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    INTERVIEW – KAN INOUE[WONK]

    • Interview:Zine Hagihara

    日本で受け入れられることに
    こだわる必要はないと思う。

    ━━「Orange Mug」での8ビートに対するモタったルート弾きは、サウンドも太いうえに音の減衰がない歯切れのいいプレイです。サビではスライドなどで抑揚をつけていることからエレベであることはわかりましたけど、それまではエレベで打ち込み的アプローチをしていますよね?

     そういうアプローチにはかなりこだわりがあります。この曲のように部分的にエレベっぽさを出したいからっていうこともありますけど、“生楽器による演奏をサンプリングしている”っていうヒップホップっぽいニュアンスを出すためでもあって。自分たちの基盤にもなっている“J・ディラ由来のビート・ミュージックを生バンドでやる”という考え方が表われている部分だと思いますね。手で弦の振動を止めて音の減衰をバッサリと切る弾き方もしますし、ただそれだけだとサンプリングしたベース・ラインや打ち込みとは変わらないので、盛り上がるサビではしっかりとバンド感を出すためにニュアンスを込めるイメージでアプローチしています。

    ━━人が弾いているベース・ラインをネタにしていながらも、サンプリングされたものはまた違った特有のグルーヴがあるのがおもしろいですよね。

     まさにそうで、その曖昧なニュアンスが出ているのが「Orange Mug」です。ほかにも、「Third Kind」も似た感じのプレイなんですけど、エレベを使ってフル尺で1テイクを弾き切っているのがポイント。クオンタイズの調整も切り貼りもしていなくて、グルーヴ感はまさにJ・ディラ由来のビート・ミュージックの影響が出ています。記譜では表わせないタイム感というか、サンプリング特有のものとしか言えないですよね。

    ━━「Third Kind」は一定のグルーヴがループするなかで部分的にインプロチックなフレーズが入りますが、あらかじめフレーズは考えたりするんですか?

     骨組みや“この部分では隙間を作ろう”とかは考えますけど、基本的にはあまり考えないです。あとは、ビート・ミュージックってアタマ拍を抜いたり、部分的にフェードを絞ってミュートするアプローチをシーケンス上でやるんですけど、そういうことが自分のなかに染み付いていて。そのノリで弾かなかったりするとARATAとガッチリ合うことがあって、それはたぶん共通している音楽が近いから、“アタマで抜くよね”“2拍目で入るよね”っていうことが瞬時に判断できる。だから手クセで弾いてもいい感じで合うことが多いんですよね。

    ━━「Rollin’」は4つ打ちのバスドラに対してかなりメロディアスなシンベが鳴っていて、「Third Kind」とは逆に、ベースとドラムのそれぞれが違った動きをしているのに不思議とマッチしています。

     この曲はベースありきで作ったもので、この不規則なノリがいいよねっていうところから始まっているので、そのノリをバスドラでぼやかしてしまうのはもったいないっていう考え方です。このベース・ラインはベース的な役割ではなくて、フレーズ楽器のようなイメージ。それによってアンサンブル全体の腰もかなり高くなっています。

    ━━「Sweeter, More Bitter」はミックスの面でベースの位置が低いですが、キメのフレーズ部分だけシンベのような音が鳴っていて、かなり抜けるサウンドになっていますね。

     この曲はARATAに“ベースをファンキーに”って言われた曲で、キメのフレーズを決めて、その部分にだけシンベを重ねています。それに、ARATAは“サンダーキャットのフレーズは腰の位置が低いのに、キャッチーだよね”とも言っていて、確かにって思ったので、それをイメージしているところもありましたね。

    ━━サンダーが参加しているケンドリック・ラマーの「キング・クンタ」なんかまさにそうで、1曲をとおしてミックスの最下層にいるのになぜかキャッチーですよね。

     確かに、「キング・クンタ」とかがわかりやすい例ですね。全体を通してロー感でプッシュしているのに、抜けるところだけ抜ける感じ。そこがいいんですよ。

    ━━「Mad Puppet」のイントロはどことなくディアンジェロの『VOODOO』のような雰囲気がありますが、これはオマージュしていますよね?

     はい、そうです。「CHICKENGREASE」と「PLAYAPLAYA」の感じをオマージュしていますね。

    ━━ベース・フレーズも純度高めのファンクといった感じで、ここまでストレートなファンクもWONKでは珍しいですね。

     そうですね。この曲もベース・フレーズありきで、いちディアンジェロ・ファンとして彼の好きな部分を表現してみようと作った曲です……あくまでもWONKらしさを忘れずに、ですけど。日本におけるディアンジェロのオマージュって、かなり巧妙に日本の音楽のフォーマットに落とし込んでいることが多いと思うんです。それももちろん素晴らしいんですけど、日本で受け入れられることにこだわる必要はないと僕は思いますし、そのままのニュアンスでうまく表現したほうが楽しいな、と。もちろん、WONKのメンバーが弾いているのでオリジナリティは出てしまうものですけどね。

    ━━なるほど、だからここまでストレートなフレーズになっているんですね。そのストレートさゆえにわかりやすく、キャッチーなリフだとも思いました。

     確かにそうですね。考えてみると、今作は“フレーズ”にこだわったと思いますね。昔のWONKの曲はフレーズというよりは、音の壁がクる感じというか、フレーズははっきりしなくてもいろんな音がひとつの形を成して、全体の音に圧があってカッコいい感じ。そもそもビート・ミュージック自体がそうですよね。ただ、今作に関しては歌も楽器も耳に残るフレージングにフォーカスしました。ミックスの面でも、ベースのサウンドはローが強く鳴っているというよりも、フレーズがときたま印象に残るっていうことを意識した曲もあります。

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