SPECIAL
ちゃんと自分のイメージを追いかけること。やっぱり音色って正直だからさ。
━━「Day by Day」はごっちんさん作曲でソリッドなロックですね。ベースは深いところで支えるような音色が気持ちいいです。
ごっちんのギター・サウンドは、やはり低音が持ち味だし、ベースが喧嘩しないようにするっていうのは注意していたかな。ただ、フェンダーのプレシジョン・ベースを使うようになってから、ベースの置き場所はすごく明確になったと思う。ドラマーとギター・サウンドに対して、いい意味で隙間を与えてあげられるんだよね。壁にならないっていうか。それが楽曲をものすごく立体的にしてくれる。本当に不思議な楽器だよね。
━━今作での使用機材は?
アンプ・ヘッドはアンペグのV-4Bと50周年モデルのSVTだね。キャビネットは(SVT)810と、ライヴ用にゲットした、1発入りの小さいアンペグのスピーカー。ベースはJモデルの“BLACK GOLD”と“CHAMPAGNE GOLD”、あとはグレッグ(フェスラー)が作った“金ヴィシャス”(1960スタイルのプレシジョン・ベース)がけっこう使われたかな。それぞれのベースはやっぱり特色が違って、曲のテンポやスケール感によって存在感を発揮してくれるものがそれぞれある。“BLACK GOLD”は俺のサウンドを作り出すときの基準になっていて、“CHAMPAGNE GOLD”は━━また響きが変わってきているけど━━低音がもう一枚あるというか、よりファット。“金ヴィシャス”は、これだけ指板がローズウッドで、アッシュ・ボディとメイプル・ネックになっていて、どこまでも真っ直ぐというか、ピッチがビッチリと合っている感じ。レコーディング・スタッフ界隈ではすごくファンが多いね(笑)。全部のバランスが良くて、すごくロックな音がするよ。
━━「Night Flame」のサビは8分ルート弾きですが、高いポジションに上がる部分がすごく突っ込んでいるというか勢いが感じられます。この、8分弾きで低いポジションと高いポジションを混ぜるというアプローチはイントロやAメロでも見られますが、そこでは逆にちょっと落ち着いている感じもするんですね。このリズムの感じさせ方の違いは意識したものですか?
意識していると思う。ドラムのビート感に対して、どういう風にベースが聴こえてくるか。それはレベル(音量)という話ではなくてね。どこにアタックをおけば、ドラムやビート感、その曲のテンポ感がどういう風に聴こえるのか。そこにベースのアタック音が聴こえることによって、ものすごいウネリが生まれる。実は俺はベースを弾くときに、そんなことしかやっていないんだよね。それを操るのが楽しいっていうか。俺らベーシストは決して数学的な正解を求めているわけじゃないじゃない? ドラムとの呼吸感とか、バンドとの呼吸感みたいなところで、どこに立つかみたいなことでしか、ベーシストの個性って語れないような気がしていて。
━━DTMなどの普及で、音を波形で見ることができたり、グリッドに合っている合っていないという、ある意味数学的な視点も話題になることがありますよね。
それがわかりやすいんだと思うよ。安心なんだと思う。正解がなくて雲をつかむようなものだからね、グルーヴ感って。グリッドに、もしくはほかの楽器にバッチリ合っていればグルーヴ感なのかって、そうじゃないんだよね。正解って、“感じるもの”だったりするじゃない。それを追いかけるのは大変だからさ。さっき「FLASH」の話が出たけれど、あれ、実際はけっこうズレているんだよ。でも、ドラムとギターと一緒に聴くと、ものすごくスウィングする。しっかり弾いちゃうと「おもちゃのマーチ」みたいになっちゃうんだよね(笑)。すごく軽くなる。難しいことはひとつもやっていないけど、音符が絶妙な場所に置かれていて、それがグリッドに合っていない、しっかりとしたグルーヴ感があるベースになっている。そして、あのルーズにダーティに引きずるようなグルーヴっていうイメージを集約していくと、あのタイム感に当てはまっていくんだ。
━━聴感上でカッコいいを判断するのが、まさしくセンスですよね。
