PLAYER

UP

INTERVIEW – KenKen[ComplianS]

  • Interview:Shutaro Tsujimoto

ゲラゲラ笑いながら、
みんなの心をほぐしたい。

──今作の録音では、どのベースを使ったんですか?

 もちろんいつものアトリエだけど、今回はほぼ5弦を使ったかな。最近もう5弦が楽チンでこっちばっかり弾いてる。アンプは1台も使っていなくて、今回は全部ラインだね。

──「Funky Messiah」のミュージック・ビデオでは派手なルックスのベースが登場していますが、あれはレコーディングでは使用していないんですか?

 あの超変形ベースね(笑)。あれはすごく昔、コンバットに作ってもらったやつで、自分のためにデザインしてもらったもの。最近カッコいい倉庫を手に入れまして、そこに8歳からのベース人生で集めたベースを40本近くワーッて並べて壁に飾ったとき、“こんなたくさん出会ってきたんだ”って気持ちになって、あのベースをビデオで使ってみたんだよね。メインとして使うのってぶっちゃけ3本ぐらいだからさ。これは当時カール・トンプソンが欲しかったけど高くて買えないから、“ああいう形のベースが1本欲しい”って言って、コンバットの本田さんっていう人に作ってもらったもので、レコーディングでは一時期よく使ってたな。ほかの曲だと、「コテンパンのバラード」でエピフォンの1969年製のNewport Bassを使ったのと、「Here We Are」では歌のラインをウッド(ベース)で弾いているね。

Funky Messiah(Official Music Video)

──「Here We Are」はトラップっぽいアプローチが入っていて、おもしろい曲ですよね。

 タイジが作ってきたときはフォーク・ロックだったけど、“ここKenKenラップして”って言われて、これトラップいけんなと思って(笑)。この曲ですごくおもしろいのが、1番のタイジのフォーク・ロックっぽい部分から入るサビの印象と、トラップから入るサビの印象が全然違って聴こえるところだよね。こういうのは、お互いのキャラの良さが出てる証拠だと思う。それからこの曲もそうだけど、デモでタイジが入れたシンセ・ベースのいいところは残しているのが多いね。グリスのニュアンスとか、エレキ・ベースがシンベに敵わない瞬間って山ほどあるからね。

──「Funky Compliance」では、ベースの音がほかの曲に比べ少し歪んでいるように感じました。

 コンピーな音だよね。でもこれはセッティングも多分何も変えてないから、ミックスのときにあとからコンプでつぶしてるんじゃないかな。あと俺は足下ではコンプを使わないんだけど、そもそも弾くときに右手の具合でコンプをかけてるんだよね。右手の強さで音をつぶしてコンプっぽくして前に出すっていうやり方がありまして。

──なるほど。

 逆に足下でコンプをかけるとこれが使えなくなっちゃうんだよね。強く弾いたときに“カチ”ってギリギリ鳴らないところで止めるっていうね。まぁ、これはアトリエZだからこそできる芸当でもあるんだけど。普通のベースだったら“カチ”って鳴ってクリップしちゃうところをギリギリつぶせるのがアトリエのロー・ミッドのすごさだから。「Funky Compliance」では17歳から使ってる4弦を使ったんだけど、強弱含め、あんなにコントロールしやすいベースはないよ。ベースの音がいいと思ったら俺じゃなくてベースがすごいってことだよ(笑)。

──「コテンパンのバラード」では、左手が弦上を擦る音が生々しく聴こえるようなミックスがされていますが、この音、いい味を出していますよね。

 そうなんだよね。消したら消したで、なんかつまらない。あれって別に鳴らそうと思ってないし、本来エピフォンはあんな音が鳴るベースじゃないはずなんだけどね(笑)。あの音がなんで乗ってるのか俺もよくわからないけど、スクラッチがいるみたいにも聴こえておもしろい。

──すごくフックになっていると思います。ところで今回のレコーディングではKenKenさんはドラムも叩いていますよね。

 ドラムは屋敷豪太さんのご自宅のスタジオで録ったんです。俺のパンチインを豪太さんがしてくれるっていうよくわかんない状況で、緊張しすぎて2テイク以上頼めないっていう(笑)。このアルバムのドラムは全曲自分だね。俺はベーシストだけど、やっぱりドラムもめっちゃやるっていうことを大事にしてきた人生でもあるから。ドラムをあれだけ練習しなかったら多分こんなにベースのことわからなかったって思うくらい、ドラムも俺にとってはやっぱり大切。

