもしれないですね。

━━スケールやキーをあえて度外視してグリス・アップしていくフレーズもあったりして、思い切りの良さが全面に出ているのがかなりアグレッシブです。

 それも原さんからインスパイアされた思い切りの良さです。ベースもカッコいいし、原さんの言葉ってすごく勇気が湧いてくる。

━━思い切りのいいリード・プレイは「ハイゲイン」のBメロなど、今作にも散りばめられていますが、リズム楽器であるベースがリード・プレイを行なうという点について、どのように考えていますか?

 自分なりに歌とか、アンサンブルを支えています。でも、どうなんでしょうね。ベースという楽器のフレーズとしては破綻しているのかもしれません。自分のフレーズをそんな風には思わないんですけど、曲で客観的に聴くと、なんかそう思ってしまうところがあるんですよね。いわゆるベースという楽器がバンドでやる普通の役割ではないとは思います。

━━そうなんですね。

 「ハイゲイン」のBメロのフレーズに関してはシノダがデモから入れていたやつで、“ギタリストが考えるベース”って感じでベーシストっぽくないかもしれないですね。ベーシストの観点からだとあまり出ないアプローチだなって思って、おもしろいからそれを生かしています。まあ、こういう話は全然あると思うんですけど、別の視点で考えると、こんなにベースをアンサンブルのなかで前に出さないっていうのもわかります。派手なフレーズでももっと馴染むようなミックスも多いと思うし、ガッツリ前に出る歪んだサウンド・アプローチでしっかりとベースを押し出していくっていうのは、あんまりないのかもしれないですね。専門的に世の中のベースに向き合う観点から聴くと、不思議ですか?

━━ベースのリード・プレイについて、歌の領域に対してどれだけギリギリまで近づきながら邪魔をしないかっていうのがポイントのひとつだと思いますが、イガラシさんのリード・アプローチは歌に対する距離がかなり近いのでリスキーで、どのようなバランス感覚で行なっているのかが気になります。

 なるほど。そういう意味だと……「ハイゲイン」の場合、気にしているのは歌のメロディじゃなくて、“歌詞”ですね。とにかく今の現状に対して爆発する思いを歌っている歌詞なんです。それは自分たちのこともそうですけど、世の中のことでもあって。開き直りというか、とにかく爆発力。だから、メロディとベースの距離感が近いほど盛り上がるっていう普段の感覚とかを無視して、ベースで爆発したほうがいいなって単純に思ったんです。

━━音としての枠を飛び越えて、歌の世界観に対してアプローチしているっていうことなんですね。

 はい。シノダが歌っていること、自分たちの状況とかですね。この考え方自体は前から自分のなかにあったものです。“歌を生かす”っていう表現は簡単にされるけど……メロディと歌詞を聴かせるっていうことに対して、シンプルなベース・ラインがイコールになるっていうのは、すべての音楽に当てハマらないと思っていて。特にwowakaは葛藤とか混乱を歌うような歌詞が多かったんだけど、実際にそういうことを思っている人の頭のなかって理路整然としているわけではないじゃないですか。“グッシャア”ってなっているなかの一節を掴みとってwowakaは歌にしていただけで、その周りには無数の乱雑した気持ちが雑音として広がっていて……そういうものを肌感覚として行なう表現って、その歌詞の周りにうるさいノイズのような歪んだなにかがまとわりついているっていうことだとか、そのほうが心情として正しいんじゃないかって思うんです。それが“歌を生かす”っていうことなんじゃないかなって思うんですよね。

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