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FEATURED BASSIST-イガラシ[ヒトリエ]

  • Interview:Zine Hagihara
  • Photo:Taichi Nishimaki

INTERVEIW

感情とシンクロして爆発する低音が、ストーリーを紡ぐ

鬱屈した感情を鋭く激しいバンド・サウンドで表現し続けてきたヒトリエ。2019年にメイン・コンポーザーであるwowaka(vo,g)が他界し、ギタリストのシノダがギター・ヴォーカルに転向して3ピース・バンドとして活動を続けていた彼らが、コロナ禍のなかで新作フル・アルバム『REAMP』を完成させた。wowakaに代わってシノダ、ゆーまお(d)、そしてイガラシ(b)の各メンバーがコンポーザーとなった目まぐるしく構成が変わるフリーキーな楽曲には、変幻自在に形を変えていく各楽器のフレーズやアプローチといった、ヒトリエらしいエッジィな音楽表現が随所に散りばめられている。それと同時に、隙間を大胆に使ったリズム・アプローチや、トラップやK-POPなどのモダン・ミュージックからの影響を感じさせるアレンジも聴かせており、彼らがバンドとして新境地に達したことも感じさせる楽曲で歌われている“感情”に合わせて形を変えながらアンサンブルに彩りを与えるイガラシのベース・スタイルは、バンドの音楽性が拡張するたびに深みを増して進化してきた。彼のベース・プレイは、今作においてどのような形を成しているのか。そのヴァーサタイルなベース・スタイルの一端に触れた。

wowakaの曲を弾き続けてきたことでスタイルができあがっていった。

━━3人体制となってからのアルバム『REAMP』が2月17日にリリースされました。各メンバーが作曲者としてクレジットされている点が今作の特徴のひとつですが、やはり楽曲制作の方法には大きな変化がありましたか?

 まず、なにもかも変わりましたね、メイン・コンポーザーが変わりましたし。ヒトリエはwowaka(vo,g)の曲をやるためのバンドっていう結成の経緯があるので、このバンドで曲を書くハズがなかった人たちが曲を作るっていうことが主体になったということですよね。シノダ(vo,g)はわりと作曲経験もあるんですけど、俺とゆーまお(d)に関してはそんなにたくさん曲を作ったことがあるわけでもなくて。だから、バンドの方向性うんぬんを決めてアルバム用の曲を作るというよりは“とりあえずやってみる”っていう感じでした。あと、去年は緊急事態宣言で家から出られない状況だったりもしたので、現場で作るというよりは、データでのやりとりが主でしたね。ジャム・セッションで作った曲はひとつも入っていないので、今までよりもオンライン上で構築した曲が並んでいます。

━━以前の体制では、wowakaさんのデモをもとに曲を仕上げていくスタイルでしたが、そのなかではジャム・セッションで楽曲を制作することもあった?

 そうそう。デモもありつつセッションもして、結果的に1枚のアルバムのなかでそれぞれが半々ぐらいになることが多かったんですよ。wowakaは一個のことを始めたらとにかく突き詰めちゃう人だったので、作り込んだデモがくるところから始まって。ただ、制作を進めていくなかで、スタジオでゼロから作ったアイディアが膨らむこともあって、割合はまちまちですけど、意外とスタジオでセッションしてできたものもあったんです。

『REAMP』
ソニー
AICL-4012(通常盤)
AICL-4010〜1(初回生産限定盤)
左からイガラシ(b)、シノダ(vo,g)、ゆーまお(d)。

━━イガラシさんが作曲した「dirty」と「イメージ」の2曲は、どのようなコンセプトで作った曲ですか?

