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INTERVIEW − 村田隆行

  • Interview:Kengo Nakamura

コロナ禍で自身のルーツを昇華した初のソロ・アルバム

IKUOと結成したI.T.Rで今年6月に10周年記念の1stアルバム『「Bass Life Goes On」~今こそI.T革命~』をリリースした村田隆行。そこから間髪を入れず、自身にとって初となるソロ・アルバム『THE SMILING MUSIC』を7月にリリースした。コロナ禍において約1年をかけて制作したという本作は、村田のこれまでの活動にゆかりのあるゲスト18名を迎えつつ、自身のルーツを現代的に表現した作品になっているという。さまざな音楽に対応するバーサタイルなスタイルを持つ村田にとっても名刺代わりとなるアルバムについて、じっくりと話を聞いた。

自分の音楽のルーツを今の自分として表現する
ということだったんです。

━━『THE SMILING MUSIC』は初のソロ・アルバムです。ソロ・アルバムの構想は以前からあったんですか?

 チョパレボ(THE CHOPPERS REVOLUTION)を始めて1年くらいしてから、なんとなく自分のソロを作りたいなとは思っていました。ただ、その頃は構想自体もはっきりしていなかったですし、プロデューサーを立ててやる感じでもないなと思っていたので、セルフ・プロデュースをやるって考えても、まだまだ自分の力量が足りていないなと思っていたこともあって、ソロ・アルバムの構想は浮かんでは消えを繰り返した感じでした。チョパレボではベースが前に出て、本当に“ベースが主役”というのが一番にあったんですけど、自分のソロでは“作曲”の部分により重きを置きたいなとも考えていて、曲をまとめる力も、もっと身につけたいと思っていたんですね。それが、ここ数年くらいで、ベースが中心にいつつも楽曲として成り立っているものの方向性がなんとなく見え出してきたんです。あとは、今作にもゲストで参加していただいた是永巧一(g)さんや梁邦彦(p)さんが、“こういう時代だからこそ、作品を作って残していくことをしないといけない”とおっしゃっていて、それにあと押しされた部分もありますね。

━━村田さんはI.T.Rでも6月にアルバムをリリースしていますが、制作は同時進行だったんですか?

 もともとはソロのほうを、特にリリースの時期も決めずに制作していたんです。そのうちに、I.T.Rが結成10周年ということで何かリリースをしたいという話になり、どちらかというと急遽、I.T.Rのアルバムに取りかかったんですね。でもI.T.Rがあったおかげで、逆にソロもこのあたりに出そうと照準を定めることができたのでよかったです。ソロのほうは約1年をかけて楽曲の方向性やアレンジ、人選といった部分を吟味できたので、そういう意味では心身ともにバランスのいいものになりましたね。

━━総勢18名のゲストを迎えていますが、これも最初から考えていたんですか?

 いや、実は最初はゲストは2、3人くらいで、そのほかは自分でやろうと思っていたんです。今作でも、僕はベース以外にもギターやドラムのプログラミング、簡単なシンセは自分でやっているんですけど、そこに足りない楽器をちょっとお願いしようかなって。ただ制作しているうちに欲が出てきたというか。特に昨年はコロナ禍でライヴができない状況ということもあり、僕も含めて、周りのミュージシャンのエネルギーがすごく強くなっているなと感じていたんです。だったら作品のためにもお願いしてみようかなと。それでそれぞれの楽曲を誰に演奏してもらったらいいかなって考えていったら、自然に18人になったというところですね。

『THE SMILING MUSIC』
Mzes Recordz/MZJZ-00002

━━ゲスト・ベーシストも複数参加していて、「Home Bass」は鳴瀬喜博さんとIKUOさんというチョパレボの面々です。

 今作のポイントって、自分の音楽のルーツを今の自分として表現するということだったんです。そうなると鳴瀬さんというのは欠かせない存在で。この曲自体は、昨年の“ステイ・ホーム”期間にみんなに楽しんでもらえたらなということで、チョパレボのYouTubeチャンネルにアップしたものなんです。僕が曲を作って、そこに鳴瀬さんとIKUOさんに入ってもらって。本当は、来年がチョパレボの10周年なので、来年に向けて取っておこうかなとも思ったんですけどね(笑)。

━━チョパレボでの作品との線引きというのは意識しましたか?

