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ARCHIVE INTERVIEW − ロス・マクドナルド[The 1975]

  • Interview:Shutaro Tsujimoto
  • Translation:Tommy Morley
  • Live Photo:Sotaro Goto

世界最大のインディ・バンドで鳴る低音の正体

昨年8月のSUMMER SONIC 2022で初のヘッドライナーを務め、10月には5枚目となるアルバム『外国語での言葉遊び(原題:Being Funny In A Foreign Language)』をリリースしたThe 1975。そんな彼らがジャパン・ツアー『THE 1975 AT THEIR VERY BEST JAPAN 2023』で再来日を果たし、4月24日の東京ガーデンシアター公演を皮切りに、横浜、名古屋、大阪と廻るバンド過去最大規模のツアーを開催中だ。ここでは、SUMMER SONIC 2022での来日時に実施し本誌2022年11月号に掲載したベーシストのロス・マクドナルドへのインタビューをWeb版として再掲載。The 1975のダンサブルなグルーヴの核を担う彼に、ベーシストとしてのルーツから最新アルバムの制作背景、リズム哲学について語ってもらった。

*以下の記事はベース・マガジン2022年11月号から転載したものです。

1stアルバムで学んだのは“曲のなかでプレイする”こと。

━━普段こういったベース専門誌などで教則的な記事をチェックすることはありますか?

 そうだね。実は去年クリス・チェイニー(編注:ジェーンズ・アディクションの元ベーシストで、アラニス・モリセットのサポートなどでも知られる)のレッスンを受けたことがあってね。ロサンゼルスで2021年末に何回かレッスンを受けたけど、彼は先生としても素晴らしい人物で、すごく楽しい経験になったよ。

━━The 1975にとって2年ぶり、そしてコロナ禍以降で初となるライヴがサマーソニックのステージになりますね。

 そのとおりだね。2022年の年初に僕らはアルバム制作に取りかかったんだけど、同時にそれまでに作曲してきたものをうまくプレイできるように体に叩き込んでいた。今回の来日のためにリハーサルをしっかりと重ねてきたんだ。今回のサマソニで良いショウをやれたら、僕らがしっかりとカムバックしてきたってことを示せると思うんだ。

━━本誌初登場ということで、まずはベースを始めたきっかけを聞かせてもらえますか? 

 The 1975に加わるまでに何年間かプレイしていて、初めてベースを手にしたのは12歳の頃だったと思う。僕の兄のバンド・メイトが、使っていないベースを借してくれたんだ。彼らは僕の家でリハーサルをしていたから、そのときに興味を持って時折り弾かせてもらっていたんだ。

━━これまでに、どのようなベーシストから影響を受けてきましたか?

 ピノ・パラディーノは僕のフェイバリットなプレイヤーのひとりで、僕のスタイルの大部分に大きな影響を与えてくれたよ。スティーヴィー・ワンダーのバンドでベースを弾いてきたネイト・ワッツも大好き。ソウルやR&Bから多大な影響を受けてきた僕にとって、彼らは2大ヒーローだね。

『外国語での言葉遊び』
ユニバーサル
POCS-24017

━━The 1975は、エモ/パンク・バンドの側面を持ちながらも1stアルバムを出す頃には、ダンサブルなポップ・サウンドを持ち味にするようになっていました。ベースもグルーヴィな演奏が求められたと思いますが、どんなことを意識していましたか?

 1stアルバムで苦労しながら学んだのは“曲のなかでプレイする”ことだった。自分自身の欲を満たすために複雑でテクニカルなベースをプレイすることは、僕の仕事ではないと学んだよ。楽器ではなく楽曲を盛り立てる、すなわちそれはベースをではなくバンドでプレイするということであり、これはレコーディングを通して初めて得た教訓だったんだ。ときには音のギャップを埋めるためにドラムから離れてプレイすることで、音楽として意味のあるものを目指すようになったりね。それ以前は、僕らはただ単に過剰なプレイをする4人だったし、それは全然得意なものですらなかったんだ(笑)。シンコペーションの理由や、ドラムと組み合わさることで映えるプレイがあることを理解するのが1stアルバムでの焦点だった気がするね。そしていつしかそれは、その後のアルバムを作っていく過程でも大切な核となっていったんだ。

━━なるほど。普段、ベース・ラインはどのようなプロセスで考えますか?

