SPECIAL
打ち込みに対するあえての生感。
━━では、レコーディングはアドリブで行なうことが多いんですか? 例えば大枠だけを決めて、細かいフレーズはその場で生まれるものを採用するということもあるのでしょうか。
そうですね。レコーディングはそういうことのほうが多い気がします。(岸田)繁(vo,g)くんが曲を作る段階で打ち込んでアレンジしている曲もあって、「watituti」、「less than love」とかがそうなんですけど、そういうものはフレーズを覚えてレコーディングします。一方で「大阪万博」、「潮風のアリア」、「渚」などは“せーの”で一緒に録っていたりしていて、各メンバーとのその場でのリアルタイムなやりとりはけっこうあったと思います。
━━それに対して「コトコトことでん」はベース以外が打ち込みのアレンジで、そういった曲と演奏陣が集まって同時に録る曲とでは、どういった部分でプレイに変化が表われますか?
「潮風のアリア」とかの生っぽい曲の場合は、展開の変わり目でドラムのオカズも16分だったり三連符だったりと毎回違うので、それに対して自分が反応して弾くフレーズも変わっていくわけです。それに対して「コトコトことでん」は繁くんが打ち込みでアレンジしていったなかで、ベースも打ち込みでもよかったのですが、それだと生感が足りなくてすわりが悪いところがあって。そこでベースは空ピッキングを多めにして連なっているグルーヴ感みたいなものを出しています。打ち込みに対するあえての生感のプレイですね。オケに対して自分が最後に入れられるエッセンスはなんだろうって考えたところもあります。
━━一発録りの場合は、その場にいるプレイヤーでベース・フレーズが変わっていくということですね。
そうですね。歌が決まっていたら“サビでは盛り上がる”っていう流れを作る必要があるので、曲のなかのある程度の動きは決まっていますけど。
━━「潮風のアリア」や「渚」では、バースからサビに行くまでの流れで、フレーズではそこまで大きな変化をつけずに、弾き手のダイナミクスでストーリーを作っていますよね。
そうですね。例えば自分は落ちサビのときとかにベースが高音にいったりするフレーズはあまり好みではなくて。どこで盛り上がって勢いをどう持っていくのか、そういう起承転結みたいなものがそれぞれの楽器にあって。そのバランスは意識したりしています。 “こういうノリで、ここら辺でオカズを弾こう”とか、そういう大まかなことだけ決めていて、音はその場のノリということでしかない。あとは、展開が変わったりリズムが変わる前は、まずは自分が一番先に飛び込んでおかなければならないだろうという感覚でいる、ということくらいですかね。
━━そういった弾き手としての強靭さがあるからこそ、作品ごとに実験的な要素を加えていってもくるりの作品であるという一貫性が生まれているのではと感じます。
そういった意識を無理やり作っていったところがあるかもしれません。クリフ(アーモンド/d)と一緒に演奏するようになって、彼は正確無比に叩くのでそれに影響はされますよね。それでも繁くんが書いた曲を僕らが演奏しているので根本の部分は変わらないんです。それは自信ではなく、自覚ですね。いろんなドラマーが入れ替わって、ほんまに不安でしょうがなかったんですけどね。結果的には、自分は変わらなくてもいいんだということを学びました。
━━「益荒男さん」は、モダンなビート・ミュージックのようなさらっとした質感で仕上げられていながらも、アンサンブルはバンドらしい躍動感があって、その対比がおもしろいですね。
この曲を含めてのいくつかは、3〜4年前にクリフを含めてみんなで一発録りした曲がもとになっていますね。「益荒男さん」は繁くんがコンセプトも練って歌詞付きで持ってきた曲で、バチっと録ってそのままになっていました。仮タイトルに変なのがついていて、みんなで笑っていたところで一旦は終わっていましたね。
━━クリフさんと石若さんというタイプの異なるドラマーとの演奏では、それぞれで心持ちも変わってくるのでは?
そうですね。クリフとワカさんとでは脳みその使っている場所がまるで違うと思います。ふたりの素晴らしいドラマーと演奏できることは本当に幸せなことです。クリフはレコーディングでパンチ・インの録音をしても前後の違和感がまったくないぐらいにグリッドに正確なプレイをするんです。それだけでなく、演奏に込められているニュアンスも高度なものがあって。ドラムのプレイだけで曲をイメージさせてくれるっていう感じですかね。言ってしまうとドラムだけでも曲が成り立ってしまうのがクリフのすごさです。
━━“アーティスト”なんですね。
今作では「ナイロン」、「less than live」、「益荒男さん」などを叩いてもらっているんですけど、ドラムの録りの段階ではメロディもなにもなくドラムだけなんで、クリフは曲のすべてを想像しながら叩いているわけなんです。ベースを録音する段階になって、そうだったんだって気づくことが多々あります。構成もわからないような段階でもクリフが盛り上がりをすでに作ってくれたりしていて、そういう意味では本当に“アーティスト”ですよね。