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    FEATURED BASSIST-佐藤征史[くるり]

    • Interview:Zine Hagihara
    • Live Photo:Yoshikazu Inoue

    どの曲も同じように愛が注がれている

    ━━「野球」については、ストレートなロック・サウンドである種原点に立ち返っているようなところがあったのでしょうか?

     いや、ふざけているだけでしょう(笑)。まあ、それも曲の“始まり”というか、きっかけがふざけているという感じです。自分たちはよくやるんですけど、みんなでプリプロをやるときに、曲作りのテーマをもらうんですよね。それで、誰かが言ったのが“野球”やったから、天理高校(高校野球の有名校)のテーマをとりあえず引用して、あとからバンド・サウンドが始まっているというだけなんです。そういった風にきっかけはふざけているけど、打球音のサンプリングとかはくそ真面目に入れている感じですね。

    ━━あの打球音、すごいですよね。“カキーン!”っていう硬さが絶妙で。

     プロ野球選手は木製バットだけど、みんながイメージする打球音って金属バットでの音に近いと思うんですよ。そうやって打球音ひとつをとっても音像についてめちゃくちゃ真面目にふざけたことをやっています(笑)。この曲はコロナ禍になる前にライヴでやっていた曲で、会場の場所によって繁くんが“かっとばせよ〜”の部分をご当地に替え歌して歌ったりしていて思い出深いですね。

    ━━なるほど、わかりました。今作についての話を聞いていて、数々の遊び心から音楽への愛を感じるアルバムだと感じました。ご自身で振り返ってみて、どういったアルバムだと思いますか?

     遊び心というのももちろんやと思うんですけど、“おふざけで自分たちが楽しいっていう遊びから始まっていることをどれだけ真面目にやるか”というのが自分たちのバンドのカラーでもあると思うんですよね。“ちゃんとした良い曲”というものがあって、それに対して向かっていくのと同じように、ふざけた曲でもカロリーや情熱を注ぎ込む。それは、今回は特にコロナ禍においてやれることは全部やって、試せるものは全部試すっていうようなことを考えていましたね。そのなかで“これ!”っていうのを探して、それが違ったらもう1回ゼロから作る、みたいな。そういう意味で、ものすごい心血を注いだ作品ではあるなという気はしています。だから、聴く人が聴いたらとっちらかったアルバムやとは思うんですけど、全部において、何かしらの情熱なのか愛なのかが込められていると思います。

    ━━“愛”。アルバムのタイトルにもあるキーワードですね。

     どの曲も同じように愛が注がれているので、それによってアルバムの統一感が生まれているのではないかと自分たちでは思っています。

    EQUIPMENTS

    BASS

     最近のレコーディングでのメイン器として使用しているのがこのフェンダー・カスタムショップ製ジャズ・ベース。4〜5年前から所有しているモデルで、アルダー・ボディ、メイプル・ネック、ラウンド張りのローズウッド指板、トラジション・ロゴといった1964年製の仕様を再現した1本だ。ノイズが出てしまうためブリッジとコントロール・パネルのネジを針金でつなぎ、ローディによる擬似的なアースでノイズを軽減している。今作では「潮風のアリア」「野球」「大阪万博」「watituti」「渚」「コトコトことでん」「watituti」で使用し、それらはダダリオ製のラウンド・ワウンド弦(.050-.105)で演奏しているが「大阪万博」のみ同社製フラット・ワウンド弦(.045-.100)を使用している。
     大学1年生の頃にローンを組んで購入し、そこから25年間ほど使い続けている1969年製ジャズ・ベース。コンディションを保つのが難しくなっており、数日間のレコーディングでのみ使用する。ボディの塗装が剥がれ木目模様の薄い白い木材の表面が現われているが、サンバーストの上から確認できる木目模様がペイントで再現されたものであることがわかる。これについて佐藤は“このボディはずっとフェンダーのものじゃないって言われていたんですが、実はフェンダーのものだったみたいで。当時、日本では山野楽器がフェンダーの代理店だったので、山野楽器の方に聞いてみたら、このフィニッシュの仕方は家具とかで使われていたものだったそうで、1969年頃のフェンダーはCBS傘下の時期だったために、いろんな仕様が混在していたそうなんです”と語ってくれた。フレットを打ち替えて、弦の裏通し用の穴が増設されている。今作では「I Love You」「ぷしゅ」で採用された。“カスタムショップ製のと比べるとこちらはローが末広がりな感じがするんですよ。録音のときはいいんですけど、ライヴだとそれが邪魔な雑味になることも多くて、でもそのガツっとした低音がいいんですよね”。
     「I Love You」「less than love」ではウッド・ベースを採用している。“「I Love You」は自身マイクを立ててレコーディングしたんですよ。スタジオにあるマイクをとりあえず全部試して、ローが出やすいだとか、アタックが出るだとかっていうことを実験して。最終的にはアタックを拾うために手元に1本、低音を拾うためにFホールに1本、それぞれ異なる声質のマイクを使って録音しました。それをエンジニアがミックスしてくれています”とは佐藤の弁。

    OTHERS

     本作における基本的なベースの録音方法は、こちらのAcme Audio製Motown D.I. WB-3(DI/右)を通してUNIVERSAL AUDIO製Appolo Twin(オーディオ・インターフェイス/左)に挿したのみだ。「ナイロン」「渚」以外のほとんどの曲でMotown D.I.を採用し、楽曲によってはエンジニアによるリアンプの際に使われた。“DIはエンジニアが出してくれたものを使うっていうのがポリシーだったんですけど、これは初めて自分で買ったんですよ。最高です。このDIのクセは自分のイメージしているライン音のキャラクターそのもので、しっかりと楽器の良さを鳴らしてくれるし、いつも聴いている感じの音で録れる。普段のレコーディングでは(アンペグ製の)B-15のヴォリュームを上げて歪ませるんですけど、そのアンプのマイキングとこのDIのライン音が混ざるとすごく自然に馴染むんです”。

    ◎PROFILE
    さとう・まさし●2月1日生まれ、京都府出身。高校に入学してからベースを弾き始める。その頃に岸田繁(vo,g)と出会い、くるりの前身バンドを結成。その後、立命館大学の音楽サークルでくるりとしての活動をスタートする。1998年にシングル「東京」でメジャー・デビュー。国内にとどまらず、海外にも活躍の幅を広げ、ロックを基盤に実験的な試みで新たなサウンドを模索し高い評価を得ている。これまでに12作のフル・アルバムなどを発表。2021年4月28日に13作目となるフル・アルバム『天才の愛』をドロップした。

    ◎INFORMATION
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