そう。それに、実際に俺たちは音楽をポイントで聴いていないでしょ? 結局、始まってから終わりまでのドラマでしょ。そのなかで、ウネリみたいなものがあるわけだし、そのウネリに鳥肌が立ったり気持ちが動かされたりするわけだから。そしてそのウネリって、タイミングもそうだし、音色もそうだし、いろんなものが生み出す要素になっているわけだから、ただ、手っ取り早く正解を見つけるのは、もしかしたらグリッド、数学的なところに音符を置いちゃうのが、誰かにとっては楽なのかもしれないよね。そういう人たちには(笑)。
━━ベーシスト視点でいうと、あの「Night Flame」のサビの追い立てられるようなルート弾きを、Jさんはオルタネイト・ピッキングで弾いているんですよね。それも驚きだなと。
ダウン・ピッキングのように聴かせるっていうやつだね(笑)。自然と自分でもそうなっちゃっているから、どうやっているかなんてうまく説明はできないけど、やっぱり弾いていて、聴いていて、“あ、ちょっと違うな”と思ったら、ちゃんと自分のイメージを追いかけること。それを続けていたら、こうなったんだよね。やっぱり音色って正直だからさ。気持ち良さみたいなものの追求を自分のスタイルでやり続けた結果だよね。それに今だって、まだまだ8ビートはグルーヴするっていうか、もっとカッコよく、もっとセクシーになるっていう、そんな気持ちがあるんだ。
━━さて、1曲目「Wake Up!」はシャウト気味の歌唱、しかもちょっとあえて不安定な感じが、音源としては新鮮で、より裸な印象がありました。また、“Wake Up!”はJさんを象徴する熟語でもあります。
この曲も、このアルバムに入っている曲たちを作っていくなかで生まれたんだけど、メンバーとは仮タイトルで「ZZ HEAD」なんて言って、ZZトップとモーターヘッドがミックスされて、もっとダーティにもっとワイルドにっていうイメージで作っていた曲なんだ。作っていけばいくほど、今の自分たちを表わしているような楽曲だと思ったし、自然と“Wake Up!”っていうメロディが生まれてきた。俺はベースに“Wake Up! Mother Fucker”って書いていたけど、そういえば「Wake Up!」っていう曲をやっていなかったなと。「Wake Up!」ってタイトルをつけたら、そのあとに続く言葉はみんな思い浮かぶよねってイメージで、この曲がオープニングになったら、“本当にアイツはあいかわらずだな”って思ってくれるかなと(笑)。コロナ禍でもなんでも、俺はなにも変わっていないし、変わるはずもないよって。そういうメッセージが込められているし、タイトルそのまま、みんなに“目覚めろ”というメッセージを投げかけることができるかなって。
━━コロナ禍でいろんなものが変わらざるを得なかったけれども、そのなかで変わらないものはこれだよなっていう、自分のなかで筋の通っているものを再発見再確認した2年でもあったのかなと。
そうだね、本当に。やっぱり全音楽ファンがこれから自分たちの大切なものを取り戻していく作業をしていくと思うんだよね。今までとは違う形になるかもしれないし、元に戻っていくかもしれない。それは誰にもわからない。だけど、音楽を楽しむっていうことに限界はないと思うんだ。ライヴの形は変わっても、音楽を取り巻く状況は変わっても、音楽にある情熱とか、それを求める情熱は一切変わらないと思うから。そういう意味では、より、エンジョイすること、ロックすることに集中したアルバムになったかなって思うんだ。
J
Profile
ジェイ●8月12日生まれ、神奈川県出身。1992年にLUNA SEAのベーシストとしてデビュー。2000年に終幕するも2010年に活動を再開し、現在までに10枚のオリジナル・アルバムなどを発表している。1997年からはソロ活動も展開し、これまでに11枚のオリジナル・アルバムなどをリリース。2020年11月3日にソロとしての12枚目のオリジナル・アルバム『LIGHTNING』を発表し、同作を携えたライヴ・サーキットを開催する。ファイナルは、2021年12月30日(木)@ 渋谷TSUTAYA O-EAST。
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