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<祝!デビュー30周年&映画大ヒット>柏原譲 フィッシュマンズ時代のアーカイヴ・インタビューを特別公開

  • Photo:(C)2021 THE FISHMANS MOVIE

柏原譲『宇宙 日本 世田谷リリース時インタビュー(1997年9月号)

フィッシュマンズ最後のオリジナル・アルバムとなった『宇宙 日本 世田谷』。1997年9月号のインタビューでは、本作に至る流れやトレードマークとも言えるフォデラのベースについて、また、佐藤伸治(vo,g)があまりに完成度の高いデモ・テープを作り込んできたことで知られる本作に対し、“弾かないことを含めて柏原がどのようにベースと向き合ったのかが語られた。

聴かせたい音以外は削ればいい

昨年の『空中キャンプ』で浮遊感あふれる独特のサウンドを完成させたかのように見えたフィッシュマンズ。しかし続いてリリースされた「SEASON」と40分近いそのロング・バージョン「LONG SEASON」では時間の流れる感覚までもエフェクトに加えてしまっていた。このアイディアをさらに突き詰めたという最新作について柏原に聞いてみよう!!

宇宙 日本 世田谷
(1997年発表)

日常の時間を表現してみました

━━前作の『空中キャンプ』で気づいた点は?

 曲がもっと長いほうがいいと……音楽として時間をゆったりさせたらいいんじゃないかと思って。それでシングル「SEASON」のロング・バージョン「LONG SEASON」を作ったんです。今回はそれをさらに突き詰めた感じですね。

━━「LONG SEASON」には驚きましたよ。確か、1曲で40分弱もありましたよね。

 いい音楽がいつまでも終わらない感じを出したかったんです。たまたま素材として「SEASON」があったんで、スタジオに入って2日で考えて、ほとんど生の1発録りでやってます。だから録り自体はすぐにできたんですが、TDとかに時間がかかりましたね(笑)。でも、発想自体は前からあったものだから、そんなに苦労はなかったですよ。うまくいったんじゃないでしょうか?

━━その“いつまでも終わらない感じ”とは?

 『空中キャンプ』は、イべントみたいな時間を1曲1曲で表現していたんだけど、「LONG SEASON」はそれとは別の、日常的な何でもない時間を表現したんです。今回もシングル曲以外は、日常の何も時間を意識していないときの感じにできたと思います。

━━フィッシュマンズ・サウンドの特徴と言える、空気感や浮遊感が増した印象も受けますけど、あらかじめ方法などは考えていたのですか?

 特別なことはしてないけど、ベースに限らずなるべく音を少なくしていこうと。音楽を聴くとき、いろんな音のなかでも聴いているものはひとつじゃないですか。耳に残る音以外は空気のようにしたかったんです。前からバンドとしてはやろうとしていたんですけど、なかなかうまくいかなくて。そのうち、聴かせたいもの以外を削っちゃえばいいことに気づいたわけです(笑)。

━━ベースに関しては、まさしく空気的な部分と印象的なフレーズとのふたつがありますね。

 とにかく耳に残るものは弾かなきゃいけないんですが、空気のようにするときは反復してほかの音との対比で、ベースは聴こえてはいるけど気にはならなくさせる。その役目だけをしているからかな。強い音でマスキングしていくという考えもあるんでしょうけど、僕たちの場合、一番静かなところだと楽器がふたつくらいしかなかったりするから……難しいですね(笑)。

━━それには機材的なこだわりも必要なんじゃないですか? フォデラ5弦を使ってますが、それは?

 まず、芯のある音を出したいから。単音で1発だけ弾くようなときには、フレーズじゃなくて音質で弾くというのもあるでしょ? 例えばパーカッション的に使うのもアリだと思うんですよ。

━━そういうときにフォデラってどうですか?

 僕は好きですね。鳴らしたときに音として聴こえなくても、体感で聴こえる部分があるじゃないですか。バンドのなかで鳴らすときも、音としては別に聴こえなくていいと思うんですよ。ただ振動がハッキリ聴こえればね。そのへんがフォデラはしっかり出るなあ、と思う。

━━でもアクティヴのモデルですよね。アクティヴのほうがダイナミック・レンジが狭くなる傾向はありませんか?

 こじんまりした感じにね。だから、僕はパッシヴで使ってる。プリアンプにもよるでしょうけど。ほかの機材は、アンプにウォルター・ウッズのヘッドを使ってるくらい。立ち上がりがいいんで、芯のある音を出すのにはいいんじゃないかな。

━━逆に言うと、そういう機材があって今回望んだ効果が得られたとも言えますか?

