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INTERVIEW − 関谷友貴[TRI4TH]

  • Interview:Shutaro Tsujimoto
  • Photo(Live):Victor Nomoto

今回はウッド・ベースのセッティングを変えてみたんです。

━━「光 feat.TOSHI-LOW」は今作の顔でもありますが、どのタイミングでできたんですか?

 実はこれが一番最後で、本当にギリギリで完成したという感じでした。TRI4THのジャズの要素とBRAHMANのパンクの要素が共存できるような曲にしようというところで、爆裂にうるさくて、めちゃくちゃカッコいい曲をドラムの(伊藤)隆郎が作ってくれました。

「HIKARI feat.TOSHI-LOW」Music Video

━━パンキッシュな2ビートのリズムがジャズの音像のなかで鳴っているのがすごく新鮮でした。

 TRI4THは僕以外みんなクラシック出身なのですが、おもしろいのはドラムの隆郎はクラシックの音大と並行してパンク・バンドをやっていた経歴があって。だから2ビートみたいリズムも彼のルーツなんです。

━━ベース・ラインはメロコアなどに寄せようとしたのか、あくまでジャズを大事にしたのか、どう考えましたか?

 ウッド・ベースでメロコアを弾くからには自分にしかできないことをやりたいと思いました。もちろんサビはパンキッシュな演奏ですけど、それ以外のところでは高速ランニング・ベースだったりを入れています。TRI4THらしいジャズのエッセンスとパンク・ロックな精神とをうまく組み合わせられたかなと。ちなみに、エレベだったらもっとラクに弾けますけど、ウッドでこれを弾くのはなかなか地獄ですよ(笑)。

━━しかもウッド・ベースの音色も歪んでいますよね。

 爆裂に歪んでます(笑)。去年末に買ったMaestroのBass Brassmasterというヴィンテージのファズを使っています。ちょうど買った次の日からレコーディングで、これは使わないとダメだなと。めちゃくちゃ暴れ馬なんですけど、マイクと上手に混ぜていただいて。ヘッドフォンで聴くと歪み成分がすごく出てくるんですけど、でっかいスピーカーで聴くとウッドのボトムがすごくバンドを包んでくれていて、ミックスを聴いたとき“こんなの聴いたことない”ってテンション上がりました。30万円もしたんですけど、買ってよかったなって(笑)。

━━ほかの曲でもBrassmasterを使っていますか?

 「DISCO GARAGE」と「Just Roll」もですね。

━━ウッド・ベースに歪みをかけると、プレイの内容も変わるものでしょうか?

 サステインが伸びるので、変わります。やっぱりウッドってエレベに比べて減衰が速いのでサステインが伸びてくれるとド派手なグリスがやりやすくなります。でもそれ以上に、かなり演奏に集中しないとピッチがズレて聴こえるんですけどね。上のレンジが聴こえてきちゃうので、いつも以上にシビアにピッチを取るようにしています。

━━「DISCO GARAGE」と「Just Roll」はアップ・テンポな楽曲で、ともに1コードという共通点もありますが、この2曲、ベース・アプローチは全然異なっていますね。

 「DISCO GARAGE」は自由にウォーキングで動いていて、「Just Roll」はずっとリフを継続させていますもんね。こういう曲ってホーンがメロディを取るので、ホーンに対する対旋律としてベースがあるイメージでアンサンブルを作っていると思います。ホーンを聴いてベース・アレンジを考えることは多いですね。

━━では普段からベース・ラインを作るのは最後の工程ということが多いですか?

 最後が多いですね。ドラムとホーンとかヴォーカルをつなぎ合わせる仕事だと思っているので、ベースがどこで何を弾くかっていうのはすごく大切にしています。

━━アルバムの最初(「A Touch of Yellow Bird」)と最後(「A Tail of Yellow Bird)」)の2曲ではストリングスのカルテットが入っていますが、ベースはストリングスが入る前に固まっていたのでしょうか。

 そうですね。両方ともすごくピアノがキレイでしっかりとしたフレーズがあったので、ベースはボトムでシンプルに支えることを大切にしつつ、ストリングスのためのスペースを空けて筆を置いたという感じです。

━━この2曲はピアノのテーマなどは共通で、キーが全音違っているんですよね。

 よく気づいてくれました。アルバムをリピート再生すると1曲目につながっていくっていう。TRI4THはこういうからくりが好きでよくやっています。

━━「A Tail of Yellow Bird」のベースの音もおもしろかったです。

 フィルター系のエフェクトを使ったような気がします。ちょっとアプローチを変えてみようと。よく聴くと“ウヨウヨ〜”みたいなエフェクトがかかっていると思います。

━━今作には「ルパン三世のテーマ ‘78」のカバーも収録されています。誰もが知ってる曲であるがゆえの難しさもあったのではないかと。

 そうですね、ソイル(SOIL & “PIMP” SESSIONS)とかほかのジャズ・バンドもやっているので。これを自分たち流にどう料理していくかっていうのは、かなりプレッシャーを感じながらでした。

━━Bメロのウォーキング・ベースは、今作のベース的ハイライトのひとつだと思いました。

 確かにこれは強烈ですね(笑)。バンドにエンジンをかけるような超前ノリでの高速スウィング。そうだ、実はこれにはアレンジのリファレンスがあります。TRI4THのオリジナルで、超初期にやっていた「BMWの女」という曲があって、これが高速スウィングなんです。聴き比べるとおもしろいと思います。

━━今作を通して、ベーシストとして得た気づきなどはありますか?

 今回はウッド・ベースのセッティングを変えてみたんです。前回まではレコーディング時だけ弦高をものすごく上げて、思いきりパワープレイをしていたんです。そのほうが生音も大きくなるし、いい録り音になると思っていて。でも今回は、“いや待てよ。結局マイクで収録しているから、弦高はそこまで上げずとも、生音が大きくなくても、いい音で録れるんじゃないか?”と思い直し、とにかくリラックスして脱力して演奏してみたんですよ。そしたら逆にローがいつもより集音できまして。そこはひと皮向けたというか、新しい発見でした。やっぱりリキみすぎると気持ちいいグルーヴって出てこなくて、特に今回やったような僕の好きなブラック・ミュージックの感じって、やっぱりリラックスが基本なので。縦ノリのロックとかだとまた違うと思うんですけどね。それで、そんな意識で弾いていたらアルバム・タイトルが最終的に『CALM&CLASH』に着地するっていう(笑)。自分のベース・プレイもアルバム・タイトルに反映されたというか集約されたというか。よかったなと思います。

◎Profile
せきや・ともたか●1981年9月5日生まれ、大阪府出身。14歳のときにブラスバンドで演奏していたバリトン・サックスからエレクトリック・ベースへ転向する。高校卒業と同時に渡米しLAMA(現Los Angeles Collage of Music)に入学。 ジミー・ハスリップやフィル・チェンらに師事する。20歳のときにLAで初のリーダー・アルバム『footprints』を録音。その後バークリー音楽大学でジャズ作編曲を学びながら、在学中に数多くのライヴやレコーディングに参加する。2009年、TRI4THに加入してウッド・ベースを手にし、ニューヨークのオフ・ブロードウェイにて、三谷幸喜作・演出のミュージカル“TALK LIKE SINGING”に参加する。2012年には、井上鑑、山木秀夫らが参加した2枚目のリーダー・アルバム『Live at Last Waltz』をリリース。TRI4THのほか、津軽三味線や奄美島唄とジャズを融合させたバンド“黒船”のリーダーとしても活動する。TRI4TH は2023年3月から6月にかけて全国7ヵ所で“CALM & CLASH” Tourを開催。

◎Information
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