PLAYER
まず第一にメンバーをびっくりさせないとステージがおもしろくない。
――1曲目「quarter」から永田節が炸裂してますね。ローB弦を用いたインパクトのあるグリスのリフを中心にハイ・ポジションでのオブリなど、ベースが全体を牽引している印象を受けました。
この曲はわりとコード進行が単調なので、リスナーを飽きさせないための工夫を入れたんです。例えばコードが動いているところで、ベースはあえてずっとGマイナーを弾いていたり。ベースのフィルって基本的には小節の最後に入れがちだと思うんですけど、この曲では8小節の最初とか中盤で入れたりしています。ちゃんと低い音を使いつつ、耳に残るフレーズを意識しました。
――中盤のサックス・ソロの場面では、高速のベース・フィルが目立ちますが、ここは直前のギター・ソロからバトンタッチしたような印象を受けました。
ここは名目上、ギター・ソロからサックス・ソロに変わる場面なんですけど、素直にサックス・ソロをやるというよりかはベースも一緒にソロ・プレイするイメージで、“ギター・ソロが終わってサックス・ソロが始まるけど、ベースも同じテンションで行っちゃう”みたいな、ノリを大事にしたんです。ここはベースの音量が上がって歪みも踏んでいるので、サックスと一緒に前面に出ています。
――中盤でのオクターバーを使ったプレイもインパクトがありますね。
ここはドラム・ソロっていう考えではあったんですけど、蓋を開けたらベースのほうが目立っちゃったみたいな。ちょっと申し訳なかったなと(笑)。オクターバーに加えてワウもかかっていて、これはエンジニアさんの判断で勝手にかかってたんですけど、結果すごくいい感じになりましたね。プレイとしては正直、不思議なフレーズ感になってますけど、これはオクターバーをかけたからこそ生まれたフレーズで、ドライの音だったら出てこなかったであろう、音色に弾かされたフレーズだと思いますね。
――続く「legal」はガラッと雰囲気が変わって、ドラムとの細かいコンビネーションが印象的です。
この曲は基本的にはドラムのビートに合わせてルートをしっかり弾きつつ、ギターのフレーズにもついて行ったりしてます。2コーラス目はオクターヴ下げて弾いてみたり16分の細かい連打を入れてますね。これはインスト・バンドの宿命でもあるんですけど、歌がない分、曲中でアプローチを変えていかないと同じになってしまう。だから景色とか雰囲気を変えるために、コーラスごとにプレイの中身を変えていくことを意識しています。
――「pulp」はパンチの効いたロック・テイストの一曲ですが、アタマからの攻撃的なファズ・ベースにやられました(笑)。
録音時に試しに音をどんどん強烈な感じにしていったら、どんどんおもしろくなっていって(笑)。ギターも結構歪んでるので、ベースも当初からエフェクターでガッツリ歪ませてたんですけど、そのうえでさらにミックスで歪ませたんですよ。
――それ以外の部分でも全体的にベースがドンシャリ方向に歪んでいて、“ジャズ・バンドでありつつ、ロックもできる”というサウンド感がカッコいいです。
この曲は“ガチャガチャした音楽もやるよ”っていうマインドを表現したくて持ち込んだ曲なんです。結成当初からこういう曲をやりたいなとは思いつつもなかなかやる機会がなく……。POLYPLUSはギターもいるので、いつでもやれるはずだったんですけどね。だからひと通りいろんなジャンルをやってここにたどり着いた感じですね。
――この曲ではベースは特にルートに徹していて、支えることに注力している印象です。
サウンドが派手なのでベースは余計なことをしないほうがカッコいいかなと。あと構成的にはワンコーラスしかない曲なので、ベース・ラインに変化を持たせずにそのまま突っ走っても成立するんですよ。
――「rain」は休符を生かしたノリの良いフレーズがクセになります。随所で入るメロとユニゾンしたオブリがいいアクセントになってますね。
この曲はレゲエを基にした曲なので、それを意識しつつ、僕なりにレゲエを弾いてみたんです。メロディを模したオブリがポイントで、僕は主旋とユニゾンするフレーズが好きで、“いつやってやろうか”っていつも狙ってるんです。それがうまくハマってくれましたね。
――50秒の長尺のベース・ソロは圧巻です。ソロ後半では主旋律の下にルートのベースが入ってきて、上と下のふたつのベースが混在する形になっていますが、正直ソロが始まった段階だと予想もできなかった展開です。
ソロが盛り上がったときにベースが抜けるのは少し寂しいなと。どの程度の音量で鳴らすかはあとで考えるとして、しっかりバッキングのベースも鳴らしておきたいと思ったんです。下のバッキングは極力シンプルなものにしつつ、ソロで何をやってもいい形を作りました。ちなみにこの曲はMELTEN(k)が作った曲なんですけど、最初に譜面をもらった時点で何かしらベース・ソロをやるって構成だったんです。
――MELTENさんとはJABBERLOOPでも一緒にプレイしていますね。おふたりのコンビネーションはそれぞれのバンドで違ったりするのでしょうか?
根本的には変わらないんですけど、POLYPLUSのほうが曲の自由度が高いこともあって、より細かく気を配い合う必要があるかなと思います。というのもPOLYPLUSは常にハプニングありきで考えていて、“何か起こらないとおもしろくない”っていうマインドをメンバーで共有しつつ演奏しているんです。
――ハプニングを楽しむというマインドに驚きです(笑)。
誤解を恐れず言うのであれば、同じことをやったら負けでメンバーには見せていないカードをときどき切らないとカッコ悪い、みたいな。ほかのジャズ/セッション・バンドもいくつかやらせてもらってますけど、POLYPLUSが一番その考え方が強いと思います。だからこそJABBERLOOPでは見られないMELTENの一面を見ることもできますよ(笑)。お客さんをビックリさせるというよりも、まず第一にメンバーをびっくりさせないとステージがおもしろくないし、そのスリル感がゾクゾクするんです。
――「starry」は本作では珍しく、音数の少ない白玉のベース・ラインがメインになっていますね。
スローでゆったりした雰囲気を出したかったので、ベースでスペースを作ることを意識しました。「pulp」みたいなとにかく弾き倒している曲もあるので、曲ごとに対比を出したかったんです。
――ラストのサビではオクターヴ・フレーズでハネ感を出していて一曲のなかでメリハリがあります。
ゆったりなテンポ感のなかでゆるやかに変化を持たせていくためにはプレイの幅が必要になるなと。このオクターヴ・フレーズはタッチも柔らかめで、“エレピの下に潜り込んだオクターヴ”っていうイメージなんです。オクターヴ・フレーズってシンプルなプレイだけどいろんな捉え方があって、それぞれに適した使い道があると思っています。
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