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<祝!デビュー30周年&映画大ヒット>柏原譲 フィッシュマンズ時代のアーカイヴ・インタビューを特別公開

  • Photo:(C)2021 THE FISHMANS MOVIE

柏原譲『Neo Yankees’ Holiday』リリース時インタビュー(1993年9月号)

3rdアルバム『Neo Yankees’ Holiday』 リリース時の1993年9月号のインタビューは、同作において重要な役割を果たしたシーケンサーを駆使してのグルーヴ研究の成果や、ゲート・タイムの考察による柏原のグルーヴ観に触れることのできる内容となっている。

毒のあるバンド、と言ってもらえると嬉しいですね

フィッシュマンズがニュー・アルバム『Neo Yankees’ Holiday』をリリースした。レゲエ、ポップス、ロックン・ロール、さまざまな音楽をルーツとしながら、一歩ずつ独自の世界を作り上げてきた彼らだが、このアルバムの混沌としたサウンドはすでにフィッシュマンズのオリジナル以外のなにものでもないだろう。今回はコンピューター・オペレートにも関わったベースの柏原に話を聞いた。

『Neo Yankees’ Holiday』
(1993年発表)

まずシーケンサーでグルーヴを作ってみる

━━今回はだいぶコンピューターをいじってたそうだけど。

 そうですね。マックいじってる時間のほうが長かった(笑)。

━━ソフトは何使ってるの?

 僕はCubaseを使ってる。シーケンサーって本格的に使い始めたのは去年からなんですよ。その前はほんとにローランドのMC-4までさかのぼってしまうんで、参考にならないんですけど(笑)。最近はベースとかリズムのグルーヴを考えるときに、だいたいシーケンサーで考えちゃう。

━━何か思いついたらベース持って弾くんじゃなくて、ちょっと打ち込むという?

 それをあとから本人が練習する(笑)。

━━レゲエみたいに縦のビートがけっこうハッキリしてると、打ち込みがやりやすいとかいうことはあります?

 いや、けっこう、もうゆがんでるんですよ。グルーヴ作っていくときに、まずベタで全部8分とかでやっちゃって、ベースも一応ベタで打ち込んでから、全体に3連のクオンタイズをかけていくんですよ。最初は10%くらい。それがちょうど35%とか40%あたりの微妙なとこで気持ちいいなってなるんですけど。これをたとえばベースだけとかドラムだけで聴くと“何じゃこりゃ”みたいなものではあるんですけどね(笑)。

━━前にインタビューしたときに、ベースとドラムでちょっと違うようなリズムで意図的にやるって言ってたでしょ。そういうのをシミレーションして打ちこんだりというのは?

 まあ、その考えはありますけどね。今回、例えば「いかれたベイビー」という曲があるんですけど、ドラムには先にいっててほしいという考えがあったんです。結局、ハイハットだけ先にいってるんですけど。そこにベースは遅れて入ってくるんだけど、ちょうど8分音符だとか16分音符とかで音符が切れるでしょ? 遅れて入ってきても、そこのところで一緒に切れてれば、つじつまが合うというか、ちゃんとできてる。そういうのをやってたんですけどね。

「いかれたBaby」MV

━━どういう仕上がりにしようかとか、何か目指していた地点というのはあるんですか?

 僕らはわりと前作は地味というか、曲に華がないというか、そういう風にとらえてたんですよね。逆に今度は1曲ごとにシングル・カットできるような、FMとか、カー・ステレオで聴くようなたぐいの線を考えていたんですけどね。1曲1曲を極端な方向でやる、みたいな。

━━自分で一番気に入ってる曲は?

 「いかれたベイビー」とか「Smilin’ days, Summer Holiday」、「Just Thing」ですか。

━━フィッシュマンズって基本的に毒がありますよね。

 最近そう言ってもらえてすごく嬉しいです。昔はほのぼのしてるとか、そう言われがちだったんだけど。

━━ベースは何を使ったんですか?

 おもにプレシジョンとスタインバーガーなんですよ。半々ぐらいずつ。

━━使い分けはどのように?

 こういう言葉が通じるかな……アナログ的なものはプレベで、コラージュ的なものはスタインバーガーでって自分のなかでは決めてたんですけど。そんなのわかんないですよね(笑)。

━━アナログ的なのはプレベで、というのはわかりやすいけど。

 だから、静かな間というか、間がほんとに何にもない、無音なんだ、という曲のときはスタインバーガーを使って。立ち上がりの速さみたいので一応決めてたんですけど。プレベは生演奏に近い感じのときに使った。だから「1,2,3,4,」とか「Smilin’ Days」とかはスタインバーガーなんですよ。

━━フィッシュマンズの場合、空間の使い方というか、音の出し入れというか、それがすごく印象的なんですよね。

 それはバンドの欠点でもあるんですよね。とにかくほんとに必要なものしかいらないなって思っちゃって。それがまあ、華のない曲ということにつながるんですけど。だから課題でもあるんですけどね。

要するにゲート・タイムの問題なんです

━━ところでライヴで弾いてるのを観たら、右手のタッチはすごく軽い感じがしたんですけど? 

