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    INTERVIEW – 井上幹[WONK]

    • Interview:Shutaro Tsujimoto
    • Photo:Takahiro Kihara

    “ベーシストとして何ができるか”に
    本腰を入れてやってみよう。

    ━━「Butterflies」はシンセ・ベースでのプレイですが、打ち込みではなく手弾きしているニュアンスが伝わってくるのがすごくいいなと思いました。

     これは江崎と長塚がふたりでデモを作っていた曲なんですけど、WONKでこういう曲をやるときってほぼDTMで作ってベースも打ち込みっていうのが多かったんです。でも、この曲では一切打ち込みを使っていなくて、曲中で鳴ってるシンセ・ベースもNOVATIONのBass Stationっていうアナログ・シンセで全部自分が弾いて入れています。

    ━━今作はApple MusicやAmazon Music Unlimitedでは立体音響技術“ドルビーアトモス”仕様での配信もされているということですが、特に「Butterflies」はウルトラ・ローも効いていて、低音の音響的なおもしろさを堪能できる曲になっていますね。

     そうですね。Apple Musicが空間オーディオの取り扱いを始めたり、Amazon Musicが追随したりというなかで、僕らもそこに挑戦したいよねっていう話を江崎としていて。僕が別の仕事でゲームのサウンド・デザインをしていたりするんですけど、ドルビーアトモスみたいな世界とゲームの分野ってかなり親和性があるので、そういう知識も使いながらトライしてみたという感じです。

    ━━途中、シンセ・ベースの定位が“グルグルグル”ってなるパンニングの処理も、ドルビーアトモスで聴くと没入感がすごかったです。

     あれは、確か荒田が“せっかくドルビーやるんでアトラクション的なことをやりません?”と提案してくれて、ベースのパンをめちゃくちゃ振るという試みをやってみました。アルバム全体を通してドルビーアトモスではあるけど、どちらかというと“自然に包み込まれるようなイメージ”でミックスをしてたので、この部分は今作で唯一、ドルビーアトモスの映画的表現というか、アトラクション的なおもしろさを楽しめるところかなと思います。

    ━━ラストに収録されている「Umbrella」は、WONKとしては初の日本語詞の楽曲ということですが、日本語になることで楽曲のグルーヴへの変化などはありましたか?

     “日本語にしよう”っていう話は合宿の初日からあったんです。今回『artless』が歌詞の内容や世界観をすごく大事にしている作品だったので、そういう歌詞にこだわるなら日本語もあっていいんじゃないかっていう話になって。個人的に、言語が変わることで音楽的に一番変わるなと思うのは、やっぱり音節とか音の区切りとかノリが全然違うっていうところですかね。英語は発音のキレがいいので16分系のノリの曲ではやっぱり英語に敵わないというか、英語はリズムのある言語だから日本語で完全にそれを超すことはできないという思いがあるんです。でも、逆に「Umbrella」みたいなゆったりとした曲だったら日本語でも全然カッコよくできるんじゃないかと。

    ━━ベースは曲が後半に進むにつれて動きが出てくるようなアプローチになっていますね。

     この曲もウッド・ベースですけど、曲中ヴォーカルがしっかりいるところは包み込むイメージで、余計なことをしないっていうのを一番注意して弾いています。後半になって曲が盛り上がるにつれて、自分も盛り上げていこうかなっていう意識で、アウトロではかなり自由に弾いていますね(笑)。

    ━━最後に、『artless』を作り終えた今、ベーシストとしての展望などがあれば教えてもらえますか?

     ひとりのベーシストとして、しっかり存在感を持ってステージに立ちたいというのが今の目標です。今まではベースを弾くことよりもミックスや作編曲とかプロダクション面で自分の能力が発揮されると思って活動してたんですけど、『artless』を通してベーシストとしての自分をもうちょっと盛り上げていきたいと思ったので、今作のツアーとかではプレイヤーとしてバチバチにやっていこうかなっていう意気込みがありますね。

    ━━ベース・マガジン的には、すごく嬉しい言葉です(笑)。

     それこそ、前作のインタビューでは“自分はベーシストというよりはプロデューサーなんです”という話ばっかりしていたから、ここからは“ベーシストとして何ができるか”に本腰を入れてやってみようかなという気持ちですね。

    ━━そういう考えに至ったポイントとしては、やっぱり今作で“artless=ありのまま”な演奏の魅力に向き合ったことが大きいのでしょうか?

     そうですね。それもありますし、今まではライヴでもけっこうスタジオ・ミュージシャンの方にソロとかを弾いてもらったりしてましたけど、やっぱりWONKは4人のバンドなので4人だけでもちゃんと表現できるようにしたい。そうなると自分もしっかり前に出て行かないと観ていておもしろくないと思いますし、そのためにもベーシストとしての存在感があるパフォーマンスがしたいです。今回のツアーではそこを頑張っていこうかなと思っています。

    ◎Profile
    いのうえ・かん●1990年9月15日生まれ。12歳からギターを手にし、高校時代にベースを弾き始める。ジャズを演奏する両親の影響でジャズに目覚め、大学時代にさまざまなセッションを渡り歩く。その先で荒田洸(d)に出会い、WONKを結成した。バンドではベースのほか、作曲・編曲、ミキシング・エンジニアなども担当する。ベーシストとして唾奇、ISSUGI、堀込泰行、kiki vivi lilyなどのレコーディングに参加。エンジニアとしては所属レーベルEPISTROPHの各作品のほか、Sweet WilliamやちゃんMARI(ゲスの極み乙女)などのレコーディング・ミキシングを担当。現在、IT企業の会社員としてもサウンド・チームに所属し、ゲームのSE/BGM制作、ミドルウェアを用いた組み込みやサウンド・デザインを行なっている。WONKとしては、6月から全国8ヵ所をまわる『”ARTLESS” TOUR 2022』を予定している。

    ◎Information
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    井上幹 Twitter Instagram