──ドラムを自分で叩くときと、他人が叩くときでベース・プレイも確実に変わりそうですよね。

 そうだね。ベースとドラムについては話せば2時間くらいかかるけど(笑)。まぁ、わかりやすく言うと、ひとりで両方できるってことはお互いの未来を決められるっていうことで、それってすごいことだよね。“ここでこうしておいてね”って言うのがひとりでできるわけじゃん? これは超速いよ。バンドだったら2ヵ月かかるものが5分で録れる。でも逆に、バンドだったら5分で録れるものが2ヵ月かかったりもするし、バンドみたいなミラクルは起きないから、それが人と演奏するおもしろさなんだけど。だからこそ、今回はタイジと作ったわけで、ベースもドラムもテイクは大体2、3回だし、ちょっとした音の間違いとかも直さずにそのままにしてるよ。間違えたところには、多分理由があるんだなと思ってます。昔の名盤でもそうじゃない? そういうところがなぜかいい意味で耳に残るし、もはや“間違い”ですらなくなっていくっていうのがおもしろい。

──今作を振り返って、そういう“勢い”みたいなものをキャプチャーできた曲を挙げるとすると、どれになりますか?

 「Party People」はものすごくノッてる感じがする(笑)。あれも多分1、2テイクしか録ってないよね。プレイはタイジが作ってきたデモに入っていたシンベのプレイに寄せてるんだけど、無理やり俺のグルーヴを入れても合わないときはそうすることもよくやっていて、この曲ではそれがいい味になってると思う。この曲は前半と後半の4つ打ちになったあとで全然グルーヴが違うんだけど、後半でタイジが弾いていたシンベのバイブスに前半の俺のベース・プレイが寄っていて、それがめっちゃおもしろい。前半と後半で、本当はひとりなんだけど性格の違うベーシストがふたりいる感じというかね。

──最後に、ComplianSとしては今後どんな表現をしていきたいか、抱負を聞かせてください。

 やっぱり、 世間に対して“ガス抜いたほうがよくない?”とか、“ちょっとピーキーすぎるよ”っていう感覚は持っているから、“あいつらのライヴに行ったらいい感じにアホになって帰ってこれた”みたいになれたら最高かな。ゲラゲラ笑いながら、みんなの心をほぐしたい。というか、俺が今回音楽にすごく救われたし、救い方を学んだわけだからね。やっぱり音楽でいろんな人の力になりたいと思うし、自分が感じたもの/思っているものをただ渡せればいいなと。今まではヘンに“お客さんのために”と思っていたこともあったけど、3年前くらいから“まずは俺がどうしたいかをもっと考えてやらなきゃ”と思うようになったしね。この作品はそういう意味でも自分を取り戻せたアルバムだし、今俺は自分を取り戻してる途中で、すごく元気にやっているからまたライヴを観に来てくださいって感じかな。

◎Profile
けんけん●1985年12月30日、東京都下北沢生まれ。小学3年生でベースを手にし、15歳で本格的に活動を開始。高田エージ、スティーヴ エトウ、うつみようこ、田村直美や、さまざまなバンド、カルチャーの場面でその個性的かつ圧倒的な存在感で話題になる。18歳でRIZEに加入、21歳で歌唱も含めた多彩な楽器をこなした作品を発表し、最年少でベース・マガジン本誌の表紙を飾る。その後も、Dragon Ash、KenKen of INVADERS、WAGDUG FUTURISTIC UNITY 、SPEEDER-X、THE STALIN Z、LIFE IS GROOVE、the day、BET DA FARMなど、多数のプロジェクトで活躍。アンダーグラウンドの隅からメジャー最前線、テレビCMまで、本人すら数え切れないセッションをこなし、ベース界に革命を起こしたベース・ヒーロー。佐藤タイジ(vo,g)とのComplianSは、2020年に結成。2022年9月に1stフル・アルバム『GLOBAL COMPLIANCE』をリリースした。

◎Information
ComplianS オフィシャルECサイト Twitter Instagram
KenKen Twitter Instagram