 音の立ち上がりが遅いほうが好きなんですよ。テンポにもよるんですけど、95から100いくつぐらいの、普通に言うミディアム・テンポぐらいだと、やっぱりフェンダー系のベースって、プアッっていうじゃないですか。それが好きで。だから弱いわけじゃないんだけど、なるべくネックに近いほうで弾くんです。

━━それで、必然的に音も丸くなるという?

 そうですね。それがちょうどハマるとバスドラの長い音みたいな感じになるんですけど。

━━そういう音でなおかつ、もたっちゃわないように弾くには、自分のなかではちゃんとジャストに何か鳴ってるものを感じてないとツラいということは?

 シーケンスの話でも言ったんですけど、要は音符の切れる長さ、ゲート・タイムだけだから。普通ジャストで弾くというと、頭のとこをジャストで入りますよね。僕の場合は頭はいい加減というか、絶対遅いんですよ、入りが。だけどそこまでゲートが伸びて、絶対生きるという。だいぶ普通の譜割りよりも音符が短いと思うんですよ。普通の8でドウドウドウドウと弾いたとしても、ゥドゥドゥドゥドみたいになってる。そういう奏法だと、重くてしかももたらないというか。それは気をつけてます。

━━自分のプレイをコンピューターでシミュレートしたことってあります?

 ありますよ(笑)。普段やってる感じが、シーケンサーでやってみると出ない。“何かすごくたまってるんだよね”って人が言うから、シーケンスを遅らせてみたんだけど、それじゃただ単に遅れてるだけだって。それでゲート切るタイミング変えてみたら“ああ、こうやって弾いてたんだ”というのがわかったという(笑)。

━━そういう感じに聴こえる人っていうのはほかにもいるものですか?

 そんなに極端でもないですけど、ルーツ・ラディックスという、ほんのしばらく天下をとってたバンドがあって。80年代頭からコンピューター出てくるまでの5、6年ですけど。今はエイドリアン・シャーウッドのON-Uでドラム叩いている人がいたバンドなんです。実はけっこう影響受けてるんですけど、3連とシャッフル系とベタの区別がないんですよ。みんな同じ(笑)。

━━みんな35%ぐらいでクオンタイズされてるような?(笑)

 そうそうそう。だから、もうちょっとシャッフル感が多くなるとシャッフルだなあとか、少なくなるとベタだなって感じには聴こえるんだけど。絶対譜面にはできないでしょうね。

━━今までシャッフルは得意だった

 きっと苦手なんでしょう(笑)。

━━今回もあるでしょ。

 でも、あれはドラムの方に苦労していただいて。最近、こういうノリで叩いてくれとか言うときに“何%ぐらいで”とかって言っちゃうんですけど(笑)、ドラムの人はそういう機械的なの異常に嫌いなんですよ(笑)。パッドとかシンドラとか、ああいうのすら見るのも嫌なんじゃないかな。アナログなんですよ。ライヴはノリだとか言う人だから。だから、そういう人にこういうものもカッコいいんだよっていうのを教えなきゃいけないんだけど、いきなり“何%”とか言っちゃうとまずいですよね(笑)。だから1回レコーディング前にうちに呼んで、コンピューターの前に座らせて。“今はコンピューター使っても別に昔のYMOにはならないんだよ”て言ったら、ちょっと納得してたみたいでしたけど(笑)。あれ、何の話でしたっけ?

━━シャッフルですよ(笑)。

 僕はまあ、レゲエとか聴く前にジェームス・ブラウンとか70年代あたりのが好きだったんですけど、その人たちもやっぱりピッチリはまってはいないですよね。よっぽどコマーシャルな曲じゃないかぎり。でも、ドラムとの関係はちょっと変わりましたね。いわゆるアメリカ音楽って、絶対ベースのほうが前じゃないですか。グルーヴ的に言ったらベースがわりと引っぱっている。でもレゲエとかは逆なんですよ。どっちかと言うと、ドラムとかハイハットとかが前に出て。それでバスドラがベースと一緒になる。

━━例えば同じ曲を全然違うパターンでやってみたりは?

 ライヴではたまにやってる。ドラムとベースだけではいろいろやるんですけど、それをヴォーカルの方が消化してくれるまでがわりと時間が長いんで。“こんなのは好きかい?”と最初聞いて、それで1年後ぐらいまでにOKが出ると(笑)。あとライヴ中にちょっとずつ変えてって、気づかれなかったらいいやとか(笑)。そんなスタンスですね。

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