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FEATURED BASSIST-J

  • Interview:Kengo Nakamura
『LIGHTNING』全曲試聴ダイジェスト

どんなアプローチをとっても俺たちにとってはロックになっちゃう。

━━前作『Limitless』が極限まで削ぎ落としたソリッドなサウンドだとしたら、今回はもうちょっと立体的ですよね。パートも役割が分かれて、ユニゾンって感じではないですし。その象徴が「FLASH」なのかなと思います。ギターのリフがループするなかで、ベースはそれには付き合わない方法論ですし、ユニゾンする場合でも、ただのギター・リフ低音部の補強という印象ではありません。

 そういう意味では俺自身のベース観が詰まっている曲かもしれないね。曲のなかでの立ち位置、ロック・バンドのなかでのベースとして、“こういうのがカッコよくない?”って。この曲に関しては、自分自身でも新しい曲の作り方ができたと思っているんだ。曲を作るときにはいつも、“じゃあ歌をどうしよう”とか“サビをどうしよう”とかを考えながら作っていくような、自分のなかである意味での“呪縛”があるんだけど、「 FLASH」に関してはそういうところを全然考えずに、グルーヴ感の気持ちよさだけで作っていった。まずギターのリフが存在して、このテンポ感やグルーヴ感が、今、自分たちがバンドとして一番破壊力を持って鳴らせるものなんじゃないかなって思いながら、こういう曲をカッコよく決められるバンドになりたいなっていう思いもありつつできあがっていった曲なんだよね。最終ゴール地点は“歌”ではなく“楽曲”というか。そうしたら、意外にもメロディとのマッチングも自然に生まれてきた。作っていて楽しかったね。

━━前作のソリッドさと対照的な広がり方という意味では、「HEAT」のサビは左右でアコギが鳴るのが壮大で、ベースのズドーンとしたローがまたレンジを広げています。このアコギも新鮮な印象でした。

 あれは実はmasa(masasucks /g)のアイディアだったんだ。レコーディングのときにアコースティック・ギターを持ってきたから、何をやるんだろうと思ったらサビで弾き始めて。でも、“まさに、このイメージだね”って、エレクトリックな楽器ばかりで広げようっていうのとは全然違う、アコースティック・ギターが持っている響きがすごく世界を広げてくれたね。「HEAT」に関してはすごくシンプルな作りだったんだ。自分自身のやってきたスタイルをもう一度確認するような作業だったりもする、本当にビートとギターとベースで、どれだけ表現できるかっていうところ。構成も難しいところにいかないし、純粋に自分のなかのロック観みたいなものを出した曲だったね。

━━そのなかで、歌の隙間にベースでのオブリがうまく挟まっているのが気持ちいいです。また、イントロの8分弾きからAメロに入ると、ギターは引き続き8分で埋めているのに対して、ベースは“ダダッダ、ダダッダ”と休符を入れたアプローチに変わって。このベースの8分休符がひとつ入るだけで、すごくスウィングしていきます。

 うんうん。たったそれだけのことなんだよね。だけど、曲にものすごく作用していく。それは俺もすごく感じたな。「MY HEAVEN」と「A Thousand Dreams」で新しいアプローチができたからこそ、ほかの今までやってきたアプローチに対しても、天井を抜かしてあげられたっていうかね。「HEAT」に限らず、“こうじゃなきゃいけない”みたいなところから解き放たれた感じはすごくしたかな。そういう意味ではバンドとしても成長しているし、いまだに気づきがあるし、ベースに関しても、バンド・サウンドにしても、すごく楽しいレコーディングだったよ。

━━ベースでのオブリにも耳がいく場面が多いですね。「Over and Over」のサビでは、ヴォーカル・ラインと輪唱するようなベース・ラインで、それがイントロにも使われていて。

 ああいう部分って、実は考えずに、弾いていたら自然とそうなっていたというのが近いんだ。ソロの楽曲に関しては、ベースもヴォーカルも、さらにギターもドラムも、自分自身が思い描いている絵をそのまま落とし込んでいく感じだし、特にベースっていうのは、俺の曲に俺のスタイルをハメていくから、手グセや自分の音階の取り方が満載なんだよ。そういう意味では、歌とベースがシンクしているところもあれば、ギター・フレーズとベースがシンクしているところもあるし、自分でもそんな部分を楽しんでいたりするんだよね。曲を作っているときには、頭のなかで仮歌みたいなものがガンガンに鳴り響いていて、それをどう生かすかっていうベースを弾いていたりね。

━━べース・ヴォーカルと単体のベーシストではちょっと思考回路が違うものですか?

 確かに違うね。ソロをやってもう25年になるし、歌うこと、ベースを弾くこと、歌いながらベースを弾くことが、自然とそこにあるものだから普段あまり意識はしていないけれど、どちらかだけではない、両方が並走している感覚がある。そのなかで、ソロでやるときのバンド・サウンドに対しては、より低音を支える、バンドをグルーヴさせる部分で言うと、シンプルなアプローチのほうが、MASUO(有松益男/d)くんやmasa、ごっちん(溝口和紀/g)が弾くフレーズに対して、俺が作った曲に対しては有効なんだよね。片やLUNA SEAのアプローチで言うと、ドラマーも違えばギタリストもヴォーカリストも違うなかで、自分のスタイルをそこに立たせようとすると、やはりああいうアプローチになる。ただ、その両方とも俺自身だし、その色やタイミングみたいなものに俺らしさを感じてもらえると思うけどね。

━━「Starrrrs」サビの後半ではヴォーカル・ラインとリンクせずに16分ズレて動くところと、リンクするようにアタマで動く箇所があったりしますよね。このリズムの混合は歌いながら弾くのも難しいのかなと。

 同じフレーズを繰り返して弾いたパターンも実際にレコーディングしていたりするんだけど、聴いていて退屈だったんだよね。こうやってちょっと変化させたほうが、よりお互いのフレーズ感を際立たせてくれるのも感じたし。ヴォーカルとベースのタイミングがズレていることについても、やっぱり自然と、ヴォーカルはあそこがスタート・ポイントであってほしいし、ベースのスタート・ポイントはこっちであってほしいって、そういうのがあるんだよね。それに忠実にやっているだけなんだ。そうやって、また自分の首を絞めているんだけどさ(笑)。

━━「Starrrrs」はmasasucksさん作曲で、ドラムのスネアの入り方がおもしろかったり、ちょっとダンサブルで今っぽさもあります。どういう風にリクエストを?

 今回、masaとごっちんに1曲ずつ書いてもらったんだけど、ふたりに言ったのは、ちょっとテンポ・ダウンした曲でもグルーヴ感が出せるようなものがカッコいいと思ってるんだよねってこと。この年齢になって、ただはっちゃけているのも、あんまりカッコよくないでしょ(笑)。今の自分たちがやってカッコよくて、さらに新しさっていう意味では、そういったものかなって。例えばダンサブルな曲だとしても、例えばミディアム・テンポのロックだとしても、グルーヴ感が感じられるものって話はしたんだ。そうしたらふたりが、何度もライヴを経験して何度もいろんなシーンを共有してきているから、“今のJ”がやるべき音楽というものを彼らなりに生み出してくれたなって思っているね。

━━「Starrrrs」は今っぽさもありつつ、重心の低さが、“ならでは”だなと。

 そうなんだよね。どんなアプローチをとっても俺たちにとってはロックになっちゃうから。それは嬉しいことだったりもして。重戦車のようでしょ(笑)。

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