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    ウィル・リー流 グルーヴ・ベースの極意 Part1(2009年2月号掲載)※音源対応

    • Photo:Yoshika Horita
    • Text:Bass Magazine
    • Cooperation:Akira Sakamoto, Hisafumi "JIMMY" Maeda

    NYのファースト・コール・ベーシストが送る直伝セミナー!

    ベーシストにとって最も大切なもの、それはグルーヴである。リズムやビート、音価、サウンドなど、ベースにまつわる要素をすべて包み込み、それぞれが絶妙なバランスで混ざったときに生まれるグルーヴは、“奇跡”とも呼べる。そんな得難いものをサラリと操り、音楽の本場ニューヨークにおいてファースト・コール・ベーシストの地位を手に入れた男が、この企画の主役ウィル・リーだ。

    彼の演奏を聴いて“黒人だと思った”という人がかなりの数にのぼったという伝説もあるほど、ウィル・リーのグルーヴは濃い。その秘密は一体どこにあるのか? それを探るべく本誌の2009年2月号に掲載された直伝セミナーをWEB版として再構成し、当時の付録CDに収録された音源とともにお届けする

    2008年12月の来日時にウィルが本誌のためだけに行なってくれた本セミナーを通して、世界を魅了し続ける“グルーヴ・ベースの極意”に迫っていこう。

    *本記事は『ベース・マガジン2009年2月号』掲載のコンテンツをWEB用に再構成したものです。

    ウィル・リー直伝『グルーヴ・ベースの極意』のトラックは、どれも一聴しただけではそんなに難しくなさそうと感じるかもしれないが、聴き込むほどに曲をカラフルにする絶妙なニュアンスづけとグルーヴの素晴らしさに気づくはず。ウィル・リーの実力に少しでも近づきたい人は、もちろん譜面は参考にしつつ、自分の耳も信じて細部までとことんこだわって練習してほしい!!

    音源に取りかかる前に、ウィル・リー奏法のポイントとなる項目をいくつか紹介しておこう。これを覚えてから音源に取りかかると、より効果的だろう。

    ◎スラップ

    ウィルのスラップは古くからあるサムピング・ダウンとプルという一般的なプレイで、左手ゴースト・ノートはあまり使わないスタイルだ。ダウンの連打はとても速い。また、プルをアクセントとしてだけではなく積極的にフレージングに組み込んでいるのが特徴で、親指と人差指でつまむような形でプルもする。

    ウィルの親指はとても長く、叩き方はぎこちなくも見えたのだが、ピックアップ・フェンスでパワーをセーブし、うまく強弱のコントロールをつけている。

    ▲サムピング・ダウンの基本フォーム。ピックアップ・フェンスに手のひらのやや下部分が当たるようなスタイルで叩き、力加減をコントロールする。

    ▲プル時には、親指と人差指で弦をつまむようにする場合もあった。実際にやってみるとわかるが、親指が遊ばないぶん、しっかりプルできるようだ。

    ◎2フィンガー・ピッキング

    2フィンガー・ピッキングのタッチは比較的強いが、バラードなどではフロント寄りでソフトなピッキングをするなど、状況によって使い分けている。タッチはジェームス・ジェマーソンなどと同様に、指を弦にしっかり当ててから振り抜くスタイルだ。

    強めのタッチと、後述する左手ミュートのコンビネーションから生まれる弾力のあるサウンドが特に印象的だった。親指の位置は4弦の上に乗せるのが基本で、リア側ではピックアップ・フェンスに乗せる場合もある。

    ▲リア側でピッキングするときのフォーム。写真ではピックアップ・フェンスに親指を乗せているが、1弦を弾くときなどは4弦に親指を乗せることも。

    ▲フロント側ピッキング時。このようにいろんな場所をピッキングすることで、音色に変化をもたらすのがウィルの2フィンガーの基本形だ。

    ◎2フィンガー・ピッキング

    押弦のフィンガリングは、手を開かないロッコ・プレスティアの影響が強いミュート・スタイルだが、ウィルのそれはさらに複雑な動きもあり、進化したロッコ奏法と言える。

    簡単に言うと、人差指で押さえるときは残りの中指、薬指、小指の3本の指の第一関節から第二関節の腹あたりで軽く弦に触れる。中指で押さえるときは薬指、小指の2本で軽く触れてミュートするというやり方だ。左手の形は比較的ガッチリ固定されるので、その左手をクロー(鷲の爪)とウィルは呼んでいた。