 YouTubeにアップしたものに大サビ部分を加えているんですけど、その大サビ部分は僕がギター・シンセでメロディを入れているんです。それが自分のソロ・アルバムへの答えというか。イントロから前半戦はチョパレボのメンバーで盛り上げて、ソロもチョパレボらしくやっているんですけど、その大サビ部分では鳴瀬さんとIKUOさんにはお休みしてもらって、僕の世界に持っていっている。これがチョパレボなら、大サビもベースとシンセでアレンジしたと思うんですけど、ベースにこだわらず、曲として昇華できるものを当て込んだというか。曲順として最後にしているのも、ある種、ボーナス・トラックというか、9曲僕の作品を楽しんでもらって、お祭り騒ぎのボーナス・トラックでチョパレボが出てきたみたいなストーリーは、結果としてよかったと思っています。

━━「Lion & Cats -TM’s Jam-」は、タイトルにもあるT.M.スティーヴンスと日野“JINO”賢二さんとのセッションになっています。

 僕はいろんなベース・ヒーローに影響を受けていますけど、そのなかでもT.M.スティーヴンスさんって本当に大きくて。ワーウィックというつながりもあって、すごく仲良くしてもらっていて、誕生日にはメッセージ・カードを送ってくれたりしていたんです。彼がライオンのベースで僕が猫のベースを使っていたから、“俺とお前でライオン&キャットっていうユニットができるな”って言ってもらったり。また賢二さんは、僕がまだ福岡にいた頃にハイラム・ブロックさんに紹介してもらい、賢二さんのおかげで東京に出てこれて、今、こうやってミュージシャンをしていられるので、すごく大事な存在なんです。そのふたりにもぜひアルバムに参加してもらいたいなと思ったんですけど、どういう形がいいのかなって考えて。今、T.M.さんは認知症で、ベースを弾いていた頃のことも忘れてしまったようなんですけれど、実はチョパレボの1stアルバムでT.M.さんに1曲ゲストで参加してもらったときに大サービスで弾いてくれて、使っていないプレイがたくさん残っていたんですね。それで、T.M.さんが弾いてくれたトラックを中心にリズムをつけて、ベース・ジャムみたいなことができたら、チョパレボとはまた違う形でモンスター級の人たちのプレイを残せるなと。ソロ・アルバムの途中経過の音源を賢二さんに聴いてもらったらすごく喜んでもくれたし、そのなかでT.M.さんの話をしたら、日野さんにとってもT.M.さんは小さい頃からお世話になっている人でもあるので、すごく理解してくれたんです。T.M.さんのお世話をしている人が賢二さんの知り合いだったので、その人とも相談をして、今回のような形が実現できました。僕と賢二さん、そしてT.M.さんの人間関係をここで形にできたのが嬉しいし、世界的に見たら小さいレベルかもしれないけど、2021年に“T.M.スティーヴンス”という素晴らしいベーシストの演奏履歴をアップデートしたいという思いもありました。

━━チョパレボの3人のカラーが明確に見える「Home Bass」とは違って、「Lion & Cats -TM’s Jam-」は、ベース・パートの割り振りが良い意味であいまいな気がしました。

 そうですね。チョパレボは3人の個性が、アンサンブルも考えつついかに爆発するかがテーマみたいなもので。一方で「Lion & Cats -TM’s Jam-」はブラック・ミュージックのスタイルで、より一体になるグルーヴというんですかね。海外のミュージシャンがツイン・ベースとかベース同士で遊んでいるのを観ても、片方がメロディを弾いているからもう一方がコードを弾くみたいな形ってあんまりないですよね。あれって、ベース・ノートだったりメロディのなかにちゃんとトーナリティを作っているから、無理にコード・バッキングをしなくてもいいということで、「Lion & Cats -TM’s Jam-」にも、あえてそういうのを入れなかったんです。そもそもT.M.さんのトラックが、ゴーストノートのバッキングとルート、刻んでいるコード・ヴォイシング、グルーヴって、ひとりですべてのことをやっているんですね。それに対して、賢二さんもボトムのベースを沈んだところで弾いてくれていますし、僕のメロディもキャッチーではありつつこの黒いグルーヴに溶け込ませたかったので、レンジ的にもメロディだからって上のほうにはしなかったところもあって。賢二さんのソロも、僕が“スキャットやベース・シンセは禁止で、素の賢二さんのプレイでお願いします”と言ったら、すぐに意図を理解してくれて、フレットレスの素晴らしいプレイをしてくれました。結果、アフリカとニューヨーク系のグルーヴの合体みたいなトラックになりましたね。

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