UP

FEATURED BASSIST-草刈愛美[サカナクション]

  • Interview:Koji Kano
  • Photo:Masato Yokoyama

時代を変革する、クリエイティビティの“核”

固定概念に捉われない独自の手法で、ロック・シーンにいくつもの金字塔を打ち立て続けるサカナクション。彼らが昨年発表した“【アダプト】【アプライ】プロジェクト”はそれを象徴する極めて斬新な一手であり、ふたつの章を通じて完結する壮大な物語だ。第一章の総括としてリリースされた『アダプト』は、これまでの彼らの歴史にはなかった新たなサウンドを提示。ここから始まる次なる伝説を予感させる一枚となっている。空気感たっぷりのグルーヴを聴かせる草刈愛美は、コロナ禍をきっかけにベーシスト、そしてバンドマンとしての自分を見直したという。2022年4月19日発売のベース・マガジン5月号の“FEATURED BASSIST”にも登場する草刈だが、ここではひと足早く誌面とは別内容のインタビューをとおして、彼女のプレイを紐解いていきたい。

Interview

どんな表現になったとしても音楽が中心にあることは変わらない

――“【アダプト】【アプライ】プロジェクト”の第1章【アダプト】では、2021年末から6都市(全14公演)を回るホール・ツアー“SAKANAQUARIUM アダプトTOUR”がありました。2020年の春以降、コロナのために予定していたふたつのツアーの中止を余儀なくされたわけですが、今回のツアーを無事に終えることのできた率直な感想を教えてください。

 毎回ステージに出る直前からステージを降りるまで、“本当にできるのかな”って不安は常にあったし、ライヴ中も“ここまで!”って言われるんじゃないかって考えるほどの状況だったので、一日が終わるたびに“できた”っていう実感と喜びはありました。もちろん私たちの力だけじゃなくて、観客の皆さんの感染対策や理解がなければ絶対できなかったことだし、スタッフも今まで以上にいろんなところに努力してくれたので、それらがあって最後まで完走できたと思います。

――久しぶりにお客さんの前で演奏した気分はいかがでしたか?

 “本当にやっていいのか”っていう葛藤は今も消えたわけじゃないですけど、実際にお客さんを前にしたとき、自分にとっても、リスナーにとっても、音楽は大切な存在であって必要なものだったんだなっていうことを改めて実感しました。お客さんの前で演奏するのは久々だったので、その感覚を楽しんで演奏できましたね。

――“SAKANAQUARIUM アダプトTOUR”では巨大セットを組んだ“舞台演出”、初めてバンド・メンバー以外の出演者がステージに登場、オリジナルのサウンド・システム“SPEAKER+(スピーカープラス)”を初めて導入するなど新たな試みもありましたね。ステージ上で演奏するいちベーシストとしては、これらのことからプレイやサウンドに対して意識の変化はありましたか?

 ありましたね。まずステージでの表現が増えれば増えるほど、役割は分業化する。すなわち各々が専門性を高める必要があると感じたので、今まで以上に“この照明が当たるこの位置に立って、あっちから音が出て、そこで自分が音を出す”っていうプレイヤーとしての役割をまっとうする意識は高まりました。あと演出の意図とか、SPEAKER+はどういう風に客席に届いているのかをうるさくまわりのスタッフにも聞いてました。私はほかに気になることがあると集中できないので(笑)。でもどんな表現になったとしても音楽が中心にあることは変わらない部分だとは感じていました。

『アダプト』
ビクター
NZS-875(完全生産限定盤)
VIZL-1995(初回生産限定盤A)
VIZL-1996(初回生産限定盤B)
VICL-65644(通常盤)
上段左が草刈愛美、右が岩寺基晴(g)。下段が左から、江島啓一(d)、山口一郎(vo,g)、岡崎英美(k)。
Documentary of SAKANAQUARIUM アダプト TOUR at NIPPON BUDOKAN trailer

――今作『アダプト 』での草刈さんのプレイは、より生のバンド感を意識した、アンサンブルの中心として全体を牽引しているように感じました。サカナクションとして、今作ではベースをどのような立ち位置として考えていたのでしょうか?

 正直、アルバム全体のコンセプトが先にあったわけではないので、一曲一曲に対して向きあっていった結果かと。全部きれいに直す手段は今はたくさんありますけど、そのなかでも手触り感のあるサウンドをバンドとしても大事にしたい気持ちは前作からあったので、それが伝わるような作品にする意向はみんなのなかにもあったと思います。あとひとつ影響してると思うのは、パンデミック中にバンドで合わせる機会が減って、自宅制作の期間が続いたことです。リアレンジや舞台音楽を自宅中心で作る期間を経て、バンド・アンサンブルの感動や楽しさを改めて実感したので、そういう気持ちも込められていると思います。

――「月の椀」は草刈さんらしい、スラップと2フィンガーを組み合わせたタイトなフレーズでそのバンド感を演出していますね。特に高音弦のオクターヴの音粒を細かく変化させていて、それがこのグルーヴ感につながっていると思います。

 この曲はサビからできた曲で、デモのアレンジは全体的に私がやらせてもらったんです。ドラムやシンセのパターンも合わせて考えたこともあって、ベースはシンセとユニゾンして、強いアタックにすることで全体のリフとして聴いてもらえるようなアンサンブルをイメージしました。AメロBメロはそれをもとに、さらに削ぎ落としたアレンジになっていますね。ドラム、シンセ、ベースがガチッと一緒になるリフを一回やってみたかったんですよね。

『アダプト』teaser movie

▼ 続きは次ページへ ▼