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FEATURED BASSIST-草刈愛美[サカナクション]

  • Interview:Koji Kano
  • Photo:Masato Yokoyama

今までのアルバムのなかで一回も歪ませなかったのは初めてかもしれないです。

――「月の椀」ではベースがドラムとシンセにガッチリ噛み合ったアンサンブルが楽しめますが、バンド全体としてもこだわった部分なのでしょうか?

 そうですね。サビのデモができ上がってみんなに“これどう?”って意見を聞きました(笑)。そこからみんなの考えが入っていくなかで、後半からは4つ打ちにして絡ませていきたいって意見が出たり、隙間にギターのフレーズを入ってもらったりして全体のアンサンブルができ上がっていったんです。

――2番からのロー・ポジションに移行する部分は、トレブルをカットしたような前半とは音の方向性を変えているように聴こえるのですが、いかがでしょう?

 よく気づきましたね(笑)。ここは親指で弾くことで、“カチッ”とした音が出ないようにしているんですよ。あくまでも自分の手のニュアンスで音色を変えていて、ライヴでもレコーディングでもベース本体のトーンをいじったりはしていないですね。

「月の椀」Music Live Video

――音の切り替えという面だと、インスト曲「エウリュノメー」は、前半のスタッカート部分はエレベ、後半のロング・トーンからシンベに切り替わっています。サカナクションといえばこの“エレベとシンベのコントラスト”という魅力もありますよね。

 この曲は実はいろいろとドラマがあって……ギリギリのタイミングで収録が決まったこともあって、短期間に急ピッチで制作と録音を進めていったんです。でもレコーディングの最終週にメンバーが体調を崩してしまったこともあって、できることを探して進めていきました。同期音がメインではあるけど、そのなかにも生楽器の雰囲気を感じてもらいたかったので、あえて前半はエレキ・ベースを選択しました。

――生楽器がほぼ入っていないことから考えると、全篇シンベを使うという選択肢もあったように思います。

 そうなんですけど、おっしゃってくれた“生ベースとシンセ・ベースのコントラスト”っていう部分は意識した部分なんですよ。この曲はドラムの江島(啓一)がデモのアレンジを担当したんですけど、“前半は生ベースの感じ、後半はシンベに切り替えたい”っていう彼の意向もあったので、それに沿ったアレンジになってますね。

――今作のエレキ・ベースの音を聴いていると、歴代の作品のなかでも特にナチュラルなサウンドに感じました。どのような音作りを?

 今作はもう完全に素の音ですね。基本的にベースからDI直で、アンプすらほとんど全然使ってないですから。今までのアルバムのなかで一回も歪ませなかったのは初めてかもしれないです。自分でもびっくりですね(笑)。

――さて、続いては第2章【アプライ】ですね。楽しみに待っているファンに向けてどのようなものになるのか、ざっくりと話せる範囲で教えてもらえませんでしょうか?

 第一章の【アダプト】と同様に、今回も大きい目標・プラン・夢を持ちつつ、それらが積み重なるなかで内容も変わっていくとは思うんですけど、アダプトで得ることのできた確信を糧にまた新しい楽曲を作っていきます。その積み重ねが【アプライ】という形でまとまるといいなと思いますね。具体的に取りかかっている曲もありますし、どういう風にしてみたいっていうのもメンバーで話してはいますけど、最終的にどうなるかは私もわからないので、これから続編のツアーをやるなかで作り上げていければなと思います。

2022年4月19日発売のベース・マガジン2022年5月号では草刈愛美が“FEATURED BASSIST”に登場! BM Webとは別内容のロング・インタビューのほか、最新機材群など、盛りだくさんの内容でお届けします。

◎Profile
くさかり・あみ●サカナクションのベーシストとして2007年にメジャー・デビューし、これまでに8枚のオリジナル・アルバムを発表、大きなセールス実績・ライヴでの観客動員数を誇り、現在の音楽シーンを代表するロック・バンドの一組である。第39回日本アカデミー賞にて最優秀音楽賞をロック・バンドとして初受賞するなど、多方面から高い評価を得ている。昨年11月に行なわれたオンライン・ライヴ“SAKANAQUARIUM アダプトONLINE”から“【アダプト】【アプライ】プロジェクト”を始動させ、3月30日に第一章の総括となるフル作『アダプト』を発表した。

◎Information
サカナクション
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