 曲によりけりで、決まったひとつのやり方が常にあるわけじゃないんだ。ドラムのループとベース・ラインがかなり早い段階で生まれることもあるし、ギターのコードが曲にバッチリとハマるように生まれてくることもある。アイディアがどこからやってくるかで作り方は変わってくるし、そこに向けて擦り合わせていくような作業もあるよ。

左からロス・マクドナルド、マシュー・ヒーリー(vo,g)、アダム・ハン(g)、ジョージ・ダニエル(d)。
Photo by Samuel Bradley

━━今作では「Happiness」はじめ、ベース・リフの繰り返しが印象的です。この曲はリフの1拍目を弾いたり弾かなかったり、少しずつのパターンの変化が鍵なのかなと。

 この曲は全体を通じてさまざまな局面を旅している。そうは言いつつもダイナミクスには明快なシフトはなくて、ずっと一定のレベルを保っているようなところもある。曲中のダイナミクスの変化はかすかな変化によってもたらされていて、ベースのなかで少しずつ展開しているんだ。高音域で静かにプレイしていたかと思うと、サビになってルート音へといきなり急降下していて、曲をとおして聴いてみるとちょっとしたリックをあちこちに挟んでいる。そしてエンディングに向けてずっと低いところでプレイし続けていて、ダイナミクスや曲を通しての旅がエンディングで終わりを迎える感じなんだ。

「Happiness」(Official Video)

━━リフを繰り返すThe 1975のアプローチは、バンドでありながらも、ヒップホップやダンス・ミュージックなどのループ・ミュージックへのリスペクトも感じます。

 それはあるね。「Happiness」と「I’m In Love With You」はダンス・ミュージックっぽいところからきていて、ループを意識している。「Happiness」は構造らしきものがしっかりと存在していなくて、ヴァース、ちょっとしたサビ、ヴァース、そしてサビなのかな(?)、みたいなものがあってアコースティック・ギターとサックスのソロが入る。リニアに展開していくちょっと変わった曲で、少しずつ変化しながら繰り返されるフレーズが曲の構成単位となっているんだ。どっちかというとギター・リフ的なところがあるかもね。曲中にコード進行って感じのものがなく、かなりダンス・オリエンテッドな曲だから、ベースはラインをプレイしているというよりもギター・リフを弾いているように感じるんだ。

━━「I’m in Love With You」もループ的なベース・ラインですが、3rdアルバム収録の「It’s Not Living (If It’s Not With You)”」によく似たリズム・アプローチになっています。意識的に、このパターンを繰り返し使っているのでしょうか?

 それはあるだろうね。アルバムのなかで“ここだ!”と思うような瞬間があるもので、「I’m In Love With You」と「It’s Not Living」は典型的なThe 1975 のポップ・ソングだ。これらの曲で行なってきたテクニックは似ているところがあるけれど、フィーリング的には異なるところもあるよね。よりダンス・ミュージック的な面が「I’m In Love With You」にはあって、サビのサンプリングのところもちょっと異なった印象になっていて、全体的なヴァイブは異なっているんだよね。

「I’m In Love With You」(Official Video)

━━「Oh Caroline」は、シンセ・ベースとエレキ・ベースのちょうど真ん中のような音作りが絶妙だと感じました。

 僕らはこういうのをけっこう頻繁にやっていて、「Somebody Else」や「If You’re Too Shy (Let Me Know)」も生ベースとサブ・ベースやシンセを混ぜている。これによってロー・エンドをタイトにしていて、スペクトラムをフルに使っているんだ。「Oh Caroline」も「If You’re Too Shy」同様に80年代のシンセっぽいサウンドやフィーリングがあって、僕らにとってのフリートウッド・マックっぽい曲なんだ。この曲のベースのトーンはアルバムのなかでもかなり気に入っているものだね。

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