    このミュート方法の利点は、左手が忙しいぶん、右手が自由になり、フロントからリアまでのさまざまなピッキング位置をチョイスできるところにある。この奏法のとき、左手の動きはとてもアクティヴで、もはや神業に近い瞬間もあった。世の中には数々のバカテクが存在するが、そのほとんどは自己完結で終わる。しかしウィルのバカテクは、常にアンサンブルや共演者に向けられている。

    例えばこのウィル流ミュートでバラードを弾かれたら、歌い手はたまらなく気持ち良いだろう(今回のバラードも絶品!)。多様なジャンルからの依頼が長年あとを絶たない理由は、常に共演者を幸せにするベース・プレイにあると感じる。

    ▲左手のフォーム。ほとんどこの形のまま押弦をするので、目にもとまらぬポジション移動をして弾くことになる。

    ◎ハーモニクス使用時の動き

    今回の録音で印象に残ったことのひとつは、ハーモニクスをよく使っていたこと。ベースでのハーモニクスを使ったコード・プレイは、明らかにジャコ・パストリアスの影響だろう。ジャコは若かりし頃、マイアミ大学でベースを教えていたが、マイアミ大学のジャズ学部の学長をしていたのがウィルの父親のビル・リーで、ジャコはビルに雇われてレッスンを担当するようになったのだ。その関係もあってウィルはジャコのプレイを父親から聞き、興味を持っていたらしく、ハーモニクスは古くから取り入れていたのだろう。

    ウィルは特に、実音ルート音に9th、6th、M3rdを合わせた6&9コードの響きを好んで使っている。例えば1、2、3弦5フレットのハーモニクス和音+4弦1フレットFの実音で“F69”、1、2、3弦7フレットのハーモニクス和音+4弦8フレットCの実音で“C69”というように。6&9コードは、M7コードの代理としても使えるので、ぜひチャレンジしてみてほしい。

    ◎Dチューナーの効果的活用

    ウィルの特徴のひとつとして、プレイやステージングのアイディアが実に豊富なことが挙げられる。今回特に印象的であったのが、ヒップショットのDチューナーの使い方だ。これは付属のレバーを下げて半音下げのE♭、全音下げのD、まれにマーカス・ミラーのように2音下げのCというように、4弦開放の音程を任意にセッティングできるというアナログなアタッチメントなのだが、通常はあらかじめ下げておくのがベター。

    本企画ではサドウスキー製のウィル・リー・シグネイチャー・モデルが使用された。ヘッド裏にDチューナーが取り付けられている。

    しかしウィルはこれを曲中で、しかもランニング中に素早く4弦開放をEからDに下げ、またEに戻すという荒技をしていたのだ。親指がかなり長いウィルならではと言える(クルセイダーズのメンバーで来日したジミー・アールも行なっていたが)。レバーを戻したときに音程が若干シャープしてしまうのだが、ウィルは多少のピッチは気にせず豪快にやっていた。細かいことは気にしない、非常にアメリカ人らしい(?)プレイと言えるだろう。

    <Ex-1>はメインのリズム・パターンで、休符を使って大きな間を活かした符割のスラップによるベース・ラインだ。

    <Ex-2>の4小節目は、指弾きによるソフトな和音弾きでメリハリをつけており、m7〜m6のような動きになっている。8小節目の32分音符はサムピング・ダウンとプルのコンビネーションなので、比較的容易に弾けるだろう。

    【B】の部分からは、16分のシンコペーションによる細かな符割のベース・ライン。休符の部分では左手のゴースト・ノートを入れたりしてリズムをフォローしていないので、正確なサムピングでのリズム・キープを心がけよう。【B】の4小節4拍目は、10thの音がカッコイイ。【C】からはオクターヴによるラインだ。左手は音符を充分にテヌートで伸ばすようにしっかりと押弦し、ポジション移動させよう。

    ◎Part2はこちら

    「ウィル・リー流 グルーヴ・ベースの極意」
    が掲載されている『2009年2月号』はこちら