 ええ。TDでもイコライザーなどはほとんどかけてないんです。ラインのままだから、ベースの音だけを聴くとかなりゴリゴリしていると思いますよ。ヘッドからつないだものやDIでそのまま録ったのがあるんですけどね。人間が弾いてる感じを強く出したいときはヘッドを、サブ・ドラムみたいな感じで使うときにはDI直のほうが良かったかな。

━━空気感を出すときに、スピーカーを鳴らしてマイク録りすることも多いようですが、それは?

 今のエンジニアさんとやるようになってから、その場ではそう聴こえなくても、好きな音に録れてることがわかるから、必要ないかな。たまたまベースの音の好みが一緒だからでしょうけど。自分が弾くときに聴こえる音が違っても、録れてる音が良ければね。

━━このエンジニアの方がザックさんというプロデュースも一緒にやった人ですね? 彼の意見は?

 最終的に、彼は何もしないで出すと言ってた。録ったままで出すとね。だからミュージシャンとしては、責任を感じてしまうんですけど(笑)。

打ち込みはやってみたほうがいい

━━ところで、ループ風のベース・フレーズを録るのには苦労しませんでしたか?

 でも、サンプリングじゃなくて実際にループ風に弾いてるんです。それが空気みたいなベースで、弾いていると気持ちいいですよ。まあ、「WEATHER REPORT」のはシンベなんですけど(笑)。今の音楽のなかでは、ベースは全体のなかでどういう役割をするかが重要になってると思うから、フィッシュマンズのなかで、今までになかったようなベースの役割が聴かせられればおもしろいんじゃないかな。

━━それに関して今回はうまくいきましたか?

 60〜65点くらいじゃないでしょうか。ベースをもっと弾くことはできるんですけど、ベース・マガジンの読者の方には、何でそこで弾かなかったのか、を聴いてもらえたら嬉しいです。

━━そのほかに気づいたことは?

 意図していたことはスタッフはわかってくれたんですけど、もっと聴き手にわかるように出せたらいいなと思いました。それは技術的な面の話で、僕がもっとうまく弾けたらわかってもらえたかな?って(笑)。例えば、同じドラムのビートで同じフレーズを弾くとして、ベーシストの弾き方で曲のキレとかスピード感とかグルーヴが変わってくるでしょ。それを極端に表現するというか、同じループだったとしても、もっと表現できるんじゃないかと思うんですよ。

━━きっとそれは以前から考えていたことだと思うんですが、アルバムごとの達成具合のほうは?

 地道ですけどちょっとずつは(笑)。楽器は、自分で考えられるところまでしか表現できないから、そこまで弾けないと他人とやったために変化するということもないと思う。その、自分の責任のところまではうまくやりたいですね。

━━では、順に各曲のプレイについてひと言ずつ。

 「POKKA POKKA」からいきなり弾いてないんですよ(笑)。単純にベースが必要ないと思ったからリズムはドラムだけ。「WEATHER REPORT」はさっき話したように打ち込みで、ループを組み合わせた厚みでできている曲。それで構成しているあたりは、ベースを弾くときにも役立つと思うよ。「うしろ姿」は曲全体で3つのベース・パターンを弾いてるんですけど、その間ほとんど変わらないんです。時間をゆっくり聴かせる感じですね。「IN THE FLIGHT」はベースを入れるのが間違いの曲(笑)。だから、何もしてないです。デモをマルチに録ってTDで直してます。「MAGIC LOVE」は僕の好きなパターンで、同じベース・パターンを弾くものです。

━━これを弾いていたときの気分は?

 わりと思っていたように弾けましたよ。「バックビートにのっかって」は ドラマーと合わせて録ってますが、今回ドラムはほとんどMIDIドラムで、サンプラーの音源を鳴らしてるんです。ライヴでも使ってるんですが、ちょっと生ドラムとは違う楽器なんで、それに合わせてますね。

━━きっとアタックというか、音のレスポンスが違うんですよね? 難しくないですか?

 逆に楽ですよ。まあ、結果が良かったんでいいんだと思います。そして、最後の2曲が生ドラムと一発録りした曲です。一発録りのときは、まわりからの誘いにいかに乗っていくかがポイントになりますけど、これは良かったですね!

━━ということで、最後にキメのひと言を。

 打ち込みをやってみるのは、ベースを弾くうえですごく役立つと思うから、一度やってみてもいいのでは? あとは、音楽以外のことがヒントになることは多いだろうし、趣味を一生懸命やるのもいいんじゃないかな。

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