 今までにバンド外で楽曲提供をすることもあったんですけど、今回は“ヒトリエで自分が作る曲”ということを念頭において、自然体で作った感じでした。……すごいムードだったじゃないですか、去年って。特に春先ですかね。自分としては4月になってからwowakaの一周忌とかもあって、どんよりしているところに自粛の要請があって。ベスト・アルバム(2020年8月に発表された『4』)のリリースもツアーも延期になったり……俺の個人的な側面で言うと、アッパーな曲を出したいっていう気分ではなかったんです。だから、せめて自分が聴きたいと思えるメロディの曲を出そうと思って作ったっていう思いで、純粋に歌から作ったっていう感じですね。

ヒトリエ『イメージ』 / HITORIE – Image

━━「dirty」はその心情を表わしているようなしっとりとしたバラードという仕上がりですね。

 バラードです。だけど、“こういうバラード”っていう感じですね(笑)。特徴としては、端的に言うと歪んでいるやつ。

━━しっとりとした曲でありながらベースがゴリっと歪んでいるのも特徴的ですが、プレイ面に関してリード・ベース的な派手なフレーズ・アプローチと、どっしりと腰を低くしてアンサンブルを支えるプレイをセクションによって切り替えているのも芸が細かいです。

 そのバランスは、自分が作曲している曲だからかもしれません。自分が作曲するときのデモは、メロディとコードを作ってからそのあとにリズムを考えて、ウワモノを入れるならそのあとに入れる。それで完成かどうかを1コーラスで判断して、“メロディも定まったしOK!”となってから一番最後にベースを弾くんですよね。それも一筆書きなんで、最後にツルっと弾いて終わり、みたいな。

━━その一筆書きのフレーズは、完パケしたあとと同じアプローチになっていますか?

 結局、この曲はスタジオでプリプロをそんなにしなかったんですよ。レコーディングの際には、スタジオで自分がデモで何を弾いていたのかを聴いて耳コピしていました(笑)。

━━ほかのコンポーザーの曲と自分が作った曲とでは、ベース・ラインに対する考え方が違ってくるんでしょうか?

 そうかもしれないですね……自分の曲に当てるベース・ラインは、本当に考えてないかもしれない。歌のメロディとかも感覚で出しているからだと思うんですけどね。あとは、酔っ払っているんですよね、だいたい。

━━あ〜、外出の自粛もしていますし、家でお酒を飲みながら作曲をしている、と。

 そうそう。だから、ベースを入れる段階に入ったときにはだいぶ酔っ払ってるんですよ。そういう違いもあるし、より素直な自分なのかもしれない。

━━「イメージ」もバラード・タイプな楽曲ですね。

 純粋にそういうモードだったっていうことですよね。今回はそんなタイプを2曲作りました。

━━ただ、ヒトリエのこれまでの歌ものの曲のなかでも新たな聴き味のヴォイシングのコードを多用していて、バンドのポップ・サイドの新境地を感じさせます。

 それは嬉しいです。ただ、作り始めた段階で“7th系のコードを使ったコード進行って今までのヒトリエであまりなかったな”と思ったくらいなんです。別になにも斬新なことはしていないんですけど、wowakaが作ってくるもののなかではあまり聴けなかった響きだったから、その部分を感じながら作ったところがあります。

━━今までのヒトリエにはなかったアイディアを膨らませていったということでしょうか?

 いや、膨らませようとしたというよりも、作業を始めていくとなんとなく事実としてそれを思う感じでしょうか。狙っているわけじゃなくて、結果的にそんな風になっています。

━━それなのに、エッジの効いたバンド演奏と緩急のある楽曲構成という点で、ヒトリエのスタイルが地続きになっているのがおもしろいですね。

 自分も含めてですけど、何年もヒトリエの演奏をしている人たちで作ると、ヒトリエのサウンドになるんだなって思った部分もあります。

━━ヒトリエはwowakaさんの曲をやるというのが結成の経緯ではありますが、全員がそれぞれヒトリエなんですね。

 そう言ってもらうと嬉しいですし、自分も制作していくなかでそう感じた部分はありましたね。

━━イガラシさんのベースは歌の領域にギリギリまで追従するリード・プレイと鋭く歪んだサウンドが特徴的ですが、自身のスタイルがヒトリエのバンド・サウンドのアイデンティティの一因であると考えたりしますか?

 自分はベースに対する考え方に枠があって、その区分のなかのひとつに“ヒトリエっぽい”というところがあると思うんです。それに加えて、wowakaが作曲した曲に対してベースを弾き続けてきたことで自分自身のスタイルができあがっていったところももちろんあるわけで、そのヒトリエとしての区分と、自分自身が混ざっている感じですかね。

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